複雑・ファジー小説

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.27 )
日時: 2014/06/26 14:16
名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)

第11話

「ねえ…何で二人とも付いて来たの…」

お昼近くにキルを迎えに行くために酒場に寄って行ったら待っていたのはシンちゃんとバードさんだった。どうやら昨日の私とお師匠様の会話を盗み聞きしていたみたい。

「一応あなたを死なせてしまうわけにいきませんから…」
「それにこういうのは立会人がいるだろ」

横にいるキルも何か言いたそうに私を見ていた。
多分私を一人で行かせてくれるなんてこの人たちはさせてくれないかな。

「皆ありがとう。でもこれは卒業試験だから皆は絶対見ているだけだよ?」
「努力します」
「というより手を出すような状況にするなよ?」

私達はほぼ時間通りにしていのエリアに到着した。

久しぶりに訪れた水晶に覆われたその空間は幻想的でつい辺りにある水晶に視線が行ってしまいそうになった。
お師匠様は手近な水晶に腰を下ろしていた。
私の姿を確認したみたいで、私は皆に一度合図をしてから一人で進んだ。

「来たよ?お師匠様」
「一人では来なかったみたいだな」

予想されていたのか特に怒る様子もなく、お師匠様は視線をバードさんやシンちゃんに向けた。

「一応心配だからな」
「単純に保護者と見ていただければいいです」

二人の言葉を聞いたことで私の中で僅かに揺らいでいた決心が固まった気がした。

ここまで一緒に暮らして楽しませてくれたカグヤちゃんとサクヤお姉ちゃん
何も知らなくて不安だった私を気遣ってくれた役所の皆
お仕事の時、支え助けてくれたシンちゃんとバードさん
一人でさびしい時もそばにいて助けてくれたキル
錬金術の基本から勉強まで教えてくれたお師匠様

ここまで頑張って来られたのは支えてくれた皆のおかげ。今度は私が皆に答えたい。

私は背中から杖を取り出してからキルに制止の合図を出した。

「皆ありがとう。それと…ごめんね?」

二人が私に何かを言いかけているのが分かった。
それでも私は杖を振るい錬金術を発動させた。
術の発動により道を塞ぐ形で氷の壁を作り、道を塞いだ。氷は透明度が高く厚く張ったはずなのに3人の姿がはっきりと映った。

「空気中の水蒸気を集めて指輪で練成の力を倍増させたか。見事な練成だな」
「私はまだまだ未熟だよ…皆がいなかったらちゃんと決意が出来なかったから」

私に向かって何かを言う3人の姿が見えていたけど氷の壁のせいで声が聞こえることはなかった。
私は笑顔のまま3人に手を振ってから視線をお師匠様に向けた。

------------------------------------------------

「始めるか?」
「うん!私は覚悟を決めたよ…」

リーネの瞳には到着した時に感じていた揺らぎがなくなっており、僕は安堵したまま静かに槍を練成して構えた。
それに合わせるようにリーネは杖を構え身構えた。
隙だらけのようだが向けられた瞳には、どんな動きも見逃さないと言った感情が感じられ、彼女の成長に内心感じる喜びに戸惑った。

「なら始めるぞ?最終試験だ!」

僕はそのまま槍を構えて動きを止めた。
リーネも杖を構えたまま一切の動きを見逃さないように警戒を続けた。
すぐに飛び込んでくると予想していただけに意外だった。

「まずは手始めだ」

槍に術を掛けることで光り、同時に伸びて高速で先端がリーネに向かっていった。

「お師匠様のその技はもう効かないよ」

リーネは伸びて来た槍に対して横から杖で弾いて槍の攻撃の軌道をずらした。
同時に飛び込んできたリーネの姿を確認した。
その手には杖が握られており、片手で伸ばした槍を持っているために動けないことで反対の手で受け止めた。

「うっ…か…固い…」
「君の腕力で打撃は無理だぞ!」

杖を受け止めたまま、元の長さに戻す途中の槍の柄でリーネを横に薙ぎ払い、まともに攻撃が入ったリーネは最初に作った氷に叩きつけられた。

「もう終わりか?」
「ま…まだまだ…」

手ごたえからそれなりのダメージはあったと思われ、ふらついたまま立ち上がるリーネの姿見えた。

「お師匠様…左手見た方がいいよ…」

リーネの言葉に僕はすぐに軍服の左手の部分を引き裂いた。
左手には手甲を仕込んでいたが縦に大きくひびが入っていた。あの接触の瞬間に錬金術で金属破壊をしたことが分かった。
裏を返せばこれがなかったら腕が使い物にならなくなるところだった。

「非力を錬金術で補った訳か。君の覚悟よくわかった…」
「うん…そうじゃなかったらここまでしないよ…」

息を乱したままリーネは杖を構えた。
すでに迷いを見せないリーネに僕は大きく息を付き、槍を構え直した。

「僕はまだ覚悟が甘かったようだ…。次はないぞ」
「もちろんだよ」

------------------------------------------------

お師匠様の目つきが変わったのが分かった。
さっきは槍を折るつもりだったけどできなかった。
今ひびが入ったはずの手甲も元に戻っていた。
そのことから武器破壊の勝利は無理なのが分かった。

頭の中で対処方法を考えている間に槍を構えたお師匠様の姿に気づき、縦に振りおろされてきた槍を杖で受け止めた。

「うっ…お…重い…」
「悪いがここまでだな…」

その瞬間槍は命が宿ったように形状を変え杖に巻きついていき、そのまま私の手から引き離されてしまい、意識が一瞬杖に向いたときには腹部に蹴りが入り氷の壁に背中を打った。

「う…うう」

腹部に感じる痛みから意識が飛びそうになるもゆっくり立ち上がり、氷の向こうにいる皆に視線を向けるとそこには氷の壁を砕こうとするバードさんと今にも泣き出しそうな顔をしたシンちゃん、必死に堪える様子のキルが目に付いた。
一度私は皆に向かって小さく手を振った。
自分は大丈夫だと伝えるためにできるだけ笑顔を向けて。

「まだまだ…終わらないよ…」
「杖もなしで戦えるのか?」

金属に絡めとられた杖を地面に落とし、鞭のように形状が変化していた槍は元の形に戻り静かに私に向けられた。

「戦えるよ…だって…私はまだ死んでないから…生きているから」
「そうか。ならここで終わらせるぞ!」

しっかりと向かってくるお師匠様を見てから振り下ろされてくる槍を横にかわし、即座に片手を伸ばし周りの水蒸気を集めて私とお師匠様の間に水の壁を作った。

「くっ…目眩ましか…」

一度後ろに引いたお師匠様に対して私はすぐにお師匠様を囲むように水の壁を広げ、同時に床に転がった杖に向かって走った。
杖を握った時後ろから感じる気配に私はすぐにその場を離れた。
同時に槍が地面を砕く様子を確認できた。

「やられたな…杖がなくてもすっかり戦えるようになったな」
「いつまでも…誰かに頼れないから…」

最初の一撃を受けた時の怪我で息苦しさを感じ、気を抜くと意識が飛びそうになった。
お師匠様は槍を再び構えた。
私も形だけ杖を構えた。
多分次はかわすのも防ぐのも無理みたい。

「もう終わりか?」
「ま…だ…終わらないよ…」

殆ど無意識に答えた私は槍を構えたまま飛び込んでくる様子が見えた。
不思議とその動きはゆっくりとしていた。だけど体は動かすことが出来ず私に振り下ろされていく槍を見つめていた。

この刃を受ければ楽になれるのかな…
終わっていいのかな…

頭によぎる自問自答。
もう終わるのだと考えていた時、思い出したのは昨晩のお師匠様からの言葉だった。

「私が目指す…錬金術師…」

------------------------------------------------

フランの振り下ろす槍は先と同様に杖で受け止めた。

「うう…」
「さっきと一緒だぞ!」

フランが金属の形状変化をしようとした時、唐突に槍は粉々に砕け散った。

「何!?」

一瞬の動揺から動きが鈍ったところで振られたリーネの杖を手甲で受けて距離を取った。

「武器破壊か…」
「お師匠様は…金属の形状変化の時、一瞬だけど…金属の温度を上げるから…だから逆に槍の温度を…可能な限り下げたんだよ…」
「温度の急な変動で脆くなったというわけだな…」

呼吸を乱したままリーネは話していき再び杖を構え直し同時に視線を下げた。

「お師匠様…私…見つけたよ。私が目指す…目標」
「なら聞かせてもらうか…この戦いが終わってからな」

フランは手甲を外し、それを槍に変えてから構えた。リーネも視線を上げ、小さく息を付いてから身構えた。