複雑・ファジー小説
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.18 )
- 日時: 2014/06/25 15:18
- 名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)
第3話
「私が知っているキルについてのお話はここまでよ」
カグヤは1年前にあった話を聞かせてくれた。
その表情は普段リーネに見せていた…もしかしたらそれ以上に穏やかな表情をしていたかもしれない。
僕が来る前にあった出会い、出来事、そしてキルという青年が残してくれた思い出。
もう一人少年がいたけどあまり詳しく話さないところを見ると、カグヤにとって何か面白くない思い出があるのだというのも予想できた。
「話は分かったが…なんでそいつとあのウルフを同じ名前にしたんだ?」
「ああ…あれはリーネよ。勝手に出て行ったから帰ってきたらバカにするためだとか言っていたわ」
「安易な奴…」
カグヤの説明にバードさんは呆れたように呟いていた。
でも僕にはそれだけが理由だと思わなかった。
きっとリーネなりにサクヤさんのことを考えたんだと思う。
現にサクヤさんがキルと接しているときは本当に楽しそうだった。サクヤさんにとってあの名前は本当に大切なものであったのだと思う。
「僕も会ってみたいですね…どんな人なのか興味があります」
「そうだな。どんな奴か実際お目に掛りたいな」
「さて…出来たわよ。簡単でいいから感触を確認して頂戴」
カグヤは笑みを浮かべたまま銃の手入れを終わらせた銃を差し出した。
受け取った銃は手にしっかりと収まり申し分ない出来上がりだった。
「いい出来です。試し打ちをいいですか?」
「いいわよ。マグナムだからあの鉄板に撃って頂戴」
僕の銃はリボルバー式のマグナム銃で反動が大きく、威力が高いから普通の的の場合壊れてしまう。
そのため実践以外で試し打ちが出来るのはこの場所だけだった。
約10m先の木から吊るされている鉄板にゆっくりと銃を構え、一発発砲しその反動を受けながらも銃弾の命中具合を見て、的の中央にぶつかったことにより左右にぶれずに前後に揺れる的を確認した。
「お見事。調子は悪くないみたいね」
「ええ。いい仕事でした」
銃を納めてからここに来てずいぶん時間が経過していることに気付いた。
空はいつの間にか赤く染まり始め夕暮れ模様が見えていた。
「リーネの奴遅いな。まだかかるのか…」
「あの子が地下に籠ったら遅いわよ?待つなら夕食用意してあげるわよ。」
「おっ!ということはサクヤさんの手料理が食べられるのか?」
「残念ながら今日の当番は私よ」
バードさんとカグヤのにぎやかなやり取りの話を聞きながら、僕は隣のリーネの家に視線を向けた。
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「手紙?この杖・・・やっぱりお母さんの・・・」
手紙に書かれていたのはお母さんからのメッセージだった。私にはお母さんの記憶が殆どなかった。
覚えていたのは私を優しく抱いてくれたあの感触
私の頭を優しく撫でてくれた手
小さく私は呟き手紙を読み始めた。
リーネへ
これを読んでいるということは、私はもうこの世にいないのかな
この杖は貴女に直接渡しかったけどそれが叶わなかった時のためにこの手紙を残すね
リーネがお父さんやお母さんみたいに錬金術師を目指す時この杖を使ってね
私達の代わりにきっと貴女を守ってくれるから
私達の代わりに貴女のそばにいてくれるから
私達の代わりに貴女を見守ってくれるから
だから貴女は自分のやりたいことをしてね。お父さんもお母さんも応援しているからね。
「お母さん…ありがとう…」
頬を伝う熱いものに私は瞳を閉じて杖を抱き締めた。今はお父さんとお母さんが近くにいてくれていると思ったから…。
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「しかし美味いな…なんか…意外だ…」
「あんた…ぶっとばすわよ?」
バードさんとカグヤのやり取りにサクヤさんは笑みを浮かべたままパンをちぎりキルに与え、この家で飼っている黒猫であるクロは 僕の隣で皿に入れられたミルクを飲んでいた。
「でも正直カグヤは器用ですね」
武具の扱いもそうだけど料理に関してもしっかりとした仕事をしてくれる。
もっとも、他のことはあの飽きっぽさからあまり褒められないけど、それは言わないでおこう。
「まあ食事はね。毎日同じようなものばかり食べると飽きるじゃない」
「おかげで毎回色々食べられて嬉しいわ」
にこやかに話していくカグヤとサクヤさんの話を聞いてカグヤの飽きっぽさがこんなところで生かされているんだと感心してしまった。
そんな中で呼び鈴が部屋の中に響いた。
「こんばんは〜みんないる?」
「リーネね。開いているから入ってきなさい!」
カグヤの声とともに扉が開く音とドタドタという足音が響き、現れたリーネは黒く変色してしまっている杖を片手に持ってきた。
「あら?もしかしてそれがリーネちゃんの杖なの?」
「ううん…これはお母さんの杖だよ。」
杖の説明を聞いて僕はリーネが持つ杖に視線を向けた。
あまり見ないタイプの金属製なのは分かるものの特に特別な杖には見えず、正直普通の棒の方がまだマシな印象を受けた。
「へえ…でもボロボロじゃない…そんな杖使えるわけ?」
僕の考えていたことを殆ど直訳して聞いてくれたカグヤに小さく笑ってしまった。
「もちろんこのままだと使えないよ…お母さんとお父さんのメモにこの杖を使えるようにする方法が書いてあったの。」
リーネはテーブルの上に杖の元々の設計図らしいものを広げた。
それを見ていくと現状はただの外観だけが完成しているもので杖として機能はしないこと、完成させるのにはさらに素材と錬金術が必要だということが分かった。
「と言っても…一個だけだな…というか水晶竜の角ってなんだよ?」
「水晶竜って昔絶滅したっていう幻の竜だったかしら?お姉ちゃん知っている?」
「ううん。聞いたことがないわね…代用品とかはないの?」
まったく聞いたことがない素材だったこともあり正直これといったアドバイスはできそうになかった。
カグヤやサクヤさんも聞いたことがないようだった。
「役所の資料室なんか良くないか?もしかしたらヒントなんかあるかもしれないぞ」
「バードさんにしては的確なアドバイスですね」
「うるせえよ!それより3日しかないんだから方針は早めに決めないとだめだからな」
バードさんは何も考えてないようでしっかり考えているから助かる。
僕とリーネの補助、前衛としての仕事も僕が知る限り一番だ。調子に乗るから実際には言わないけど…。
「じゃあ明日は役所の資料室に集合だね!遅刻は駄目だよ!」
「どう考えても一番心配なのはあんたでしょ!」
「ええ!?そ…そんなことないよ!」
リーネとカグヤのやり取りを見てサクヤさんやバードさんは笑っていた。僕も何となく表情が緩んでしまった感覚を感じた。
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いつものように私はキルを連れて役所に向かってキルと一緒に走った。いつもと違うのは背中に掛けた杖。
役所に着いて早速向かったのは資料室。いつもは殆ど人がいないけど今日は私とキル、シンちゃんにバードさんで調べ物。
「水晶竜って…これですね。」
「なんだ?もう見つけたのか?」
早々と情報を見つけたのはシンちゃん。見つけた内容は水晶竜の詳細だった。
水晶竜は全身をクリスタルに包んだ一本角のドラゴン。その体の水晶は特殊で魔法等を吸収して自らの栄養にし、その角は魔法力を蓄積していることから魔法力を引き上げるブースターとして最適な材料だった。ただし高度も非常に高いことから加工が出来るのは一部の錬金術師だけだということだった。そして水晶竜はすでに絶滅していると記述されていた。
「絶滅ってことは…もう完成は無理なんじゃないか?」
「いえ…その代用品になら心当たりがあります。」
「えっ?そうなの?」
シンちゃんの話を聞いて私は首を傾げた。
そのままシンちゃんは立ち上がって一冊の本を取り出した。それにはこの町周辺でとれる鉱石について書かれていた。
「この中から気になったのはこの魔石です。材料の硬度は下がりますがおそらく問題はないと思います。」
「でもこんな石どこで取れるんだ?」
「もしかして…」
私には一か所だけ覚えがあった。
それはお師匠様との修行の際に一度だけ行った鉱山。あるエリアまで行ってからこの先はまだ早いからと引き返した地点があった。
その奥にはキラキラと光る石がいくつも見えた気がした。
「ええ…水晶鉱山です。あそこの奥に恐らく手頃な石があると思います」
「なら早めに出発した方がいいな。あまり遅くなると帰れなくなるからな」
「うん!じゃあ私達3人とキルで大丈夫かな?」
人数を確認していきそこからが大変だった。
まずはリンクさんへの外出許可の申請、危険な場所に乗り込むことから回復薬や食料の用意。鉱山の入口に到着したころにはお昼を回っていた。
「用意はできているか?」
「僕は問題ありませんよ?」
「私もキルも大丈夫だよ!」
私達は互いの装備や荷物を確認してからいつも用に一番前にバードさんそこからシンちゃん、私、キルの順番で辺りを警戒していきながら鉱山へと足を踏み入れて行った。