複雑・ファジー小説
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.17 )
- 日時: 2014/06/25 15:00
- 名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)
第2話
「武器…ですか?」
フィオナさんの唐突なお題に私は意味が分からず首を傾げた。
「そう。これからはバード君がいつでもいるとは限らないし、一人で材料採取やお使いにも行ってもらうのに大変ですからね」
「僕も戦闘はできますが…やはり戦闘要員は欲しいですからね」
フィオナさんとシンちゃんに言われて、これまでの外での戦闘を思い出していた。
考えるとバードさんに守ってもらったり、シンちゃんにサポートしてもらったりとお世話になったことしか思いつかなかった。
「まあ俺も後衛がいてくれると助かるよな」
「僕が後衛だと不満そうですね」
「いや…そういうつもりじゃ…」
私が考えごとをしている間に二人の言葉を聞き、フィオナさんも腕組をして笑っていた。
「でも何がいいかな?私の身体能力だと後衛は確定だけど…魔法は使えないし…」
「なら錬金術師がみんな使う杖なんてどう?」
考え込んでいる私に対して、フィオナさんは片手に持つ本をペラペラとめくりながら話していく。
フィオナさんが持つ本は様々な情報が書かれているらしいけど私には何が書いているか分からない。
フィオナさんが言うには自分にしか読むことが出来ないといっていた。
「杖か…しかしそんなもので戦えるようなものなのか?」
「それを言ったら私だってこの本で戦っているわよ?せっかくだし今後のことも兼ねて講義をしましょうか」
「こ…講義…」
「そう。リーネちゃんのためだから、しっかり聞くように!」
バードさんの問いかけが気になったのか、それとも私の講義に対する反応が気になったのか、フィオナさんのスイッチが入ったことにより諦めたバードさんは椅子に座り、シンちゃんは黒板を用意してフィオナさんの近くに設置した。
ここまで用意されたら私も観念して椅子に座った。
「今回は関係ないけどバード君みたいな前衛なら剣、斧が普通ね。最前線だから防御も攻撃も重視しないとね。他にも拳やナイフ、短剣、槍もあるけど、そのあたりはシンちゃんみたいに、防御は低いけどすばやくうごける中衛の人が使う場合が多いですね。」
「じゃあ後衛は撃たれ弱くて動きが遅い人がなるんですか?」
フィオナさんの説明を聞いて自分が当てはまるポジションのことを考えた。
私の問いかけに対してフィオナさんはがっくりと肩を落として、バードさんは声を出して笑い、シンちゃんに至っては顔を隠しているけど絶対笑っている…。
「身も蓋もないけどその通りです…。後衛はまず私のような魔法使いが魔術書、杖が基本ですね。魔法が使えない人は銃とか弓がよくあります。」
「じゃあ私は弓とか銃がいいと思うけど…」
「それはやめろ!」
「やめてください。」
私の提案に対しバードさんはおろかシンちゃんにまで却下された。
何も声を合わせなくてもいいのに…。
「あなたに銃を預けたら僕達に飛んできそうです」
「まったくだ。仲間に殺されるのはごめんだぞ…」
失礼なことをいう二人に対してむくれてそっぽを向く私に、フィオナさんは手を叩いて話を戻した。
「はいはい。じゃあリーネちゃんに杖を進めた理由だけど錬金術をするには確かその練成対象に触れる必要があるのよね?」
「はい。でもそれが武器と何か関係があるんですか?」
「大ありよ?錬金術師が使う杖は例えば杖で触れているものを練成対象に出来るらしいわよ?他にも力を増大できるし、いろいろ使い方があります。」
フィオナさんはポンと本を閉じながら話をしていき、懐から懐中時計を取り出して時間を確認し始めた。
「あら?そろそろ所長がサボり始めるころですね。では武器作成期間は3日。早くできる分にはいいからできたら見せに来てくださいね!」
じっくり講義が出来たからか、満足した様子で私達に大きく手を振ってから部屋を出て行った。
講義が終わったことで陰に隠れて眠っていた様子のキルは欠伸をしながら姿を現した。
「なんだ?お前今まで隠れていたのかよ?いい睡眠になったな。」
「それよりリーネの武器をどうにかしましょう。」
「どうにかと言っても…杖なんて作ったことないよ…」
私は周りに置かれている資料に一度視線を向けてからため息をして呟いた。
こういったジャンルの話にはバードさんは役に立たないしこの場合頼りになるのは…。
「ではカグヤに聞くのはいかがですか?彼女は武器については詳しいですからね」
「あいつか…まあ…あいつなら確かにそうかもな」
「なら行きましょうかリーネ」
「うん分かった。」
さっさと話しを進めていくシンちゃんに私は付いていき、バードさんもキルを引っ張りながらついてきた。
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「あらリーネちゃん?お仕事は終わったの?」
カグヤちゃんの家まで行くと出迎えてくれたのはサクヤお姉ちゃんだった。
「違うよ。カグヤちゃんに用事が合って来たんだけどいる?」
「カグヤちゃんなら裏庭にいるわよ?」
「ありがとうございますサクヤさん」
お礼を言うシンちゃんに対してサクヤお姉ちゃんはニコニコとしながら答え、バードさんに一度視線を向けた。
「バードさんもお仕事ですか?今後もリーネちゃんをよろしくお願いしますね?」
「分かりました。というかこいつを放って置いたらカグヤに怒られますからね」
冗談交じりに話すバードさんとキルを置いて私達は裏庭に向かった。
裏庭にはいつものように銃のメンテナンスをするカグヤちゃんの姿があった。仕事中だからか軽装で銃を分解して掃除をしていた。
「カグヤちゃん!」
「こんにちはカグヤ」
私達の声に反応してカグヤちゃんは手を止めて視線を向けてから口元に笑みを浮かべていた。
「てっきりクビになったかと思ったけどシンがいるということは違うみたいね。あんた達がいるということはバードも来ているわけ?」
「いて悪いのかよ?」
カグヤちゃんが話し終えた辺りでバードさんが遅れて裏庭にやってきた。
「あれ?キルは?」
「サクヤさんに預けて来たよ。別に外に行かないし平気だろ?」
「それより何の用事かしら?武器のメンテナンスとか?」
私はここまでの経緯を話していった。
武具類に詳しいカグヤちゃんならいいアドバイスがもらえるかと思ったけど予想に反して困った様子を見せた。
「杖か…私の専門外ね…魔力を使う武具になると魔道士とかが詳しいわよ?」
「困りましたね…フィオナさんは忙しいからこれ以上聞き回るわけにいきませんし・・・」
「しかし他にそういうのに詳しそうな奴はいないからな。」
シンちゃんとバードさんが考え込む中、私は一つ思い当たる可能性を思い出した。
「そうだ…お父さんの残した資料の中で杖の話があった気がするよ…」
「おいおい…そんなのがあったなら早く言えよ。」
「だって私も今思い出したんだもん!じゃあ…ちょっと私は家に戻ってくるから二人は待っていてね」
バードさんに対してむくれながら話した後、二人を置いて私は一度自宅に戻って行った。
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リーネが家に向かっていく様子を見てから、僕はせっかく時間が出来たからと腰に下げた黒いマグナムを取り出した。
「すみませんカグヤ。せっかくだからメンテナンスをいいですか?」
「いいわよ。これは今日中じゃないし。」
カグヤは僕の銃を手に取ると鼻歌交じりに銃を分解し始めた。
本当に彼女は銃が好きなんだと考えながら近くの椅子に座りバードさんも近くの木に寄り掛った。
「それにしてもキルの奴リーネとサクヤには本当に懐いているよな。俺なんか最初はいきなり噛まれたからな」
「僕は噛まれませんでしたよ?バードさんの接し方が悪かったんですよ」
僕とバードさんのやり取りに対してカグヤは表情を一度曇らせた。
「お姉ちゃんに取ってキルは…あの名前には深い意味があるのよ。」
「深い意味?」
カグヤの言葉に対して僕たちは首を傾げた。
バードさんは分からないけど、僕は街に来て間もないから過去のサクヤさんやカグヤはもちろんリーネについても分からなかった。
「まあ…あんた達はリーネの同僚になる訳だし話しておこうかしら。私達にあった話とキルという名前についてね」
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「あった!この本だ!」
私は家の地下室でお父さんが残した資料を探しまわっていた。
その中からようやく一冊の本を見つけた。
そこには一つの杖の作成方法が記載されていた。
そして一緒に予想していなかった用語も書かれていた。
「セレナ…?お母さん?」
私は本の中にあった内容から部屋に置いてあった一つの箱を見つけ出した。
私が手に触れた時、掛っていた鍵が突然外れた。
中を見ると先端に翼の飾りが付いた黒い杖があった。
長い間放置されていたせいで汚れてしまっていて、作りは杖としては珍しい金属製。
それでも軽くて手に馴染むような感覚を感じた。
「これが…お母さんの杖?」
私は杖と一緒に置かれていた小さな手紙を見つけた。そこに書いてあったのは今まで知らなかったお母さんのことだった。