複雑・ファジー小説

Re: ある暗殺者と錬金術師の物語(本編第2話追加) ( No.40 )
日時: 2014/07/28 23:37
名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)

第3話

Nと言う人が現れた瞬間だった。彼が腰に下げた刀を握る姿に気づいてほぼ無意識に後ろに下がった。
そしてその数秒後に私の目の前に映ったのは横に切り裂かれた跡が付いた地面、二つに分かれたさっきまでUだったものだった。

「うっ…何で…あなたの仲間じゃないの?」

見慣れないものに動揺してしまった私は口元に手を当てた。その瞬間Nと名乗った青年の背後から一瞬炎を体に纏わせた鳥の姿が見えた。

「鳥?」

私の呟きに対してNは一瞬驚いたような表情を浮かべた。ほぼ同時に炎に包まれたUは跡形もなく消えてしまった。

「驚いたよ…よく見えたね…Lが手こずる訳だ」
「L?それも…あなた達の仲間?」

実力がまったく分からない相手に私はさらに一歩距離を取った。

「答えるつもりはないよ。今彼を処分したのは予想以上に使えないと思ったことと村でこんなに暴れた制裁だよ」

口調は優しい雰囲気を出しているけど、だけどこの人は危険だとすぐに分かった。
だけど今の言葉で私の考えの甘さが分かった。
危険どころじゃない…関わった時点で死を覚悟する必要があった。それほどの命の危機に今、直面している…。

「さて…次はこの村の番だね…」
「何で?この村の人はもう関係ないよ!」
「僕達に関わったものはみんな消えてもらうからね…」

彼の言葉から次に何をしようとしているか分かった。

-----------------------------------------------------------------

ゆっくりと剣を抜いていくNに対してリーネはすぐに耳を両手で塞いだ。

「キル!お願い!」

リーネの言葉と共にキルは大きなおたけびを上げた。その声は耳を塞いでいるリーネでもはっきりと聞こえるもので、その大音量なおたけびに一瞬怯んだNを見てからすぐに地面に手を当て、それと共にNの周りからいくつもの棍が地面から伸びた。

「まだ甘いね…」

伸びて直撃しようとするいくつもの棍をNはすべて切り裂いた。一瞬それにリーネが目を見開き動きが鈍った。
その一瞬でNの剣閃が自分の首に向かってくるのがリーネには見えた。

「わっ!」

咄嗟にリーネはしゃがんで剣閃を避けた。Nにすぐに視線を向けてすぐに二撃目の動きを察知して、後ろに下がって追撃を回避した。

「攻撃はともかく回避能力は高いようだね…。でも攻撃が駄目だね。ちゃんと先端は棍じゃなくて槍にしないと」
「槍だと怪我をするよ」
「甘いよ?そんな考えである限り僕は倒せないよ?」

Nが刀をゆっくりと構え直した時、刃に太陽の光が反射してリーネの視界が揺らいだ。
次に視界がはっきりした時、リーネの視界に映ったのはほぼ目の前に映るNの顔で、殆ど時間を置くことなく右手に痛みを感じた。咄嗟にキルはNに飛びかかるも次の瞬間には

「あ!ぐう…」
「峰打ちだから安心していいよ」

リーネは自分の右腕がしっかりと繋がったままであることを確認した。赤い痣になった腕を抑えながら術を使おうとするも同時に着きつけられた刀で術を止めた。

「いい判断だね?今度は腕を斬るつもりだったからね」
「…私を連れて行ったら…ここの村の人は助かるの?」
「無理だね。ここの人たちを消してから君を連れていくのも簡単だからね」

Nの言葉にリーネは大きな怒りを覚え、それに反応するようにキルも再びNに飛びかかった。
その行動にNは刀をキルに向けた。その瞬間リーネの緑の指輪が光り地面からいくつもの槍が飛び出してNに向かって延びた。

「いまさらそんなもの…効かないよ!」

Nは何本も伸びる槍をすべて切り落とし、飛び込んできたキルをそのついでのように叩き落した。

「こっちが本命だよ!」

Nが槍やキルに視線を向けている間にもう一つの青い指輪が光り、空気中の水を集めたことでできた水柱をNの頭上から降らせた。

「ぐっ…こんな術を…」

水圧に押し負けそうになり片膝を付いた。その時リーネは先に見た火の鳥が見え、次の瞬間には水柱は蒸発した。

「今の火の鳥…」
「よく見えたね…今のは僕の使う奥義の一つだよ」

Nの言葉からその奥義という物がまだいくつかあることが予測でき、リーネとキルは再び身構えた。

「なんだぁ?この村…廃墟なのか?」

不意に聞こえた緊張感のない声にリーネは驚き振り向き、そこにいたのは以前に出会ったことがあった少年の姿だった。

--------------------------------------

「えっ?ジン?」

村の入り口に殆ど無警戒で立っていたのは以前に街を訪れたジン。
久しぶりに見たジンは腰までの長さの水色のコートを羽織り、中には黒のジャケットを身につけ下は茶色のズボンを履き腰には刀を下げて本当に以前見たままの姿のままだ。

「余所見をしていていいのかい?」

不意に聞こえたNの声に私は背筋に寒気がした。次に視線をNに戻した時キルは横殴りに吹き飛ばされていた。
私とNとの距離は大凡2歩分くらい。

終わった…———

頭の中でそんなことが過った時に聞こえたのは金属同士がぶつかったキーンという音だった。

「いきなり何しているんだよ?女に刀を向けるなんてどう考えても悪者だぞ?」
「驚いたよ…あの距離からの高速移動…君は何かを持っているね?」

突然目の前で私とNの前に割って入ったばかりか、Nの横斬りをジンは鞘から刀を僅かに引き抜いて刀を受け止めていた。
ジンは同時に片足でNの足を払うように蹴りあげようとするとNは後ろに下がり距離を取ってから刀をお互い鞘に納めた 

「ジン?どうしてこんなところに?」
「ん?…食料が尽きて村みたいなの見つけたから来てみたら、あんたとこいつが対峙していたからついな…」

私は今の話を聞いて気になったことがあった。
村をよく見ないできた…よくここまで旅ができたなあ…。しかもあんた…完全に私を忘れている?
呆れながらも相変わらずな様子のジンに私は危険な状況なのにも関わらず笑ってしまった。

「それで…こいつがこの村をこんなふうにしたのか?」
「えっと…この人の…組織が私を狙って…それで…」

私の話を聞くとジンはすぐに刀を鞘に納めたまま構え、Nも同じように刀を納めたまま構えた。
私はその間にキルの元に駆け寄ったキルは多少の切り傷があったものの少しずつ回復していった。

「ということは…こいつは倒した方がいい訳か」
「大きく出たね…」

何を合図にしたのか二人はほぼ同時に飛び出し鞘から刀を引き抜いた。そのまま互いの刀はぶつかり合い火花が散ったのが見えた。

「居合の速さは互角みたいだね」
「そうだな…」

二人は互角と言っているけどジンにはさっきまでの余裕を見せていた表情が見えず、一方のNは全く動じている様子が見えなかった。

このまま加勢してもすでに動きを読まれてしまっている私は足手まといになる…。

「おい!早く逃げろよ!お前が狙われているんだろ!?」

ジンの一言で走り出そうとした時、私の頭の中であるものが浮かんだ。

「風の指輪…あれがあれば…。キル!ジンのサポートをお願い!」

私の一言でジンは私の次の行動が予測できたのかすぐに何回も斬撃を繰り返して私からNを引き離し、キルもそれに続くように飛び込んで行った。
私の意図に気付いたのかNは私に刀を振ろうとしたところでジンの蹴りでNの接近を防いでいた。


私はその横を全速力で走り村の中に再び入って行った。
指輪が捧げられている洞窟まで来ると指輪は昨日見た時よりも大きく光っていた。

「風の指輪が…光っている?」

私は飾られている指輪に手を触れさせると私の周りに風が纏ったような感覚、それと共に頭の中に一つの映像が映った。
見えたのは茶髪の女性、そして黒髪男の姿が見えた。二人の見た目は私より年上のようだった。女性は杖を持ち一目で錬金術師だと分かった。男は黒いマントにその中には金色の装飾のあるペンダントと黒いシャツとズボンを身に着けていた。
二人は何かを言い合っているように見えた。しかし男が片手をかざした瞬間女性は苦しむような動作をして…

「あっ…何…今の…」

突然頭に流れてきた映像は女性が倒れたところで中断された。
この指輪の持ち主の記憶が途切れたから?
あの男の人は誰?いったい何をしたの?

淡く光った指輪を握りしめたけど私の疑問に答えてくれることはなかった。