複雑・ファジー小説
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.42 )
- 日時: 2014/08/08 14:22
- 名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)
第5話
「ああ…そういえばいたな…あの時の変な奴」
「変な奴は余計だよ…」
私は村を出る準備のために簡単な荷造りのために夜の宿屋の部屋にいた。
ジンはキルの横に座って私の話を聞いていた。話すことで分かったのは忘れていたのが私だけだということだった。
確かにあの時はあまり目立っていなかったかもしれないけど…
「それでジンはどうするの?この村…今は復興で忙しいから旅人さんを受け入れる余裕ないみたいだよ?」
「まあ何とかなるだろ。ちょっとだけ食料を買ったら次の旅に行くつもりだ」
ジンは私の部屋にいるというのに特に気にする様子もなくキルを枕代わりにして床に横になり、私はベッドの上で地図を広げて次の行き先について考えていた。
「私はどうしようかな…」
「というかそれ…村のものだろ?返さなくていいのか?」
「あっ…この指輪?これ…村長さんがくれるって」
私がこの村を出ること、そして指輪を返却しようとした時村長さんは指輪を持っていくように言ってくれた。
話によると指輪自体を手にできる人がいなかったということだった。だから村を守ってくれたお礼も含めて持っていってほしいということだった。
「だから私…もっと強くなるためにまた旅に出るよ!」
「俺はもう少し旅を続けるか…あのLって奴もそうだが…Nって奴からも話を聞きたいからな」
ジンは笑いながらキルを枕にしたまま寝ようとしていた。だからこそ今の私にとって一番重要な問題があった。
「ちょっとジン…私そろそろ着替えて寝たいんだけど…?」
「いいぞ〜。別にお前の着替えなんか見ても何とも思わないからな」
「私は思うのよ!!」
未だかつてない威力の蹴りがジンの体吹き飛ばし部屋から追い出した。
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朝になりしっかりと睡眠を取ったリーネは荷物をキルに背負わせて宿屋を出た。宿屋の出口では昨晩追い出されたジンの姿があった。
「あれ?ジンも今から出発?」
「まあな。ここだと休憩はできても修行も人探しもできないからな」
ジンの一言でリーネは以前会った時に聞いた話を思い出した。
リーネはジンが街を出ていく時にカグヤと一緒にジンの旅の目的を聞いていた。
ジンは修行の旅をしながら自分の村の敵撃ち、そしてもう一つ目的があった。それは行方不明の妹の捜索だった。
ジンの話によると村人の遺体の中に妹の姿だけはなく、もしかしたら逃げたのかもしれないと生死も分からない妹を当てもなく探しているということだった。
「まだ妹さんは見つからないの?」
「なかなか有力な情報がないんだ。ただ今行こうと思っている国は移民を受け入れるのが多いらしいから行こうと思うんだ」
ジンの話を聞いて安心したリーネは村の出口に一緒に向かい出口の警備員に挨拶をしてから村を出た。
村の人間達は二人と一匹に対してお礼を言って送り出してくれリーネに至っては大きく手を振り村を出て行った。
「ねえジン。いろいろ世界を回っているなら聞きたいことがあるんだけどいい?」
「聞きたいこと?俺は錬金術のことは分からないから行き先のアドバイスなんかできないぞ」
「そこは期待していないから大丈夫!」
リーネの断定的な言葉にジンは苦笑いを浮かべていた。この言葉に悪気がない辺りが尚ジンに取ってさらなるダメージになった。
「それで何を聞きたいんだよ…」
「えっと…金属の扱いに優れている街を探しているの」
「金属?何でまたそんな街を探しているんだ?」
「どうしても作らないといけないものがあるの。だから…そこを次の目的地にしたいの」
リーネからの言葉にジンはこれまで回ってきた街を思い出していった。そしてその中で一つ思い当たる街があった。
「そうだ…リーネ。お前の地図を借りていいか?」
「うん…これで分かるかな?」
リーネは前持って用意していた地図をジンに見せた。ジンはその地図を見ながら現在位置と自分が知る街を確認してある一点の場所を差した。
「ここだ…山に囲まれた街だがこの国は金属加工が俺の知る限りで一番だ」
「遠い…」
「まあ平気だろ。ここからなら1週間は掛らないし…それに別に急ぎじゃないんだろ?」
「確かにそうだけど…それしかないね」
ジンの話を聞いて地図を確認した後にため息を漏らすと2つの分かれ道が二人の前に現れた。それぞれ分かれて旅をさせるように与えられたと思われる道の前でリーネは足を止めた。
「一緒に旅もいいと思ったけど…ここまでみたいだね」
「少しはタダで過ごせると思ったけど…仕方ないよね」
ジンの言葉にリーネの無言の拳が放たれるも今度はすぐに避けてそのまま走って片方の道に向かった。
「おい!リーネ!」
「なーに?」
少し離れた位置からのジンの声にリーネは声を大きく出した。そんなリーネの視界に映ったのは満面の笑顔を浮かべたジンだった。
「俺は次に会った時は今より強くなっているからな!」
「私も!今より立派な錬金術師になっているからね!」
ジンもリーネの言葉を聞くとそのまま走り出した。リーネにはもう視線を迎えることもなく見えなくなるまでリーネは見送った。傍らにいるキルはリーネを見上げていて笑いかけながら人とは反対方向の道を確認した。
「よし!行こうキル!私達の旅はまだまだ終わらないんだからね!」
リーネは一度キルの頭を撫でるとギュッと拳を握りしめてから走ってその長い道を走って行った。
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「対象確認…そっちは…」
少女の声が無線機を通して耳に届いた。その声に続くように先まで走っていた様子の男の荒い呼吸音もピタリと止まった。
「こっちも問題ない…いつでも飛びだせるぞ」
男の声を聞き無線機に向かって小さく息を吐くと自分の武器である銃を片手に取った。
彼から大凡数メートルの位置には巨大なドラゴンが森の中を歩いていた。
最近は街の周りにいたウルフやベアは数が減っていき代わりに大型で一般には退治しにくいものばかりが増えて来た。そのために最近の魔物退治は人手不足で、彼らは朝から晩まで魔物退治をしている状況だった。
「よし!行くぞシン!バード!」
彼の一言が無線機に向けて指示を出した時、ドラゴンの後ろから飛び出してきたバードは背中の大剣でドラゴンの横から斬り掛った。固いドラゴンの皮膚に大きな切り傷を与え、それに続くようにドラゴンの頭に大きな衝撃が与えられて体を大きく横に踏み出して怯んだ。
「今だ!やれキル!」
「任せろ」
バードの声に反応して無線機から指示を出していたキルは銃を構えて3発の銃弾を撃ち込みドラゴンの首元に命中しその瞬間、ドラゴンは光りに包まれたまま四散して消えた。
「またこのパターンですか…ここ最近の魔物はやっぱりおかしいですね」
木の上から狙撃をしていたシンはライフルを片手に持って二人の元に下りて来た。バードも今使ったばかりの大剣に視線を向けてその異変を確認した。
「確かに…今だってしっかり斬りつけたのに全く血も付いてないし…魔物の亡骸だって残らない…どうなっているんだ?」
「何か対策がいるな…。こう定期的にAクラスの魔物が現れるのは明らかに変だ…」
キルは銃を納めてから地面に落ちた光るものに気付き拾った。キルの手にした石は数センチ程の大きさで赤い石だった。
「何だそれ?宝石か?」
「魔石だな…しかし見たことないタイプだな…」
「そういったものは僕たちよりも帰ってフィオナさんに確認したらどうですか?」
ライフルを分解するシンに対してキルはため息を漏らして懐に石を胸ポケットに入れた。
「それにしても…なんかこうも簡単に片付くと逆に不気味だよな」
「珍しいですね…バードさんはいつもこういうときは一番楽観的じゃないですか…」
ライフルを片付けたシンは別で銃に弾込め作業をして呟き、当然それが聞こえていたバードと言い争いを始めた。
流石に見慣れた光景になったキルは銃のシリンダーに弾を装填してから二人の間に割って入った。
「ほら…報告書があるから痴話喧嘩は終わりにしろよ」
「何でこんな奴とそんな喧嘩しないとだめなんだよ!」
「確かに…無駄な時間でしたね…帰りましょう」
表情を変えることなく街に向かい歩き始めるシンにバードは声をあげて追いかけていき、キルはそんな二人を見て密かに笑みを浮かべてから後に続いて歩いて行った。