複雑・ファジー小説

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.3 )
日時: 2014/06/24 16:10
名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)

第3話

「ごちそうさま〜」

食事を終え、リーネは大きな声で手を合わせて声を出して食事の終了を宣言し、皿を台所に運び始めた。

「ちょっとリーネ?また皿割らないでよ?」
「大丈夫だよ!ただ持っていくだけだもんね!」

二人のやり取りを見てサクヤは微笑んでいた。
リーネはカグヤが大好きだとストレートに表現しているのに対して、カグヤはリーネのように素直になれずにいる様子がサクヤにとって微笑ましかった。

「ちょっとお姉ちゃん!なんでニヤニヤしているの!」
「二人が仲良しさんでおもしろいんだよ〜」

サクヤの一言にカグヤは真っ赤になりサクヤと言い合いが始まり、今度はリーネが楽しそうにその様子を見ていた。

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「そういえば昨日事件があったらしいわね」
「ほえ?事件なんかあったんだ〜」

朝に見つけた黒猫の前に座り遊ぶ中、カグヤちゃんの発した用語に首を傾げて聞いてみた。

「ほら!いつも贅沢三昧でやりたい放題だったあいつ!あまり広まっていないけど死んだって話よ」
「えっ?それっていつの話なの?」
「サクヤお姉ちゃん?」

こういった内容については、あまり触れないサクヤお姉ちゃんからの問いかけに私もカグヤちゃんも少しびっくりした。

「えっと…昨日の夜みたい。どうかしたの?」
「ううん…ちょっと気になっちゃって…」

気になったけど、サクヤお姉ちゃんはそれ以上口を開こうとしなかった。
心配したのはカグヤちゃんも同じだったみたいで、どうにか話題を逸らそうと考える中その仕事はカグヤちゃんがしてくれた。

「そういえば!その猫どうしたの?」
「ええ…さっき拾ったの。せっかくだし飼わない?」

サクヤお姉ちゃんの表情が緩んだことに私は自然と表情が緩んだ気がした。カグヤちゃんも表情が緩んでいる。
私は黒猫を抱き上げてにっこりとしたまま一度じっと黒猫と視線を合わせた後、頭に浮かんだ名前を口走った。

「クロ!あなたは今日からクロだよ!」
「何それ?見たまんまじゃない!少しは捻りなさいよ」

私とカグヤちゃんのやり取りをお姉ちゃたはただ笑っているだけだった。でもそれでよかった。お姉ちゃんが笑ってくれればそれが私達みんなの元気の素だから。

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「じゃあ出かけてくるからお留守番していてね」

お昼が近くなり、クロの食事も含む買い物のためにクロを連れて出かけることにした。

「続きは私とリーネがやっておくからお姉ちゃんはクロのご飯とミルクに卵だからね!」
「大丈夫!じゃあ行って来るね!」

結局名前はクロに決定し、黒猫を歩かせ街の市場に向かった。二人が私に気を遣ってくれたのは何となく分かった。

(やっぱり気になるなあ…。何であの人はあんな顔をしていたのかな。)

自分の足元を歩くクロをただ追いかけるようにして歩きながら考え込む。
次の瞬間、何かにぶつかったような感覚を感じた。

「あっ…すみません…」

人にぶつかったのに気付き反射的に謝罪をすると、その瞬間に二の腕を捕まれた。
ハッとすればすでに4人のゴロツキに囲まれていた。

「えっと…その…」
「ぶつかっておいてそれだけかよ?」
「ちょっとこっち来いよ」

助けを呼ぼうと辺りを見るが、市場の死角になる場所のせいで助けを呼べそうになかった。

(力でも敵いそうにないし…すぐに開放してもらえればいいけど…。)

手を無理やり引かれつつ、先に行ってしまうクロに手を伸ばすが当たり前のようにクロは先に行ってしまう。

「いいのか…。お前の主人…連れて行かれるぞ」

前を歩いているクロを片手で抱き上げて話す相手を見て私は眼を見開いた。

「え…あなたは…」

見間違えようがなかった。
そこにいたのは、昨晩見てからずっと忘れることが出来ずにいた青年だったのだから。