複雑・ファジー小説

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.21 )
日時: 2014/06/26 11:33
名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)

第6話

「何で…始末書…」
「仕方ないだろ…危険区域に無断で入ったんだから。というか気づかなかったのかシン…」
「二人とも知っていたのかと思いました。それなのに堂々と報告しましたからね…」

3人は作業部屋の机で始末書の作成をしていた。
役所で指定された危険区域に許可なしで入ったのが原因だった。

「でもおかげで杖も完成したね!」
「それで俺達も犠牲になったのかよ…」

ため息をしたまま机にペンを置き欠伸をするバードに対して、シンはペンを走らせ傍から見ても完成間近に見えた。

「僕はもうできますよ」
「えっ!もう?私はまだ半分だよ…」

3人がそれぞれ書類の作成を続ける中、扉のノックと共に扉が開き姿を見せたのはフィオナだった。

「みんな元気に始末書作っている?」
「僕は間もなく」
「後…半分くらいかな?」
「俺は全然」

バードの手元を見るとほぼ数行しか書いておらず、その数行も「俺が悪かった。すみませんでした」としか書いておらず、すぐにフィオナの握る本の角がバードの頭に直撃した。

「とりあえず始末書は中断です。いよいよ今回からお仕事よ!」
「私達の初めてのお仕事!?」

初めての依頼にリーネは嬉しそうに席から立ち上がりシンも手を止めた。

「それで?俺達の最初の依頼は何だ?」
「内容は未解析エリアの調査よ」
「調査?」
「そう。この世界はまだまだ未解析エリアがあるけど、この町のエリアで新しい未解析エリアが見つかったの。そこで、その場所へ行って魔物、採掘品の調査に行って欲しいの。もしランクB以上の魔物が出てきた場合は無理せずに引き返すこと」
「えっと…ランクBって…何ですか?」

説明を理解している様子のバードとシンに対して、リーネの質問にフィオナはガクリと肩を落としながらも手に持った本をパラパラとめくり始めた。

「リーネちゃんは魔物討伐をしないから知らないか…。シンちゃん。白板を出して」

いつものようにシンは部屋から白板を出し、すでに諦めたバードは椅子に座っていた。

「ランクは魔物の強さや危険性からランク付けしたものよ。基本的にはA〜Dまでの4段階で私達は魔物をランク付けしているわ。例えば一般の人でも害がない魔物、キルみたいに人に慣れたものはDにランクされるわ」
「キルはDだって」

ランクが最下位というのが面白くないのかリーネの横にいたキルはそのまま居眠りを始めてしまった。

「Cは一番多いランクです。一般な人では倒せないような魔物、例えばグリズリー、ウルフ、下位のゴーレムがこれに当たるわね」
「このランクなら僕達でも問題なく倒せます。一般人には無理でも訓練した者達なら問題なく撃退できます」

フィオナの説明にシンが付け加えるように話していきフィオナも満足そうに頷いてから話を続けた。

「それで問題がBね。これは貴方達がこの間行った区域の魔物です。ある程度の実力者でないと戦えないような強さの魔物全般がこれ」
「確かにあそこの魔物は手ごわかったな。それで立ち入り禁止だったのか…」
「だからこのランクが出てきたら立ち入り禁止にする必要があるの」

フィオナの説明を聞いてリーネもようやく任務の意味を理解できた。
今回は未開のエリアの危険性を調査し、問題がないようならそのエリアにあるものを確認というものである。

「あれ?そういえばAは?」
「AはBより強いもの。例えばドラゴン、神獣、精霊とかね。そういうのはもう人の手に負えません」

フィオナの話を聞きリーネは一度だけ見たドラゴンを思い出していた。
あの時、ドラゴンを倒すどころか生かしたまま戦闘不能にしたキルはどれだけ強かったのだろうか。

頭に浮かべたままリーネは依頼内容を確認していった。

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「それで…何で僕だ…」

私達3人が交番に押し掛けてお師匠様は大きくため息を漏らして机に座っていた。

「だってリンクさんもフィオナさんも忙しいし、そうなると監督が出来るのはお師匠様だけだもん…」
「弟子がこんなに頼ってくれるんだから手を貸せよ」
「貴方は年下に監督をされてなんとも思わないんですか…」
「バードさんにプライドは既にありませんよ…」

頭を抱える様子のお師匠様に私は首を傾げ、観念した様子のお師匠様は一度時間を確認した。

「なら今日はあまり時間がないから明日の朝に出発でいいな?」
「うん!じゃあ今日はカグヤちゃんの家で準備だね。」

ようやく監督係の人材の確保が出来た私達はいつものようにカグヤちゃんの家にやってきた。
サクヤお姉ちゃんは買い物に出かけていたみたいで、カグヤちゃんは裏庭でクロと一緒にいてお仕事をしていた。

「あら?始末書軍団じゃない?」

私達に気づいての第一声は前日に私が話したことのからかいで悪戯な笑みを浮かべながらゆっくり立ち上がり、クロも退屈していたせいかキルのもとに駆け寄り互いにじゃれ合い始めた。

「もう…仕事だから準備に来たのに…」
「これをお願いします」

カグヤちゃんの言葉にシンちゃんは特に気にする様子もなく銃を引き抜き手渡した。
カグヤちゃんは銃を受け取りながら確認するように見回し始めた。

「伊達にやらかしてないわね?いつもよりかなり傷んでいるわ」
「そんなに傷んでいるの?」

銃を分解させながら話していくカグヤちゃんの説明を聞いて、前回の戦いで如何にシンちゃんが酷使した状態であるか分かった。
その時、作業椅子に座っていたカグヤちゃんはシンちゃんの腕を掴んで指を確認し、その指は赤く腫れていた。

「あんた…マグナムの連続撃ちを多用したでしょ?しばらくこの銃は禁止よ」
「でも…」
「私は医者じゃないから止めはしないけどこれはやめておきなさい」

カグヤちゃんはシンちゃんが無理をしないようにすぐにマグナムを分解し始めた。
同時に戦力ダウンを気にしたのか私達に視線を向けた。

「行くのは明日?私も行くわよ?」
「いいのか?というかお前が来たらフランの奴がまともに戦力にならないな」
「なら私が二人分働くわよ」

話していきながらカグヤちゃんはシンちゃんの銃を分解した状態で別の銃の部品を取り出した。

「ほらシン…ライフルのパーツ頂戴。多少は戦力にしないとね」
「これですか?」
「ああ…あの特殊弾のための補助パーツか」

カグヤちゃんはシンちゃんからパーツを受け取ると別の銃のパーツを手に取りカチカチと組み合わせていき瞬く間に狙撃ライフルに組み上げた。

「これなら前みたいな連射は無理でも、威力は変わらないと思うわ。少しは指への負担も減るでしょ」
「器用ですね」
「それが私の売りだからね」

銃を受け取るシンちゃんは背中に下げて持ち運びの具合を確認した。

「悪くないですね。今回は完全に後方支援になりそうですけど」
「その分フランとカグヤがいるから俺は問題ないけどな」
「私もシンちゃんが後方に来てくれると心強いよ」

用意してもらったライフルをシンちゃんは気に入ったようで、すぐに設置された的に試し撃ちを始めた。

「とりあえず明日よね。集合場所は?交番でいいの?」
「うん!じゃあ明日はよろしくね!」

私はカグヤちゃんと時間の確認をして、残った私はいつもと同じような準備をしていき、バードさんは銃だけをカグヤちゃんに調整してもらって準備を完了させた。

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「というわけで!おはようございます!お師匠様!」
「何が…というわけで!だ…。こ…これなら…ぼ…僕が行かなくても…」

交番に時間通り到着した私達が経緯を説明して行き、お師匠様は予想通りの反応を見せた。
シンちゃんはすでに暇潰しにキルを撫でて面倒を見ており、バードさんは朝が早かったこともあって欠伸をしていた。

「うるさいわね。私がいても問題ないでしょ!さっさと行くわよ!」

半ば強引に近い感じで話を進めるカグヤちゃんにお師匠様は大きくため息をして立ち上がり、ようやく出発することになったことでシンちゃんは背伸びをし、バードさんは壁に寄り掛って眠っていたことからそのまま足蹴りをして転ばせて起こしていた。

問題のエリアは歩いていけば街から半日くらいで到着できる位置にあり、到着した私達は装備を確認していってから地下に続く階段を下りて行った。
中はしっかりとした石造りの城壁に囲まれていて、古代の街並みを残し地下水が川のように流れていた。

「妙だな…」
「妙?なんか変なところがあったのか?」

お師匠様の言葉にバードさんは首を傾げた。
ちなみにカグヤちゃんはお師匠様に一応気を使って距離を取っていた。

「街そのものが埋まったのは分かるがここの入口は階段だった…未開エリアのはずなのに入口がしっかりとしすぎている。」
「確かに壁の作りから元々地下にあったとも考えにくいですね」
「じゃあ…誰かがすでに侵入しているってこと?」
「そうみたいね…なかなかおもしろそうじゃない」

カグヤちゃんの言葉に私は思ったよりも危険な空気を感じる任務に気を引き締め直した。