複雑・ファジー小説

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.38 )
日時: 2014/07/20 13:42
名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)

第1話
ここは街の役所の前。
キルは入館するための手続きの書類を門の前の警備係に提出し、しばらくすると意外にもその許可証を持ってきたのは秘書のフィオナだった。

「ようこそキル君!これで君の入館許可もできましたよ!」
「あ…ああ…しかし…あんたが直接持ってきてくれるなんてな…」

キルに許可証手渡したフィオナは何故か上機嫌でキルにはこの笑顔が逆に怖かった。

「せっかく手に入った労働力だもの。たっぷり働いてもらいますよ〜」
「お手柔らかに頼む…」
「とりあえず仕事場に案内しますね〜。と言っても元はリーネちゃんの席だけど」

フィオナの口ぶりからかなりの仕事があるのだろうと半ば覚悟を決め、案内されたのは一つの部屋だった。
中は机が3つと会議に使うと思われる白板、本棚には様々な種類の資料等が用意されていた。

「おっ!労働力の登場か?」
「もう少し言い方があると思いますが…」

声のした方に視線を向けると両手に何冊も本を重ねて持ったバードと手ぶらのシンがいた。

「仕事のことはもうこの二人に伝えてあるから聞いておいてね?じゃああとはよろしく!」
「分かった。わざわざ悪かったな」

フィオナはキルを二人に預けるとすぐに手に持った書物をパラパラと開いて中身を確認していき、次の仕事があるのか走っていった。

「フィオナさんも大変ですね…」
「とりあえずキル。早速面倒な仕事が入っているから聞いてくれ」
「出社一日目から大変そうだな…」

キルはため息を漏らしながら部屋の中に入り他の二人も続くように中に入った。

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「風の村?」
「今君が持っている2つの指輪アクアマリン、エメラルド…そして最後の一つがその村にあるらしい。見ておくだけで君の力になるはずだ」
「うん。じゃあ最初はそこに行ってみるよ」



リーネは街での最後の夜にフランから聞いた村に向かっていた。体力があまりない彼女は細かい休憩を取ったり、キルに跨って一気に移動してきたことから休憩の回数の割にはほぼ予定通りの期間で到着した。

「ようやく見えて来たね?まだお昼だから今日はゆっくりできるね?」

キルに笑いかけながらリーネは話していき目の前に見える村に向かった。

村は国と違い検問等がなく発展途上な場合が多いことが特徴で、魔物なども侵入してくることがよくあることから国から来た人間にとっては馴染めないことが多い。事実こういった場所に住んでいるのは国に入れないものや追い出された者もおり、何も知らずに村に入ると実は盗賊の隠れ家だったということも珍しくなかった。

当然リーネもこういったことは修行の際に聞いていたことからすぐには入らずに村の確認から始めた。
リーネは荷物の中から持ってきた双眼鏡を使って村の様子を確認した。
村の中はしっかりと道が舗装されており、家の作りはしっかりと手入れが行き届いていた。村の人間を確認すると子供から大人まで様々な年齢の人間がいることを確認できた。

「最後に…えっと…あった!」

リーネが最後に確認したのは国が安全だと保証する看板だった。これは近くにある国が定期的に村を確認し安全かどうかを見てから発行される表示で一定期間ごとに更新の必要があることから村の安全性を確認できる最大の目安になる。

「表示されていた期間も大丈夫だから問題ないね?行こうキル!」

すべての確認を完了させたリーネはキルを連れて村に向かい歩き始めた。

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「はい…どうぞ。ゆっくり旅の疲れを取ってください」
「ありがとうございます!」

村の入り口で歓迎された私はキルを連れながら村に入るとおとなしいウルフが珍しいせいか子供達がキルの周りに集り始めた。

「わあ〜すご〜い」
「ウルフだ!」

子供たちの声を聞きながら撫でられたりするキルを見て笑いかけ、その間に私は宿になる場所を確認していった。

「ごめんね?ちょっと最初に宿屋に行くからまたあとでね?」

子供達に囲まれて動けないキルを見てから子供達に話していき、そのまま案内されるがままに宿屋に向かうと一先ず2泊分の料金を支払ってから指定された部屋に向かった。
部屋の広さは大体5畳程でベッドと机、角部屋だから窓は二か所、そしてしっかりと浴室までついていた。間取りも設備も文句がない最高の部屋だった。

「いい部屋だねキル?ふかふかのベッドなんて久しぶりだね!」

私は部屋の確保が出来ると、早速とこの街に来た目的のために出かけた。

目的の場所は街で有名な場所で、街の人に聞いてみたらすぐにたどり着けた。
案内された場所は洞窟になっていて中に入ると薄暗い道の奥で光を放つものが目に入ってきた。

「あれは…」

私はゆっくりと歩み寄った。キルもその光に釣られたようですぐに私に着いてきた。

「これが…オパール?」

光の正体は透明の宝石が施された指輪で祭壇の中心で淡く光り続けていた。それに反応するように私の手の二つの指輪も光を放ち始めた。

「これは驚いた…貴女は錬金術師だったようだね」

背後から聞こえて来た声に振り向くとそこにいたのは腰が曲がって、私よりやや背が低いように見える杖を付いたお爺さんだった。

「えっと…あなたは?」
「驚かせてしまったようだね…わしはこの村の村長じゃよ」
「村長さん?えっと…」

急に話しかけて来た村長さんの意図が分からず私は言葉に詰まってしまった。キルも私の横っで警戒するように小さな唸り声を上げていた。

「警戒しなくて結構ですよ。わしはこの指輪を狙って来た輩でないかどうかを確認に来た」
「わ…私はそんなこと」
「分かっていますよ。狙っていたのなら村人に聞き回ったりしないでしょう。みんなに怪しまれますからね。でもその指輪を見て分かりました。貴女は大丈夫だと」

村長の話を聞いた後に視線を入口に向けると何人かの村人が入口の道を塞いでいたことから状況を理解した。
つまり泥棒と間違えられそうになっていたということだった。

「指輪?村長さんはこの指輪のこと知っているの?」
「知っていますよ。お嬢さん。この村には図書館と言ったら大げさになりますが書物を保管した場所があるが見ていくかい?」
「えっ?いいんですか?」
「失礼したお詫びじゃよ。遠慮しなくていい」
「じゃあ…お願いしようかな」

村長さんの言う書物庫は興味があった。この村にいたという錬金術師のこと、そして私の知らない錬金術の知識を知りたかった。

「ここが…書庫?」

案内された建物は他の建物に比べて古い作りで中にはいくつもの本棚と見たことがない書物がいくつも並んでいた。

「わあ…これは…しばらくこの村に滞在かな…この量だと…4日くらいかな…」

書庫にある本棚とそこにある本をパラパラと本を捲っていき、ここの本をすべて読み終えるのに掛る時間を計算した。

「休息を考えると滞在は1週間といったあたりになるかな…。キル!宿屋に戻って延長の手続きだよ!」

すぐに今後の予定を頭に纏めた私はキルに声を掛けてすぐに宿屋に向かって走り出した。

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うす暗い部屋の中には4人の人物がいた。一人はLと呼ばれるかつては白騎士と名乗った少女は椅子に背を寄り掛らせて退屈そうに話を聞いていた。他はR、J、Nの3人がウインドウを眺めて話を聞いていた。

「というわけだ…一人だから今回はUに行ってもらうつもりだ」
「U?…誰だっけ?」

Jの説明にLは興味がなさそうながらも欠伸交じりに問いかけた。Jは小さなため息を漏らした。元々二人はあまり仲がいいものではなく無表情なRはともかくNはため息を漏らした。

「新人だよ。彼は戦闘能力がそれなりに高いからね」
「ふーん…でもあんたより弱いんでしょ?」
「そこまでだったらKの空きはもう埋まっている…」

Nの説明にLが返答すると言葉を詰まらせてしまった。

「仮にも私と渡り合えた娘よ?甘く見過ぎよ」

普段他人を評価しないLの言葉にRとNはもちろんJも驚いた。すぐにJはNに対して視線を向けるとNは部屋を出て行った。

「さて…どこまで強くなっているかお手並み拝見ね」

クスクスとLは一人で笑みを浮かべてからNに続くように立ち上がり部屋を出て行った。