複雑・ファジー小説

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.15 )
日時: 2014/06/25 02:59
名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)

第1話

朝の眩しい太陽の光を浴び私は家を出た。同時にウルフのキルも家を飛び出した。
今日から街の役所でのお仕事をすることになっていることから遅刻をするわけにはいかなかった。

「あら?おはようリーネちゃん。キルもおはよう」

真っ先に聞こえてきたのはサクヤお姉ちゃんの声。
いつも私がお世話になっていて、友達のカグヤちゃんのお姉さん。
サクヤお姉ちゃんは以前、悲しいことがあったって聞いたけど私にはよく分らなかった。
それでも今では笑顔が絶えなくて、近所では評判なお姉さん。

「おはようサクヤお姉ちゃん!」
「今日からお仕事?頑張ってね!」
「うん!サクヤお姉ちゃんもお仕事がんばってね!」

私は手を大きく振ってから一緒に連れたキルと共に通勤経路の市場を走った。

市場の周りからは馴染み深い店員のおじさんやおばさんが声を掛けてくれて、一人一人に手を振りながら挨拶を繰り返し、半年以上通い詰めた交番の前に到着した。
規模自体は大きくなく、中は机が一つと資料などが置いてある。
そしてその一つだけの机に座っているのは私のお師匠様。

「おはようございます!」
「珍しく時間通りだったな。」
「今日は初出勤だよ?私だってわきまえているよ!」
「頼むから寝坊して僕が起こしに行くというのは勘弁してくれよ。」

お師匠様の名前はフラン・リーゼル。
金髪で瞳の色はグリーンの色白。服装は白が主の軍服、ズボンを履き両手には白い手袋を付けている。 前に聞き込みで来た人で私に錬金術の可能性を見つけてくれた人。

「それじゃあ案内するから付いてこい。」
「はい!お師匠様!」
「いい加減その呼び方はやめてくれ…」

お師匠様はため息を漏らしながら交番の扉にclauseの札を掛けて歩き始め、私とキルは付いて行くようにすぐ横を歩き始めた。

「それにしても君が錬金術師か…」
「もしかして心配してくれているの?」
「街に迷惑が掛りそうで心配だ。」
「酷いよ!ちゃんとお師匠様に手取り足取り隅々まで面倒見てもらったのに…」
「頼むから誤解を招くような表現はやめてくれ…」

お師匠様が大きくため息を漏らし歩いて行くと、軽快な車輪の音が私の耳に入ってきた。

「あれ?もしかして?」

私はすぐ横の階段に視線を向けると上から飛びこんでくる影が見え、そのまま私の目の前で着地した。

「やっぱり!カグヤちゃん!」

階段から飛びこんできたのはカグヤちゃん。
サクヤお姉ちゃんの妹で私の幼馴染の友達。
最近は動き安さを重視して黒い肩出しの上着と短パン、上に肌を晒さないようにとポンチョを羽織って愛用のローラーブレードを履いている。ここ最近では黒ぶちの眼鏡を掛けて知的な感じに見えるようになった。

「あら?こんなところで道草食ってさっそくクビになった?」
「そんなことないよ!今から役所に行くの。」

相変わらずのカグヤちゃんのあいさつに私はむくれたままそっぽを向いた。
横ではお師匠様が、カグヤちゃんから距離をとってさっさと行こうとしてあっさりカグヤちゃんに捕まった。

「ちょっとフラン?挨拶とかないわけ?」
「あ…ああ…お…おはよう…か…カグヤ…」
「まったく…いい加減慣れなさいよね!」

お師匠様は女の人が苦手で役所で一緒に仕事をする人は平気だけど、カグヤちゃんはもちろんサクヤお姉ちゃんについてはまともに会話もできない。

というか私とカグヤちゃんは同い年なのに扱いに差があるのが納得できない…。

「ほら!何一人でむくれているのよ。私は帰るからあんたも頑張りなさいよ」
「うん。じゃあまた夜に行くね?」
「はいはい。なら今夜は初出勤のお祝いをしてあげるわ」

お師匠様をからかってから私の頭をポンポンと叩いて、カグヤちゃんはローラーブレードで帰って行った。
カグヤちゃんがいなくなるとキルが私の足を前足で叩き、公園の時計を私に教えてくれた。

「あっ!そろそろ時間がぎりぎりになっているよ!」
「まずい!早くしないとリンクさんに怒られるな。」

公園に設置されている時計を見てお師匠様の言葉を聞き、遅刻した場合の状況を想像してから我先にと走り始めた。

「あっ!おい!先に行くな!」

お師匠様も後を追うように走ってきた。
足の速さでは勝てないからすぐに追いつかれてしまったけど、時間的にはギリギリで役所の前に到着した。

「ギリギリだったか…」
「よかった…間に合っ…」
「いえ…アウトですよ。」

背後から聞こえてきた声に驚き、ゆっくりと振り向く。そこにいたのは私とお師匠様がもっとも恐れていた人。
金髪の若干長髪気味な髪を後ろで纏めて白と青を主にした軍服にネクタイを身に付け、赤い瞳を鋭い目つきにフレームレスの眼鏡のせいで如何にも気難しそうな風貌。年齢は多分お師匠様より少し年上。

この人はリンクさん。役所の経理の仕事をしていて時間と予算については細かい。

「リンクさん!でも約束の時間には今なったばかりですよ!」
「集合は5分前が基本ですよ。フランがいながらまったく…」
「す…すみません」

私達が怒られている間に、欠伸をしているキルに視線を向けるとため息を漏らしてしまった

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ようやく説教が終わりお師匠様は交番に戻り、私とキルはリンクさんに案内されて、一つの扉の前に立ち軽くノックしてからゆっくりと扉を開いた。

「失礼します。所長」
「御苦労リンク。アニミス君もよく来たね」

部屋に入り真っ先に眼に入ったのは大きな机の前に座る立派な髭を持った中年の人物。

「あっ…こんにちはレクス所長。」

黒い立派な軍服に身を包んだ人はレクス所長。
この役所の中で一番偉い人で町の様々な取り決めや管理などをする人。私がここでお仕事するための手続きをしてくれたのもこの人のおかげ。

「リンク。ありがとう。後はこちらで対応しよう。」
「分かりました。所長…サボりはいけませんよ?」

リンクさんがこう言うのは所長にはサボり癖があるから。
私に負けずサボり癖があると皆は言っているから耳が痛い私は、大きくため息を漏らしキルも理解しているように笑っていた

「大丈夫ですよ!そのために私がいるんですから!」

背後から聞こえたのは女性の声。
ストレートの桃色の長髪に特徴的な黄色の瞳、青と赤を主にした軍服と膝丈のスカート。片手には分厚い本を持つ大人びた風貌のこの人はフィオナさん。私の一つ上のお姉さんなのにすごく大人っぽくて魔法が得意。所長の秘書も兼任している凄い人。

「フィオナさん!こんにちは!」
「こんにちはリーネちゃん。所長へのあいさつなんかいいのよ?」
「なんかとは酷いぞフィオナ君。」
「所長の場合は甘やかすと調子に乗りますからいいです。」

所長とフィオナさんのやり取りは、この役所の名物でやり取りだけ見ていると、どちらが所長か分からない。
私はもちろんリンクさんもこのやり取りには笑ってしまう。

「所長への予定の前に、リーネちゃんはいつも通り仕事部屋に行っていてね?シンちゃんとバート君も待っているから。お仕事は後で私が伝えに行きます」
「分かりました!じゃあ待っている間に挨拶をしてきます。」

私は三人に対して頭を下げてから部屋の外に出て、すぐにキルを連れて仕事部屋に向かった。
いつものように中に入ると普段通りのあいさつが聞こえた。

「おはようリーネ、キル。」

茶髪のショートカットで緑色の瞳。普通に見ると男か女か分からない顔立ち。首にはゴーグルを下げ一緒に赤いマフラーを巻き、灰色のズボンに緑色のジャケット。
この子はシンちゃん。少し前に街にやってきた人でいろいろと器用な子。年齢は私より3つ下。

「所長へのあいさつはできたか?」

真っ先に背中に背負った大剣に目が行ってしまい、次に赤の短髪と騎士風の黒い鎧が目に付く。腰には別の剣と銃を下げているこの人はバードさん。
私の仕事で外に行く時などに護衛をしてくれた人で、前に聞いた時は確かサクヤお姉ちゃんの二つ上だったかな。

「挨拶くらいできたよ!失礼しちゃうよ!」
「そうだよ。いくらリーネでも挨拶くらいできるよね。」
「ちょっとシンちゃん!どういう意味!」

シンちゃんの言葉に対して笑うバード君とキルにとりあえず手近にいたキルの頭をポカリと叩き、そんな中でフィオナさんが部屋に入ってきた。

「何をしているの?」
「リーネがキルを苛めています」

フィオナさんの問いかけにシンちゃんが当たり前のように答え、その瞬間私の頭に鉄拳が降り注いだ。

「痛い…」
「キルを苛めたリーネちゃんが悪い!」

フィオナさんは動物が好きで特にキルがお気に入り。私は頭を押さえながら本を開いたフィオナさんの前に3人で並んだ。

「さて!では記念すべき最初の仕事を発表しましょう」

今までお手伝いだけだった私の初めての仕事。
どんな大きな仕事か私は緊張したまま聞き入った。

「とりあえずリーネちゃんの武器作りから始めましょうか」
「えっ?」

まったく予想していなかった内容に私達は唖然としてしまった。