複雑・ファジー小説

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.14 )
日時: 2014/06/25 00:51
名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)

13話

「それにしても良かった。やっぱりキルに外を頼んで正解だったわね」

家に帰ってきたキルを迎えながら私は話しかけた。
心なしかキルはいつもより…というより初めて会った時に戻ってしまったように見えた。

「ああ…ジンは?」
「街を探してくると言って出て行ったからそろそろ帰ってくると思うわ」
「そうか…リーネとカグヤは?」
「えっ?カグヤちゃんならリーネちゃんを家に送って行ったわ。心配だから泊まるらしいけど」

キルに先に帰って来た二人の話をしていると、街を探していたジン君が帰って来た。

「おっ!キルがいるってことは見つかったのか?」
「まあな。むしろ街中を探しまわったお前の方が大変だっただろ。」

帰って来たジン君との話を聞きながら、私は夕食の用意を始めようとした。

「じゃあ私は夕食を作るから待っていてね。」
「あっ!俺今日は夕食いいよ。明日には旅を再開するからさ」
「そうなの?なんだか残念ね」
「とりあえず明日朝に挨拶にだけ来るからじゃあな!」

ジン君は手を振りながら割とあっけない感じに帰って行った。たった3日しかいなかったはずなのに、彼の存在はとっても強い印象を与えてくれた。

「そうなると今日はキルの分ね。何か食べたい物はあるかしら?」
「なら…一度だけ作ってくれたシチューを頼みたいな」
「えっ?でも…時間掛るわよ?」

正直想定していないメニューに私は驚いた。
以前に作った時はあまり食べてもらえた記憶がなかった。それに今から材料の下ごしらえ、煮込む時間を考えるとすぐに食べられるような物ではなかった。

「サクヤが迷惑でないならでいい。多少なら手伝うぞ」
「うん。それなら腕によりを掛けて作らないとね」

考えるといつもは食べたい物を聞いても何でもいいとしか言わなかったキルが、しっかりとしたリクエストをしたのは初めてだったかな。

「よし!じゃあキルにも働いてもらうからね!」
「ああ。任せろよ。」

私はキルに言うなりすぐに後ろを向いて台所に走った。
何故か感じる顔の火照りと、気を抜くと表情が強張ってしまうような感覚に私は戸惑っていた。
先に一人で台所に入った私は、何とか落ち着こうと大きく深呼吸をしてから材料の用意を始めた。

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「何かあったのかあいつ?」

キルは普段と少し違うサクヤの様子に疑問を感じながら台所に向かい、中に入るとサクヤはいつもと変わらない様子で材料を用意していた。

「キル包丁使える?野菜を切ってもらっていい?」
「切ればいいんだろ?」

キルは包丁を手に取り用意された野菜を切り始め、サクヤは煮込むための道具を用意し始めた。
ジャガイモ、玉ねぎ、人参を一口台に切り分け、鶏肉を切り終えた頃には調理の準備が完了していた。

「よし。後は私に任せて」
「…というかこんな適当に切って大丈夫か?」
「大丈夫。これくらい問題ないよ。じゃあ少し待っていてね。」

キルの切った食材は大きさがバラバラで調理が難しそうに見えたが、その心配はなくサクヤはクリームシチューを完成させた。

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「キル?もう大丈夫?」
「ああ。うまかったよ。」

キルはいつもの倍は食べたのではないかと考えるほどの食欲を見せた。
いつも見せないような姿を見せてくれるキルに私は何故か嬉しさを感じた。
最初に会った時に比べて雰囲気は変わってきていたけど、本質の変化はあまりなかったように見えたから。

「今日はたくさん食べるけどどうかしたの?」
「いや…このシチューは本当にうまかったからな」

キルからの言葉は素直にうれしかった。
いつからかな…。私がこの人のことばかり考えるようになったのは。
キルと一緒に過ごして、楽しいと思ったのはいつからだろう。多分最初から…あの夜に会ったときから私はきっと…。

「よかった。じゃあまた作ってあげる。キルの好物がわかったからね。」
「いや…今日で最後だ」
「え?」

キルはゆっくりと立ち上がり、テーブルの上で横になるクロの頭を撫でた。私の頭の中ではキルが今何を言ったのか理解しようと必死だった。

「最後って?どういうこと」
「この町から離れることになったんだ。」

キルが街を出ていく。

それは初めて、キルに会ったときに戻ることを表していると私は悟った。
だから私は聞かずにはいられなかった。

「また…誰かを…人を殺すの?」

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サクヤからの問いかけにキルは黙ったままだった。サクヤは普段見せないような、しっかりとした表情でキルに視線を向けた。

「見えすぎるのも考えものだな」
「何を言っているの?」

キルにはサクヤの表情から別のものが見えていた。瞳に今にも浮かびそうな涙を。

「俺は表で生きる人間じゃない。だから俺を忘れて普通に暮らせ」
「できるわけないわ!」

サクヤの強い口調にキルは僅かに怯んだ。
サクヤがここまで感情を露わにしたのは初めてだった。その瞳には大粒の涙が溜まったままでキルに向けられていた。

「忘れられるわけないでしょ?人を殺してあんなに悲しそうにしていた瞳を…私達にこんなに思い出を残してくれたあなたを…」
「なら…仕方ないな…悪いが俺が暗殺者だと知っているなら死んでもらうぞ。」

キルは銃を抜き、サクヤの額に向けた。
そのまま瞳を閉じたサクヤに僅かにキルは驚いた。
逃げるわけでもなく、命乞いをするわけでもない相手を見たのは初めてだった。
いつも以上に重く感じた銃を向けたまま小さく言葉を発した。

「最後に言うことはあるか?」

キルの言葉にサクヤはゆっくりと瞳を開いた。
その表情はいつもの皆が大好きだった笑顔だった。

「キル…好きだよ…」

サクヤの言葉とともにキルは銃を発砲した。

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フワフワとしたまどろみの中で眩しい光が私を覚醒させた。ゆっくりと体を起こすと私はベッドに眠っていた。

「お姉ちゃん!大丈夫!?」

聞こえたのはカグヤちゃんの声だった。

夢?

混乱している私の手をカグヤちゃんが握ってくれたことによって感じた温もりが、夢ではないことを私に教えてくれた。

「カグヤちゃん?…何で?」
「応急処置が出来ていたからよかったみたい。2日は寝ていたんじゃないかしら?」

2日も寝ていたということを聞いてから曖昧な記憶を戻そうとしていた。
確かキルに撃たれて…意識がなくなって…。

「キル…カグヤちゃん!キルは?」
「えっ?えっと…キルは…これ…」

キルのことを聞いてカグヤちゃんは、表情を曇らせてゆっくりと小さなメモを差し出した。
ゆっくりと手を出して中を開くと中には一言だけ言葉が残されていた。

「またな…?」

読み上げるとともに頬を伝わる熱いものを感じた。
感情が抑えられないような感覚に必死に耐えようにも抑えられなかった。

「う…うう…キル…」
「お姉ちゃん…きっと帰ってくるよ…。だから…」

カグヤちゃんの言葉が私の耐えていた感情を崩した。抑えていた感情が爆発したように私は泣いた。涙が枯れ切ってしまうほどの勢いで。
今日すべての涙を流し切るんだ。
明日から笑顔になれるように…キルが帰ってきてから笑顔で迎えられるように…。

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キルがいなくなってから一年が経った。

私はいつものようにベッドから飛び起きて茶髪の髪を纏めた。
服はいつものように薄い 水色を主にしたフリル付きの上着に半ズボン。そういえばあまり足を出すものじゃないって怒られたから黒のソックスを履いて最後に羽が付いた最近お気に入りの茶色のチロリアン帽子で…

「よし!準備完了!さあ!行こうキル!」

私の声を聞き青い毛並みのウルフ、キルは起き上がった。
扉を開けて、朝日を感じながら誰もいない家に向かって一度視線を向けた。

「さあ…錬金術師リーネの新しい一日だよキル!じゃあ行ってきます!」

私は新しいキルとともに街を走り始めた。
今日から錬金術師としてお仕事をしていくために。