複雑・ファジー小説
- Re: ある暗殺者と錬金術師の物語(6/6 本編追加) ( No.28 )
- 日時: 2014/06/26 14:58
- 名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)
第12話
「ねえ…バードさん…」
「何だよ…気が散るだろ…」
バードさんは氷を砕くためにバードさんは大剣を使っていた。
厚い氷はしっかりとしたもので多少傷が付くだけで砕けるように見えなかった。
僕の横にいるキルは今にも飛び込もうとはしているようだけど動こうとしなかった。
「もう…待ちましょう…」
「何だよ?諦めるのかよ?」
「これはリーネの試練です…だから…止めるわけにいかない気がします…。それに…」
視線を氷の向こうに向けた時見えたのは槍を振るうフラン、その槍を杖で受け止め反撃を繰り返すリーネの姿で、すでに僕らが立ち入れる領域でないことが分かった。
バードさんの驚いたような表情が視界に映った。同時に辺りが霞んで見えた。
「分かったよ…あいつを信じればいいんだろ?」
大剣を背中に納める様子が見えたけど僕の意識はすでに二人の戦いに視線が向いてしまっていた。
------------------------------------------------
最後の一撃のつもりで挑んだはずなのにいったいどのくらい時間が経っただろう…。
最初の一撃はお師匠様に避けられて、それから槍の攻撃を杖で受け止めた。
そのままお師匠様は武器を破壊されないように形状を変えずに第二、第三の攻撃を繰り出したけどこの辺りからは正直どうやって避けているか分からなかった。
「はあ…はあ…うっ…」
「どうした?もう終わりか!お前が目指すものは僕程度に潰されるほど弱いのか!」
徐々に疲労から動きが鈍りそうになっていく体と意識を無理矢理に動かして槍、錬金術、そして時折繰り出す体術を回避し続けた。
お師匠様を止める方法は思いつくのは3つ。
その1はお師匠様が言うとおり殺す。これはもちろん伽却下。
その2は武器の破壊。ただ前のゴーレムのように砂とかならできても金属の練成に不慣れな私には一度の練成に時間が掛りすぎる。
さっき使った温度変化も水の力でできたけどお師匠様が槍の形状変化を使わないから使えない。
その3…。
「これしか…ないよね…」
お師匠様の槍を正面から受け止めて視線をお師匠様に向け、そのまま発動させた術は周囲の水分を凍らせること。
それにより私とお師匠様の足元は氷漬けになり、私の手と杖自身、そして杖に触れていた槍を凍らせお互いの身動きを封じた。
「なに!?リーネ!お前は…」
「お師匠様に勝つにはこれくらい無茶しないと…いけないから…」
意識が飛びそうな感覚を堪え身動きを封じたお師匠様に対して、最後の力を振り絞って空気中の水を集め小さなボール状の固まりを作りだした。
「今度こそ…最後…だよ…」
同時に水の固まりから勢いよく水を噴射し、それを腹部に受けたお師匠様は吹き飛んですぐ後ろの壁に叩きつけられた。
「もう…無理…」
薄れゆく意識の中で私やお師匠様の氷、そして進路を塞いだ氷が砕け散った様子が見えた気がした。
------------------------------------------------
「うっ…うう…」
「気が付きましたか?」
リーネは目を覚ました時、目の前に反転した状態で自分を見下ろすシンの姿が目に入った。
両手は何故か、うまく動かすことが出来ず、体も力が入らず起き上がれなかった。
後頭部に感じる地面とは違う温かさと柔らかさからようやく自分がシンに膝枕をしてもらっていることが分かった。
「シンちゃん…私…」
「両手両足は凍傷、腹部はあばらにはひび。しばらく安静だな」
「お師匠様?」
よく見ると両手には包帯が巻かれており、両足も靴が脱がされて包帯が巻かれていた。
それに対して自分がボロボロなのにも拘らずまったく怪我をしている様子がないフランに驚きながらもすぐ後ろにいるバードとキルはおかしそうに笑っていた。
「よく言うな。お前だって両手両足凍傷で体力も大分使ってフラフラだろ。弟子の前だと大変だな」
「バードさんは黙っていてください」
笑うバードに対して苦笑いするフランを見てシンは小さく一言を発して睨み黙らせた。
「形はどうでも君の勝ちだ…」
「私の?…じゃあ…」
「君は卒業だ。これから君は一人前の錬金術師だ。君の覚悟を確かめるための試験だったが…ここまでやるとはな…」
フランは椅子の代わりになる場所に腰を下ろしバードとキルはその場に座り込んだ。
それぞれ視線をリーネに向けたのはリーネの言葉を聞くためだった。
「そろそろ聞かせてもらうか…リーネがどんな錬金術師になりたいか…聞かせてくれ」
「私…練成したいものがあるの…」
「練成したいもの?よく聞くものとかじゃないだろ?」
「確かに…ここまで無理をしてまで練成したかったものは何ですか?」
横になったままリーネは周りを見回してからにっこりと笑顔を向けた。
「みんなの幸せだよ」
「はっ?」
まったく予測していなかった言葉にバードは呆気に取られ、フランとシンに至っては堪えるようにして笑っていた。
その様子に真面目に答えたつもりだったであろうリーネはきょとんとしていた。
「やはりリーネは面白いですね」
「まったくだ…だがある意味では君らしいな」
「シンちゃんもお師匠様も何なの!?」
体を動かせたら暴れていそうなリーネの様子を3人は笑い、リーネはむくれた様子のまま視線をずらした。
「そういえば卒業したんだからいい加減お師匠様はやめてくれ…。一応一人前だろ」
「でもお師匠様はお師匠様だし…」
「フランも大変だな?普通に名前で呼んでやればいいだろ」
「えっと…フラン?」
「なんだリーネ?」
バードの言葉に改めてフランに視線を向けたリーネは今までとは違う呼び方に緊張したようにして名前を呼びおかしそうに笑いながらフランは答えた。
その様子に安心したのか笑顔のままリーネは眠りに付いた
「さて…問題はここからだぞフラン?」
「そうですね…このリーネの姿を見てカグヤさんが何を言うでしょうね…」
二人の言葉にフランはこの後に起こると思われる悲劇に顔を青ざめ大きなため息を漏らした。
------------------------------------------------
同時刻、水晶に囲まれた洞窟の中を一人の少女があるいていた。
少女は長髪の銀髪を黒のリボンでツインテールにし、黒のローブと黒衣のマントを身につけおり背中には少女には不似合いな大鎌を背負っていた。
道なりに歩いて行くと広い空間に出て少し離れた位置に目的の人物が座っていたことに気付いた。
「やっと見つけた…一人でサボり…」
「サボりじゃない。少し気になっただけだ…」
黒髪で黒のジャケットとズボンを身に付けた青年はさらに下に見えた広場を見下ろしていた。
少女が視線を向けるとそこには何人かの人影があった。
青年の表情は普段と違い和らいでいてその表情を少女は嫌っていた。
少女の知る青年ではなくなってしまう気がするからだった。
「楽しそう…」
「そうか?いつも通りだぞ…さっさと行くぞ。何かは知らないが任務は終わったんだろR」
「終わった。Kも帰るよ…」
Rの意図が分からないままKは一度下に見えた人影に視線を向けてからRに続いてその場を立ち去った。
---------------------------------------
「そろそろ街に着くぞ…」
リーネを背負ったままバードはシンとフラン、キルに話しかけいつものように門番の前を通って行った。
「ひとまずカグヤさんの家に行きましょうか?」
「なら僕は交番に戻る。薬とか多少はあるだろうからな」
フランと一度別れ、カグヤの家に向かう途中でリーネは目を覚まし辺りを見回した。
「目覚めたか?」
「バードさん?ありがとう…」
「そろそろ到着しますよ。カグヤの説教は覚悟しないといけませんね…」
一同はこの後起こるであろう説教を覚悟しながらカグヤの家に入った。
庭には誰もいないことから裏庭で仕事をしていると思われ、裏庭に向かうと予想通りカグヤは銃の手入れをしていた。
「こんにちはカグヤ」
「あら?」
シンの呼びかけに対してのカグヤの反応に一同は違和感を得た。
真っ先に怒鳴られると思っていたがまったく動じている様子がなく作業をしていた手を止めて立ち上がった。
「初めての客よね?何で私のこと知っているわけ?」
「えっ…なんで…?」
カグヤの言葉にリーネは何を言っているのか分からず小さく言葉を零した。