複雑・ファジー小説

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.30 )
日時: 2014/06/26 17:05
名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)

第14話

Kはサクヤとの会話を終えてから部屋を出て扉に鍵を掛けた。
久しぶりの再会とはいえ緊張をしていた自分にKは戸惑った。
そして今から自分がやろうとしていることに関しても今までなら考えなかったことだった。

「K…」

不意に掛けられた声にKは我に返りすぐ横にいたRの存在に内心驚いた。
組織の中でもRは気を許している人物ではあるもののここまで無警戒に近づかせることは今までなかった。

「Rか…どうした…」
「あなたに任務を伝えに来た…他の皆…もう出かけたから…」
「そうか…なら…歩きながら聞くぞ」

Rはいつもと違って気が緩んでいるようにしか見えないKに苛立っているようで、普段に比べて言葉に棘があるように感じたRにKも小さく息を吐きその場を立ち去りながら聞こうとした。

「ここで聞いて…私は…ここに用事がある…」
「用事?なんかの任務か?」
「…ここの女を狩る…」

Rが指を扉に向けて当たり前のことを話すように言葉を発してKは予測していたこととはいえ、そのあまりに速い決定に動揺を隠せなかった。

「どういうことだ…」
「あの女…危険…KをKじゃなくする…」
「それがあいつの決定か…」
「首領関係ない…。私の…独断…」

Rは普段から勘が鋭く、今までもKがRを出し抜くことはできずにいた。
今回もKの考えを見抜き先手を打ってきたのだとすぐに判断できた。

「そうなると…俺がすることは…」
「裏切り…?私が…それを許すと思う?」
「裏切り者には死。よく聞く話だが理に叶っているよな?組織の秘密は守れ、余計な敵も作らないからな」

Rの言葉にKは微笑を浮かべ話していき、その赤い瞳は柔らかく鋭さがなくなっておりRの嫌いなものになっていた。

「裏切り者の処刑…K…残念ね…」
「やる気か?おもしれえ…」

Rは背中から大鎌を下ろし、Kも腰から銃を引き抜き同時に二人の姿はその場から見えなくなった。

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キルが部屋を出てから私は今の状況を整理した。

ここはキルの所属する組織であること。
私の街に対して大掛かりな魔法を掛けられてしまったこと。
その魔法を解くために必要なものがあること。
教えてくれたのはその3つだけだった。

「私がやらなくちゃだめなこと…」

キルに言われていたことは自分が戻るまでの間に誰にも見つからないようにしておくこと。
そして成るべく動かないで体力を温存しておくようにすること。

「つまり…布団の中で隠れながら眠っていれば…いいかな…」

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「ずいぶん腕を上げたな…」
「Kは弱くなった…戦いの時…そんな風に緩んでなかった…」

銃に弾を込めながら俺はRと対峙していた。
狭い廊下を抜けた先にある広間で交戦をしたが以前組み手をした時に比べて実力は格段に上がっていた。
銃弾を納めると同時にRの動きを確認するためにそのまま銃弾を撃ち込んだ。
銃弾はまっすぐRに向かって飛んでいきそのまま二つに切り裂かれた。同時に銃弾を切り裂いた大鎌を片手で持ちかえた。
本来、常人なら持ち上げることさえも難しい巨大鎌を重力が感じられないように片手で軽々と持ち上げた。

「相変わらずの腕力だな…その細い手でよくやる」
「しゃべりすぎ…貴方はもう…Kじゃない…」

普段は無表情にしか見えないRの表情には怒りや苛立ちの感情が見えた。
Rは大鎌を両手で持ち構えるとそのまま飛びこんで来た。
鎌で防ぐことが出来ないこの瞬間に俺はすぐに2発の銃弾を発砲したが再び銃弾が切り裂かれた。
Rにとって大鎌は小回りが利いた武器で、片手で高速回転させた大鎌はどこかの国にあった削岩機と相違なく、すぐに俺の横に移動したRはそのまま地面を削りながら回転した鎌を振るって来た。

「くっ!」

俺はすぐに後ろに跳躍して鎌を避け、すぐに延ばされたRの手を銃で弾き距離を取った。
Rは大鎌のあまりに強い印象から目立たないが、その大鎌を片手で振るう腕力はもはや人のものではなく、今俺を掴み損ねた手は床の一部を掴み砕いた。
近接戦闘に関しては俺が知る限りRが最強だ。

「俺がKじゃないか…」
「Kはもっと寡黙…。私に遅れなんか取らない…殺しに躊躇はない…」
「躊躇か…」

Rの言葉に対して俺が一番聞いたのは最後の台詞だった。
まったくその気がなかったはずなのにどこかにあった人を殺すことに対する躊躇。
そしてまったく俺を殺すことに躊躇がなかったR。
それが今の俺とRの差で追い詰められている結果。

「やっぱり駄目だな…今まで通りだと勝てないな」
「弱くなったK…もういらない…」

大鎌を構えたRはそのまま鎌を振り下ろし、その鎌は躊躇なく俺に振り下ろされていった。
その瞬間俺の目に映る世界から色素が消え、白黒の世界が広がった。

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突如Kの瞳は赤から青に変わり、Rの振り下ろした鎌を横に避けて同時に銃の先がRの額に当てられた。
その動作を予測していたRはKの銃を持つ手を掴んだ。

「捕まえた…」

このまま腕を握りつぶして怯んだところを大鎌で両断すれば終わると思考したRは突然横から受けた衝撃をまともに受けた。

「うっ!くっ…」

衝撃でKから引き離されたRは衝撃を受けた脇を抑えて態勢を立て直した。
その直後3発の銃声を聞きとりすぐに銃弾を叩き落そうと身構えたがその銃弾は正面からではなくまったく予測していなかった左右や下からRの両足と鎌を持つ腕を打ち抜いた。

「な…なんで…」
「何もただ撃つだけが銃じゃないぞ?」
「まさか…兆弾…?」
「一応この銃とずっといたからな」

両足を撃たれたRはその場にしゃがみ込みKを見上げた。
Kの瞳はいつもの赤いものに変わっており銃弾に弾丸を込めていた。Rは体の痛みを耐えながら立ち上がり身に着けていたマントを床に落とした。

「裏切りは…許さない…」
「R…お前も外を見たらどうだ?」
「外…何…言って…」
「お前はまだ変われると思っただけだ…他の奴らよりよっぽどな…」
「…あなたに…あなたに…」

Rは目の前にいる標的を見据えて鎌を構え直し飛び込んだ。

「あなたに!私の何が分かるの!」

その表情はこれまでKにさえも見せたことがない感情が入り混じった表情であり今までで一番人間らしい表情をしていた。

「俺には分からないが…それが分かるのはお前自身だろ!」

振り下ろされた鎌は地面に突き刺さり床には大きく亀裂が入った。
同時にRの視線には左に鎌を避けたKの蹴りが自分に当たりその衝撃で鎌を手放してしまい、次の瞬間には柱に体を叩きつけられそのまま柱に寄りかかり倒れていた。

「う…とどめを…」
「悪いな…もう俺は人を殺すつもりはない…」

同時にKは銃弾を発砲した。
銃弾は相手を眠らせるもので弱り切った状態のRには効果があったことからそのまま眠りに着いた。

「時間が予定より掛ってしまったな…急がないとな…」

Kは銃を納めてから目的の物を探すためにすぐにその場を離れた。

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キルがここを出てどれくらいの時間が経ったのだろう…。
いつの間にか眠ってしまっていた私は辺りを見回すが時間を確認するものはなくベッドに座ったまま私はキルが戻るのを待った。

「待たせたな…」
「キル?」

扉が開いたと同時に部屋に入ってきたのはキルだった。片手には小さな赤い宝石だった。

「キル…それは?」
「これがここ最近にあの町で奪われた記憶の結晶だ」
「記憶の結晶?」
「あの町の人間は一部の記憶を奪い取られてその記憶が結晶化したものがこれだ」

キルの持つ宝石に街の皆の記憶が収まっていることを理解した私はキルがここまで何をしに行ったのかようやく理解できた。

「ただ…こいつを結晶化するのが魔道士だが戻せるのは錬金術師だけだ」
「錬金術師?それだったら…いるよ?」
「リーネか?」
「リーネちゃんならきっとできるよ?」
「あいつに頼むしかないか…ひとまずここから脱出だ。いくぞサクヤ」
「はい!」

ようやく呼んでくれた名前に私はこんな状況なのに嬉しかった。