複雑・ファジー小説
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.39 )
- 日時: 2014/07/24 19:04
- 名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)
第2話
私が村に滞在してから3日の時間が経過した。
その3日間は書庫に朝から晩まで籠っている状況で、退屈なキルは横で朝から晩まで眠っているという状況。
本棚2つ分にある約50冊の本は読破してしたと思う。ただすでに読んでいたり知っている部分は読み飛ばしたりはした。
ここの書物の中身で真っ先に目に着いたのは過去にいたという風の錬金術師についての記述。そして空気や大気に関する記述。そしてそれらが他に与える影響について等、いくら読んでも終わりが見えないほど中身の内容自体は濃かった。
記述によるとその錬金術師は他にも魔術や占い等もできたらしく、村でありながら国と殆ど変らないほどの発展もしていたみたいだけど、時間と共にその時の技術は忘れられてしまって今のこの村のようになったということだった。
そしてここまで読んできたのは空気や風を錬金術にどう応用できるかが具体的に記述されていて、早速と手の上で記述されている手順で術を使ってみた。
媒体は空気で手の上でこの空気が流れていくイメージで術を発動すると手の上で、竜巻と言ったら大げさな小さく柔らかな風を生み出せた。
「できた…これで…大体7割くらいは読んだかな…」
本を読み終えてから風を消して、今読んだ本を戻して隣で眠っているキルに寄り掛り体を休めた。当然のようにキルは自分に掛った体重に気づき目を覚ました。
「ごめんキル…ちょっとだけ休憩するから何かあったら呼んでね?」
慣れないことをしたせいか大きな疲労を感じて、私はキルに指示を送ると、大きな欠伸をして本棚に寄り掛り瞳を閉じた。
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「ひひ…あれがターゲットのいる村か…」
白髪に黒いローブを身に付けた男はスコープを使いようやく見えて来た村を確認していた。
見た目からは若く見えるものの正確な年齢は分からない見た目で垂れ目ながら品のない笑みを浮かべた。
「まだこんなところにいたのかい?」
「Nか…何の用だ?」
男は背後からの声に睨むような形で振り向くと見つかったのはNだった。
「U…君の初仕事だから様子を見に来た。JやLがしっかり働くか見に行けと言われたからね」
「言われなくても簡単だ。少し痛めつけてから捕まえればいいんだろ?」
Uにとっては任務以前に戦いや殺戮が出来ればいいという考えで、その凶悪性と戦闘能力の高さからスカウトされてきた。そんなUにとっては今回の任務は正直退屈なものと感じていた。
「じゃあNはそこで見ていろよ?さっくりと終わらせてくるからよ」
Uの言葉に答えようとしたNを他所にすぐにその場からUの姿は見えなくなった。
「気が早いな…まあ…いいとするか…」
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「なに!?」
眠っていた私の耳に響いたのは大きな爆発音だった。キルもすぐに気付いて扉を開けた。続いて私も外に出た時に見えたのは言葉にできない程の惨状だった。
「魔物?でも…何もいない…」
家は壊され、何かと戦ったのか街にいた男の人たちは血を流して何人も倒れて子供の泣き声も聞こえた。それどころか男の人や建物が突然何かの爪を受けて鮮血と共に倒れて行った。
「大丈夫ですか!?」
すぐに今倒れた男の人の元に駆け寄ったがすでに息絶えた状態だった。その瞬間今度は後ろから女の人の悲鳴が聞こえすぐに視線を向けたけど背中に同じく爪の痕が残っていた。
「な…何なの…?キル!!」
今出せる精一杯の声を出して私はキルに呼びかけた。同時にキルの毛並みは淡い青い光を放ち始め同時に一点を見据えて同時に飛びかかって行くと何かを跳ね飛ばし建物に衝撃を受けた。
「何?」
建物の中に飛んで行った何かをキルは唸り声をあげて警戒しているようだった。
「驚かすなよ。夢中になっていたから気付かなかっただろ?」
建物から現れたのは黒のローブに白髪、そして両手には3本のクロウが装備されていた。そしてその爪には当然のように血が滲んでいた。
「誰?何でこんなことを…」
「ひひ…俺はUだ…フェンリルを連れている女…リーネだな…」
キルのことを知っている?
それに私のことを?
「任務に従ってお前を連れに来た。少し痛みつけてからな!」
同時に飛び込んできた男が右手のクロウを振り下ろしてくるのが見えた。
咄嗟に横に体を捻り攻撃を交し同時にキルが横から男に突進をして距離を取った。
「ありがとうキル…何で私を狙うの?それに村をここまでする必要がないよ!」
突然襲って来たUと名乗った男の意図がまったく分からない私はジッと相手を見据えた。
「必要?何言っているんだよ。お前に関わった時点でこの村は皆殺しなんだよ!」
「えっ…何…?」
この人の言っている意味が分からなかった。
何でこの街を襲った?私がここに来たから?
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Uの言葉にリーネは言葉を失って茫然としてしまっていた。
それを確認してすぐにUはリーネに飛びかかったが同時にキルはその間に入り爪を体で受け止めてから体を反転させて後ろ足で蹴りリーネから距離を引き離した。
「ちっ…さすがフェンリルだな。ずいぶん丈夫じゃねえか。面白くなってきたな」
「おもしろい?こんなに村を壊して…こんなに村の人を傷つけているんだよ!」
「だから楽しいんだろ?今そのウルフも切り刻んでやる」
Uの言う言葉にリーネはゆっくり顔を上げた。同時に感じた言葉に表しようがない恐怖にUは一歩後ずさりした。
「キル…ここはいいよ。逃げ遅れた。村のみんなを助けてきて…」
リーネの言葉にキルはすぐにその場を離れて行った。
「は…はは…いいのかよ?お前一人で俺を倒すつもりかよ?」
「そうだよ…」
リーネの小さな声ながらもしっかりと言い切ったその言葉に対して、すぐに飛び込んで爪を振り下ろした。その振り下ろされた右の爪をリーネは後ろに下がって避け、続いた左からの横殴りの爪をすぐにしゃがんで避けてから街の入口に向かって走った。
「逃がすかよ!」
Uは懐から人一人包みこめそうな白い布地を取り出し、それを頭から被るとそのまま姿が消えてしまった。
リーネもその様子に気づくと指に嵌められた指輪が青く光り、人差し指を立てて手を横に振ると、光と共に自分とUの間に薄い氷の壁を出現させた。
「それで壁のつもりか!」
同時に壁は破壊された。その瞬間砕かれて飛び散りひんやりとした空気も気にすることなく、目の前に見えたリーネに斬りかかろうとした瞬間姿が消えた。
「何!?」
Uが驚いて動きを止めた瞬間右手を掴まれる感覚に気付いた。
「そんなに濡れていたら…隠れられないよ?」
Uが指輪の光に気付いた時、すでに体はその体は氷ついていて身動きを取ることが出来ずにいた。
「お前…何を…」
「最初の氷の壁だよ。砕かれてから作られた氷はすぐに元の空気に戻るけど、その前に霧状の冷たい層になったの…。そしてあなたが付かったそのマントみたいに光の屈折を利用したの…」
「まさか…蜃気楼を起こしたと言うのかよ…」
リーネはUから姿を消すために使っていたマントを奪いそばに投げ捨てた。いつの間にか右手のクロウはへし折られていることに気付いたUは自分と相手の力の差に言葉を失った。
「覚えたばかりだったけどね…後は霧で濡れたあなたを凍らせたんだよ」
リーネが説明を終わらせた時、村人の非難を完了させたキルが戻ってきた。すぐにでも噛みつこうとするように見えたキルを片手で制止させた。
「やっぱり見に来てよかったよ」
声と共にUの後ろから現れたのはNだった。
突然姿を現した青年の姿にリーネは先と同じ姿を消すマントの可能性を考えたがそういったものを持っているようには見えなかった。
「あなたは…?」
「僕はN。部下が迷惑を掛けたね」
Nのその言葉と共にリーネとキルはすぐに後ろに下がった。その瞬間地面に大きな亀裂が入った。同時にNの前にいたUも横に切り裂かれていた。