複雑・ファジー小説

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.19 )
日時: 2014/06/25 15:39
名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)

第4話

暗い坑道をランプで私が照らしていきながら、辺りにある鉱石などを採取して進んでいった。

「それにしても何もいないよな」
「まあ僕としてはその方が楽でいいけど…」

シンちゃんらしい言葉に私は小さく笑い、妙に辺りを警戒している様子のキルに視線を向けた。
特に変わった様子もないようには見えたけど一度足を止めた。

「どうかしましたか?」
「えっと…キルの様子がおかしいから…」

私はキルの前でしゃがみ様子を伺った。
もしかしてこの坑道自体に何か私達が知らないようなことがあるのかな?

「ん?おいリーネ。もしかしてあの分かれ道か?」
「えっ?」

私は視線をバードさんが指さした方向に向けた。
そこにはランプで照らしたわけでもないのに光を放っているものが見えた。すぐにシンちゃんは走り発光源を確認した。

「これは…水晶ですね…」
「水晶?こんなものあったんだな」
「えっと…古くからは水精とも言われる石だよね。でも魔石というわけではないよね?それに何で勝手に光ったんだろ?」

落ちていた水晶を見てから以前に進まなかった道に視線を向けた。

「光っていますね…。」
「そうだな…それにフランが注意したということはここからが本番なんだろ?」
「多分…」

私達はもう一度お互いの確認をした。
準備の確認ではなく危険な場所に足を踏み入れようとする意志の確認を…

------------------------------------------------

「魔力が二つか…まさかこんな所に来る奴がいるなんてな」

白銀の騎士の風貌な青年は腰を下ろしていた水晶から立ち上がった。
年齢は20代前半程で蒼い短髪。背中には赤いマントを装備しその上に一本の大剣を背負っていた。

「ああ…そろそろ退散しないとな。」

青年は一人言葉を口にして歩を進めた。
その周りには何体もの魔物たちが倒された状態で転がっていた。

「何だ?……おい…待てよ…」

青年は誰かと話すようにしながら侵入者の正体を確認しようと入口に向かって歩いて行った。

------------------------------------------------

「さっきは暇だったけどここは面倒だな…」

バードさんは愚痴りながら再び襲って来たクリスタルを体に纏ったウルフを背中の大剣で薙ぎ払った。
その後ろには同様にクリスタルを纏った鳥の魔物とクリスタルそのものがいくつか集まった状態で浮いた魔物が姿を見せていた。

「エレメントは僕が叩きますから他はお願いします」
「うん!キル!お願い!」

私の声とともにキルは周りの水晶の壁を蹴って高く跳躍して鳥を前足で叩き落していき、それを補助するようにシンちゃんは銃で一つずつ確実にエレメントと呼ばれる水晶の塊を撃ち落としていった。

「バードさん!それで終わりですよ!」
「分かっている!」

バードさんが最後の魔物を腰に納めた帯剣を使って斬り隙が出来たところをシンちゃんが銃で撃ち抜き魔物を撃退した。

「ふう…明らかに外の魔物より手ごわいな。」
「恐らくこの環境が魔物を強化したんでしょうね。」

剣を納めながら倒した魔物を確認するバードさんに対して、手頃な水晶を椅子の代わりにして座るシンちゃんは銃に弾を込めていた。

「でも…手ごわいだけじゃなくて多くないかな?まだ入って一時間は経っていないのに5回は戦ったよ?」
「多めに薬とか持ってきてよかったな」

以前私が襲われた時に対峙したウルフやグリズリーまでなら今の私達で殆どダメージを受けることなく追い払えるのに、バードさんが回復薬を服用しているということは言うほど楽な戦闘ではないことが分かった。

「しかしこんな場所があるなら帰った後に報告の必要がありますね」
「げっ…。報告書なんて面倒だぞ…」
「いいですよ…バードさんに任せたら面倒だから僕が書きます…」
「それはそれでなんか頭に来るな…」

二人の会話を見て笑ってから進む先の道に視線を向けた。
広い空間となっている大部屋のようなこの場所は辺りを見回せることから危険も察知しやすくて一先ずの休憩にはちょうど良かった。

「これだけあれば、手頃な物がすぐに見つかると思いましたが、なかなか難しそうですね」
「うん…そこまで大きくなくていいのに…」

私は杖を取り出して先端にある翼の装飾部分の中央部にある窪みに視線を向けた。
杖の設計図を見る限りでは、この窪みに加工した鉱石をはめ込むのは分かっていたけど予想より難しかった。

「まあそんな顔するなよ。ギリギリまでは粘るから安心しろよ」
「いえ…むしろもう少し探したら一度戻るべきですね」

シンちゃんの意見に対して反論しようとするバードさんに対して、すぐに手持ちの銃弾の入れ物を見せた。中身は半分近くまで減った状態だった。

「バードさんは大丈夫でも僕の銃弾が持ちそうにありません。」
「そういうことかよ…。ずいぶん消費しているな…」
「仕方ないよ。シンちゃんのポジションはどうしても消費が激しいから。キルも補助しているけど全部は無理だからね」

疲れた様子を見せるキルの頭を撫でて二人に笑いかけ、バードさんも納得したのか軽く息を付いた。

「確かにシンまで戦えなくなったらとても守りきれないからな」
「バードさんに守ってもらうのが嫌なだけですけど…」
「それが本音か!?」

二人のやり取りが私は好きだった。
まるで本当の兄妹みたいで、信頼し合っているからこそお互いを包み隠さずに接することが出来るんだと思う。
その時、部屋の中心に大きな魔法陣が部屋の中央に光を発して現れた。

「えっ?何?」
「あれは…シン…まさか…」
「ええ…召喚術ですね…」

二人の言葉の意味を聞こうとしたが必要はなかった。光が収まると同時に水晶でできた手足、それらの中心にはクリスタルでできた体、肩には2つの砲台がそれぞれに搭載、一つの鈍い光を放つ頭。身の丈は大体15mはありそうだった。

「ゴーレムですか…本来は魔法で叩くものですが…」
「無理だな…今は魔法が使える奴がいない…」
「じゃあ逃げた方がいいかな?」

私達が戦闘態勢に入りながら話をしていた時ゴーレムの肩にある砲台が光り始めた。

「っ!二人とも下がれ!」

バードさんの言葉とともにシンちゃんと私は後ろに下がり、バードさんもそのまま後ろに下がった。同時に一直線の光が放たれてバードさんを飲み込むのが目に入った。

「バードさん!」

思わず叫んだ私に答えるように、光の中から飛び出してきたバードさんはゴーレムの足元に移動し、背中の剣を抜いて横に振り払った。

「くっ…固いか…!」

剣を弾くゴーレムの体にバードさんは下がって、いつの間にか水晶の高台にまで移動していたシンちゃんはさっきまでとは別の銃を抜いた。同時に発砲音が響いたもののゴーレムには全くダメージが与えられていないようだった。

「マグナムでも傷一つないとなると…まずいですね…」

高台を飛びおりたシンちゃんの言葉を聞き二人では全くダメージを与えられそうにないことが分かった。

「じゃあ…逃げた方が…」
「それは無理だな…」

回復薬を服用しながらバードさんは私達が入ってきた入口を指さした。
そこにはさっきの砲台によってできたがれきの山だった。

「出口を塞がれたから逃げられませんね。」
「じゃあ…」
「ああ…こいつを倒してからじゃないと脱出は無理だな。」

------------------------------------------------

「侵入してきたのは二人じゃなかった?あの子は魔物だから仕方ないけど…失態だよ?」

少女は水晶を椅子にしてやや前屈みになったままゴーレムと3人と一匹を奥で見下ろしていた。
金髪のストレートな長髪に白銀の軽装な鎧を装備し腰には二本の剣を装備し年齢は10代後半くらいに見える。

「はいはい。確かにちょっと派手なものは呼んじゃったね。でも問題ないよ」

口元に微笑を浮かべたまま一人で話し、ゆっくりと立ち上がって戦闘の様子を見下ろした。
戦況は全くダメージを受けていない様子のゴーレムに対して、対峙している3人と一匹は攻撃をかわしたりするも少しずつ消耗しているようだった。

「あの子たちが死んだら私が責任もって止めるからね。だからそれまではこの面白いショーを堪能するわ」

明らかに消耗してきている侵入者達を見下ろしながら少女は楽しいショーを見下ろし続けた。