複雑・ファジー小説
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.4 )
- 日時: 2014/06/24 16:20
- 名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)
第4話
この町に来て一週間になった。
昨日ようやくターゲットの暗殺を終わらせた。
しばらく待機という指示だが正直暇だ。
街を見る限りだといろいろな人種がいるようでいつもの服装でも目立つことはなかった。もっとも衣装の調達をする必要がないから好都合ではある。
お昼も近くなってきたこともあり空腹を感じ始め、いつものように黒のコートを羽織り出かけた。
昨晩は仕事の際に姿を見られてしまったのがやはり気になった。ターゲットの屋敷を狙いやすい位置だからと安易に狙撃場所に選んだことが災いしてしまった。
考え事をしている間に市場に到着し、昼食を何にするかと辺りを見回している時、不意に視界に入った昨晩の人物に気づいた。
(あいつ…確か昨日の…)
視界に入ったといっても実際の距離的には数百メートルは離れている。
元々、裏の人間や組織にはそれぞれ特徴がある。
俺の属する組織の場合は基本的な身体能力は常人より高く、それぞれある一部の能力が発達している。
俺の場合は視覚になる。この眼により俺はその気になればキロ単位の狙撃もスコープなしで可能だ。そんな視力が彼女とおそらくゴロツキと思われる男たちを捉えたのだった。
(見つけておいて無視はさすがに後味が悪いか)
小さくため息をして一度当たりを見回してから、ちょうどいい具合の足場を見つけ、その場から屋台の屋根に移動した。
「悪いがちょっと失礼するぞ。」
驚いて顔を出した店主に対して一言だけ声をかけ、すぐにその場を跳躍して離れた。
-----------------------------------------------
「なんだお前?この辺じゃ見ねえ奴だな」
よくありがちな言葉に特に気にすることはなく、むしろ片手の上で暴れる黒猫に飽きれてしまっていた。
「ずいぶん我儘な猫だな」
「えっと…その子…今朝拾ったばかりだから…」
捕まった状態の相手からの返答、昨晩の相手からの言葉を思い出し、多少ズレているタイプなのだろうと考えてから俺は周りの男たちに視線を向けた。
「それで…お前らはそいつをどうする?」
男たちの様子を一度見ていき、その中から何かしらを取り出そうとするために腕が動く様子を確認した。その瞬間、腰の銃を抜き一発分の銃声が響き、そのまま一人の男が倒れた。
「安心しろ…。ゴム弾だから死にはしない」
「なんで…今一発しか銃声しなかったぞ?」
倒れた男を見て両肩、両足に銃弾を受けている様子に残りの男達は驚いて身動きが取れずにいる様子だった。
銃は黒いリボルバー式の銃でそのまま空いた箇所に見せつけるように実弾を込め始め、急いで男たちはその場を離れていった。
「あの…ありがとうございます」
「次からは気をつけろよ…」
簡単に返事をして空腹と彼女にあまり関わりたくなかったことから、黒猫を地面に下ろしさっさと市場に行こうと踵を返した。
その瞬間、手を掴まれる感覚を感じ振り返った。
捕まれた手を振り払うこともできたが何故かできなかった。
「私サクヤといいます。この子はクロ。あの…あなたは?」
「名前…俺に名前はない…」
実際名前がないのは本当だった。
組織には幼いころから所属しており「K」というコードネームしかなかった。
他の奴らについても全員がアルファベット一文字で区分されている。
「名前がない?」
「お前の好きに呼べ。」
首を傾げるサクヤに一度ため息をしてから話していった。
ここまで手を握ったまま離す様子もなく、首を傾げる様子に本当に名前を考えているのだろうかと思ってしまう。
「じゃあキル!何てどうです?」
「勝手にしろ…それよりいつまで手を捕まえている」
「あの…お礼をさせてください!」
手を握ったままのサクヤの言葉に一瞬何を言っているか分からなかった。
「お礼?」
「そうです!キルが来てくれなかったら皆のご飯がなくなる所でしたから…だから…昼食ごちそうさせてください!」
サクヤの申し出に自分の立場と今の状況を照らし合わせてみた。
さっきの発砲で人が集まってきたこと、空腹の具合、そして何よりここまで見たサクヤの性格から帰してくれるかどうか。
「分かった…。ならごちそうになる…」
導き出された答えはこれだった。
サクヤは俺の返答に対し無邪気な笑顔を向け、黒猫が行き先を先導させながら俺の手を引いて行った。