複雑・ファジー小説

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.22 )
日時: 2014/06/26 11:52
名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)

第7話

「あれ?もしかして侵入者?」

遺跡の中のとある建物の中で昼寝をしていた少女は以前と同様に、白銀の軽装な鎧に身を包んでいた。

「なんか前より多くない?おまけにそこそこ強い人が一人いるし…」

白騎士は一人で誰かと話すように呟き腰に二本の剣を納めた。
瞳を閉じ何かを確認するようにしてから腕組みをして考え込んだ。

「これ…二人はこの間の二人だよね?ということはリーネちゃんもいるんじゃない?」

瞳を開き、先の面倒そうにしていた表情から一転して表情には笑みが浮かんでいた。

「ふふ…分かっている。誰が相手でも今回は手加減しないよ」

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「それにしても…特に危険な魔物はいないみたいね」
「まあな…でかいコウモリに下級のゴーレムくらいだし俺とカグヤで大体倒せるな」

遺跡の街を道なりに進んでいく中、何度か魔物に見つかったけど殆どカグヤちゃんとバードさんが倒してしまった。
私やシンちゃんに至っては全く戦うこともなく、お師匠様とキルも二人が倒しそびれた魔物に追撃するだけで殆ど苦もないまま進んで来られた。

「でもまだ奥はあるみたいだね。ある程度材料採取にも向いているから定期的に来ようかな〜」
「一応言っておきますがその時は僕やバードさんも呼んでくださいね」
「確かにリーネだけだと迷子もあり得るから二人に必ず付いてきてもらうんだぞ?」
「ちょっとお師匠様!それはいくらなんでもないよ〜」

私の言葉に皆笑いながら歩を進め続けた。
本当に迷子になると思っているみたいで少しムカムカしてしまった。
多分それが顔に出ていたみたいで、カグヤちゃんは私に視線を向けて背中を軽く叩いた。

「何むくれているのよ。要は皆あんたを心配しているのよ。本当に恵まれているじゃない!」
「うん…ありがとう」

みんなが私を支えてくれる。
だから私も皆を支えたい。皆の力になって答えたい。それが今の私の願いであり最大の目標だった。

しばらく遺跡の中を進んでいき川に下りられる土手のような場所を見つけ、私達はそこを休憩地点に選んだ。
流れる地下水に手を触れてその冷たさと濁りがまったくない綺麗な透明色に驚いた。

「地下水ってこんなに冷たいんだ…それに綺麗だよ」
「この水がここまで綺麗なのは地下水だからというわけだけじゃないな…」
「へえ〜じゃあこの遺跡の技術って訳なんだ?」

私の横で水を調べていたお師匠様は、背後からカグヤちゃんの声が聞こえるとすぐに距離を取ってしまった。余程カグヤちゃんが苦手みたい。

「あのさ…リーネやシンが平気なのに何で私には慣れないわけ?流石にそろそろ傷つくわよ」
「す…すまん…別に…子供は問題ないが…カグヤは…何故か…慣れなくてな…」
「ねえシンちゃん…私達…ここは怒るべき?」
「僕は特に気にしませんからいいです…」

シンちゃんは全く興味がないような様子で肩に下げていたライフルに新しく銃弾を装填しておりバードさんとキルにおいては緊張感もなく眠っていた。
そんなに疲れているのかな?

「えっと…それで…お師匠様?水がきれいな理由だけど…他にもあるの?」
「あ…ああ…詳しくは分からないがこの水を水源にしているなら何かしらの技術は残っていると思う」
「ではそろそろ行きましょうか?二人が熟睡してしまいます」

シンちゃんの言葉にそれぞれが出発お準備をしてバードさんはカグヤちゃんとシンちゃんの蹴りで無理やり起こされていた。

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「うわ…なんか広い場所に出たわね…」
「ここは…昔のコロシアムか?」

驚いた様子のカグヤちゃんやバードさんを見ながらも私もここまで大きい場所は初めてだった。

私達は遺跡の奥にまで進んでいき、広いドーム状の建物に行きついた。周りには観客席があり、如何にも何かしらの見世物をするための会場に見えた。

「こんな場所があるなんて…僕もここまでのものは初めて見た…」
「お師匠様も初めて?大発見とか?」

私がお師匠様に話しかけていると突然皆の足元にそれぞれ魔法陣が現れた。
その中で私とキルだけには何も異変は起きてなかった。

「何だこれ?」
「まずい…罠だ!」

一瞬バードさんとお師匠様の声が聞こえたけど次の瞬間には私とキル以外の皆はその場から消えてしまっていた。

「な…なんで…?」
「安心していいよ。皆生きているよ」

不意に背後から聞こえて来た声は聞き覚えがあった。すぐに振り向くと、今私達が通ってきた入口の前に見覚えのある人物が立っていた。

「し…白騎士さん…?」
「覚えていて嬉しいよ」
「み…皆をどこに…どこにやったの!?」

足が震える感覚を感じた。
以前も感じた恐怖、この人はとにかく危険だということを私の全神経が教えてくれている。

「ふふ…震えちゃって…可愛い」
「答えて!」
「私の仕掛けた罠にかかっただけ。多分この遺跡のどこかに飛ばされていると思うわよ?それより私は貴方が気になっているの」

白騎士さんは笑顔で私に説明していき、悪戯な笑みを崩さずに首を傾げた。
咄嗟に私は杖を手に取り、キルも戦闘のために身構えた。

「ど…どういう意味?」
「変な意味じゃないわよ?今の罠は人の魔力に反応して発動するの。魔物は範囲外だから分かるけど何で貴女は掛らないの?それ以前に何で物質を構成するために必ずある魔力が貴女にはないのかしら?」

白騎士から姿を見せた時の笑顔は消えていて、口は笑っているけど目はまったく笑っておらず正直怖かった。
そのせいか無意識に後ずさりしてしまった。

「怖がらなくていいよ?私が一方的に痛めつけるだけだからね?」
「でも…簡単に負けるつもりは…ないよ…」

腰から二本の剣を引き抜く白騎士さんに対して私は杖を構え、今度は一つの動きも見逃さないつもりで身構えた。

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「よりによってあんたと一緒なんて最悪…」
「その…セリフは…僕が…そのまま返そう…」

転移の罠にかかったカグヤとフランは遺跡の街に転移されていた。
見ていない風景からまだ探索していないエリアのようだった。
カグヤは一人で元のルートに戻ろうと歩いていき、その後ろから距離を取ってフランも付いて行った。

「まあ私達はいいけどあいつらは大丈夫かしらね」
「あいつらじゃなくて…リーネがだろ?」

間近ではまともに会話が出来ないがある程度距離を取れば会話が成り立つようで、特に危な気もなく遺跡の奥まで進むと先ほどのコロシアム程ではないが、広い空間と周りには3、4mはありそうなゴーレムがいくつも並んでいた。

「うわ…これって…もしかして…」
「ど…どうやら…そ…そうみたい…だな…」

部屋に入りカグヤが歩を止めたことにより、フランはカチカチに固まりながら辺りを見回して距離を取り答え、その瞬間入口の扉は閉じて、制止していたゴーレム達が二人に視線を向けた。

「お決まりじゃない…さしずめ遺跡を守るガーディアンって奴?」
「カグヤ。そっちは頼むぞ?」
「あんたこそ固まってやられても助けないわよ?」

いつの間にかしっかり距離を取り指示を出し始めたフランに対して、カグヤは眼鏡に一度手を当て、腰からサブマシンガンを取り出した。

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「皆さんは大丈夫でしょうか…」
「まあフランはここにいない時点で最悪だよな。残っているのがリーネかカグヤだぞ?」

分断されて面倒な状況なのにこの人は全く危機感がない。
ある意味調子を崩さないし混乱やパニックを起こすよりはいいけど。

転移の罠にかかりたどり着いたのは元のいたフロアよりも地下のようで、うす暗く広い空間に滝のように流れ落ちる地下水の音が響いていた。
そんな中を僕はバードさんと探索して出口を探していた。

「しかし…こんなに水が綺麗だと街の新しい水源になるかもな」
「でも気になることもあります…ここまで綺麗な理由が分からないです」

僕の疑問に対してバードさんも考え込むように腕組みをした。
本来こういった街の地下水は安全に使えるように蒸留を行うための施設があるのが普通だがそういったものは見当たらずそういったものがない場合に考えられるような理由はそんなに多くなかった。

「こういう時フィオナさんがいてくれると助かるのですが…」
「おっ!なんかあるぞ?」

バードさんの指さした方向を見るとうっすらと明りを放つものとその明りで照らされた祭壇のような場所があった。
その両端からは水が流れており、ずっと聞こえていた水の音はこれだったようだ。
祭壇の一部には文字が刻まれていた。

「フルスシュタット?何だこれ?」
「フルスシュタット…かつては水の街と呼ばれ栄えたという街です。そしてその街には歴代で最高峰と言われる3人の錬金術師のうちの一人、水の錬金術師マリン・トレーネがいたと言われています…」
「じゃあここは…」
「その3人の錬金術師がいたという幻の都市の一つ…みたいですね…」

僕は祭壇で光っていたものに視線を向けた。
そこで光っていたのは小さな一つの指輪だった。