複雑・ファジー小説

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.20 )
日時: 2014/06/25 16:13
名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)

第6話

「こいつは本気でやばくなってきたな…」

戦闘を始めてどのくらい経過したか分からなかった。バードさんは3本目の回復薬を使い終え、シンちゃんも弾丸を節約しようとナイフ等を織り交ぜた攻撃を始めた。

「参りましたね…このままだと…ほ…本当に…」
「シンちゃん!だ…大丈夫だよ…落ち着いて…」

シンちゃんの動きが鈍っていることに気づいてキルにバードさんに援護をお願いして、シンちゃんと一緒にゴーレムの攻撃範囲から離れた。

「状況が悪化したな…しばらく頼むぞキル…」

シンちゃんは普段落ち着いていて冷静だけど、こういった極端に不利、または仲間の生死に関わる状況になるとまともに動けなくなる。
今も体を震わせて歯をカタカタといわせていた。
シンちゃんがこの状態になったということは今のままでは私達は…。

「いよいよ…まずいかもな…」

キルとバードさんがゴーレムの攻撃で飛ばされながら私達の近くに着地して、キルもその隣で呼吸を乱しながらゴーレムを睨んでいた。
バードさんが用意していた回復薬は今飲んでいるのを抜いたらあと一本。
それに対してゴーレムは全くダメージを受けている様子はなかった。

「せめてお前達くらいは守ってやるからな。」
「待ってください…このまま行ったら…」

体を震わせながらシンちゃんは立ち上がり、キルも息を乱しながらもゴーレムを見据えた。
私が出来ること。戦闘はできなくてもできることそれは…。

「みんな…勝機は…あるよ…」
「なんか弱点を見つけたのか?」
「弱点じゃないよ…でも試したいことがあるの…」
「どうせ詰んでいるか…。シン…とっておきを頼めるか?」

バードさんは大剣と腰の帯剣を抜きシンちゃんに視線を向けた。
小さく頷き体を震わせたまま一度深呼吸をした。

「弾は一発です…照準を合わせている間は守ってくださいね…」

バードさんに聞こえているのか分からないような声が私には聞こえた。
シンちゃんはコートの中から細い銃口部分の部品とスコープを取り出した。
その間にキルはゴーレムに飛びついて頭部に体当たりし、バードさんは両手の剣で足に斬りかかりバランスを崩させ、私は辺りを見回した。
このゴーレムを倒す方法には杖の完成が不可欠だからだ。
 
「リーネ…どのくらい時間がかかりそうですか?」
「…5分くらい…それで逆転できるか分かるよ…」
「では…10分だけ…時間を…稼ぎます…」

シンちゃんの体はまだ震えていた。
見えていた死の恐怖に抗うようにしてマグナムに先ほどのパーツを取り付けて行った。

私も負けていられない。

そう考えながら地面に膝をついて水晶の地面に手を当ててから目を閉じて集中した。水晶と目的の鉱石は必ず違いがある。

「みんな!水晶に触れないように飛んで!!」

私の声に反応するようにバードさん、シンちゃん、キルの順番で跳躍したのを確認してから頭に描いたのは私から水晶に伝わる熱。
私の体の熱が水晶に伝わったことで発生する熱エネルギーを一瞬だけ引き上げることで起こるイメージのままに錬金術を発動させた。
その瞬間、辺り一面がほんの一瞬だけ赤く染まったことを確認した。ある一点を除いて。

「あった!キル!」

すぐに私はキルを呼び戻した。
ゴーレムがそれに反応しようとしたけどそこをバードさんがゴーレムの頭部に斬りかかってフォローした。水晶を壁蹴りして着地したキルにすぐに跨るとゴーレムの後方の一点を指さした。

「キル!あそこにお願い!」

キルは私を乗せたまま全速力で移動していった。
しかしその間にゴーレムはバードさんを大きな手で横に弾き飛ばして今度は私に手を伸ばそうとしていた。

「二人とも伏せてください!」

その声にキルは進行方向を横に逸れ、シンちゃんはさっきの改造でライフルに作り替えた銃を発砲した。発砲した銃弾はゴーレムの腹部に命中して爆発した。

シンちゃんが撃ったのはカグヤちゃん特製の銃弾で命中した後に爆発する仕組みになっている。だけど作るのが大変で一発限りの大技になっている。

ゴーレムが怯んで、時間が稼げた私は目的の場所に移動した。

「これだ…」

一見他の水晶と変わらない鉱石に手を触れさせ、もう一度術を発動させて熱の伝わりを確認した。

「この石だけ熱伝導率が違う…これなら…」

私は鉱石に手を触れさせて瞳を閉じた。
本で見たことはあったから加工の方法は分かっていた。後は設計図の内容をアレンジしていけばいいはず。

「リーネ!まだかかるか!」

バードさんはゴーレムの攻撃を抑えながら私から少しずつゴーレムを引き離してくれて、シンちゃんもフォローしてくれているのが分かった。

「あと少し!もうちょっとだけ!」

最後の仕上げのために私は杖を取り出した。

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「マジで限界だな…」

ゴーレムの重い鉄拳を後方に跳躍してかわしその鉄拳が地面の水晶を砕く様子を確認した。

「とはいえ…このまま…ただで…やられるつもりは…ありませんよ…」

シンは体を震わせながらも必死に抵抗して発砲し、バードもゴーレムの体を支える足や弱点と思える頭部に銃弾や剣による攻撃を繰り返した。
そんな中で見えていたリーネの手元が光っているのに気付き、ゴーレムもその異変を察知して動きを止めた。

「なんだ…あれ?」
「錬金術?でもあんなに術の発動がはっきり見えたのは初めてです…」

光が収まると同時に見えたのは白い翼の装飾の中央に見える蒼く透明感のある石。
そして杖全体も銀色の立派な杖に生まれ変わっていた。

「できた!お母さんの杖!」
「だったら…とりあえずこいつをどうにかしろ!」

バードの言葉に対してリーネはゴーレムに視線を向けた。
ここまで見たゴーレムの体の構成、体の水晶の色合い、仲間達の攻撃を受けている個所から硬度、目に見えるすべての情報入れて、頭の中に目の前のゴーレムと同じものを描いた。

「分かった!行くよ!」

同時にリーネは杖をゴーレムに向けて投げた。
ゆっくりと弧を描いて飛んだ杖はゴーレムに命中し、ゴーレムの体が光り始めるとそのまま砂となり崩れ去ってしまった。

「おいおい…」
「ゴーレムを…水晶を砂に変えた?」

砂の中央に突き刺さった状態の杖をリーネは手に取り、しっかりと仕上がった状態の杖を確認して笑みを浮かべた。
そんな様子を見たバードはリーネの頭に手を乗せ、危機が去りシンもいつも通りに戻りキルと一緒に駆け寄った。

「すげえな…水晶を砂に変えるなんて…本当に錬金術は便利だな。」
「違うよ。このゴーレムはただの泥のゴーレムだよ」
「そうなんですか?」
「うん。水晶はそこまで丈夫じゃないんだ。水晶玉だって落としたらひびが入ったり壊れたりするでしょ?だからバードさんやシンちゃんの攻撃でまったく傷がないのはおかしいと思ったの」

リーネの話を聞き二人は少なからず驚いた。
普段のリーネから予想できない洞察力は別人と勘違いしてしまいそうになった。

「じゃあ元はただのゴーレムってことか?」
「魔力で硬度を強化してあるけどね。あれだけ強化されているから召喚自体にはそんなに力は使えないと思ったし」
「一番下級ですと泥の塊ですからね。いくら魔力を込めても形がなかったら意味がありませんからね」

リーネの説明を聞いて納得したバードとシンに対して疲れ切ったキルは欠伸をし始めた。
彼にとっては余程退屈な説明だったようだった。

「ふふ…面白かったよ」

不意に背後から聞こえた声に3人は振り向いた。そこにいたのはここまで戦闘を眺めていた少女だった。

「誰だお前?」
「名前は秘密。でも呼びにくいだろうから白騎士なんて名乗るよ。ちょっと格好つけすぎかな?」
「白騎士…?貴女は何者ですか?」
「それも秘密!一つだけ教えると君達が戦ったゴーレムを呼んだのは私ってことかな。」

まったく緊張感がないような様子で話す白騎士に3人は警戒し、不意に姿を消した白騎士にバードとシンは驚いた。

「貴女すごいね?名前を聞きたいな」

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何が起こったのか分からなかった。
気が付いたらこの人は私の目の前にいて白く細い手が私の頬に当てられていた。

「リ…リーネ…だよ…」

ここまで怖い人は初めてだったと思う。
気を抜いたら体が震えて倒れてしまいそうになった。

「リーネちゃんね。一つだけ貴女の説明に訂正。一番弱いゴーレムに魔力を掛けたのは、貴方達ならあれで十分だと思ったからよ?」

頬を伝う汗はとても冷たくて目の前の相手から視線を外せなくなっていた。
同時に遅れて反応したバードさんとシンちゃんが見えたけど次の瞬間には私達の間から消えて元の位置に戻っていた。

「なっ…何だ?」
「分かりません…でも…普通じゃないです…」

白騎士の人は二人には視線を向けておらず、その瞳は私に向けられたままだった。

「ふふ…今日はいい出会いがあったよ。じゃあね…リーネちゃん」

一言の言葉を残してから笑顔で手を振り、白騎士は光に包まれそのまま姿を消してしまった。