複雑・ファジー小説

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.43 )
日時: 2014/08/13 23:25
名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)

第6話

「うーん…初めて見る魔石だわ…」

役所に戻った俺はバードとシンに報告書を任せてから秘書のフィオナに赤い魔石の確認を頼んでいた。

「でも凄いわよ?この石…僅かずつだけど私の魔力を吸収しているわ」
「魔力を?」
「ええ…多分人工的に作られたものね…ここまで高度な者だと…凄く上級な魔術師ね…」

魔術の話が分からない俺は正直さっぱりな話だった。

「おーいキル。終わったか?」
「こっちは一応報告書を提出してきましたよ」

秘書室に入ってきたのはシンとバードだった。そんな二人にフィオナは目もくれず手に持った赤い魔石と魔術書を何度も見ていた。

「結局魔石については分からなかったのか?」
「フィオナも見たことがないらしい」
「そうなると完全に未知の物体というわけですね」

フィオナは魔石を机の上に置くと自分の椅子の上にポンと座り込んだ。本を閉じたところを見ると解析を中断したようだった。

「一つだけ分かったことはあるわよ?この魔石を作った奴が凄く最悪な奴だってこと…」
「最悪?どういうことだよ」
「みんなはそもそも魔術師が作る魔石については知っている?」

フィオナの問いかけにシンは分からないのか首を横に振り、バードについてはため息を漏らして知らないと手を振った。正直俺も魔術の類はよく分からないことから興味自体はあった。ただこいつの話は長い…果たして何人がこの話をしっかりと聞くのだろう…。

「魔石は元々鉱石に魔術師が魔力を注ぎこんだ物なの。稀に自然に魔力を蓄積させて行く鉱石もあるけどね」
「そうなると…前にリーネが見つけた魔石は貴重なものだったんですね…」
「そうよ?口にこそ出さなかったけどあれにはびっくりしたわよ」

フィオナの話を聞いてそういったことが出来そうな魔術師には一人だけ覚えがあった。ただそいつのことは俺自身もそこまで言うほど知らないし戦っているところも見たことがないから確信はできなかった。

「話を戻すわ。人工魔石だけどこの効果は作った魔術師の力に影響されやすいの。例えば私が作ったら多分属性強化系かしら?」
「多分?何だよ…作ったことないのかよ?」
「作るのが大変なのよ。それにできても私にはこの本があるし、それに他に魔法使う人いないし」

バードの言葉に特に気にすることもなくフィオナは簡単に説明しながら手に持っていた魔石に何かしらの術を掛けた。

「ただこの魔石はこうして何もしないでいると辺りの魔力を所構わず吸収して自分の力にしている…」
「つまりこの魔石を作ったのは魔力を吸収するような魔術師ということですか?」
「そういうこと…それでこの話を聞くと思いだすことない?」

フィオナの話を聞いて思い出したのはリーネの父親の話だった。同じことを考えたのかバードやシンも顔色が悪かった。

「おい…まさか…」
「多分そうね…この魔石を作ったのはリーネちゃんの父親の敵と見ていいわ」

バードが確認した言葉はすぐにフィオナが肯定した。フィオナは術を掛け終えた魔石を手に取った。その石は先とは違い黒ずんだ物になった。

「今この石には封印術を掛けてみたわ。正確には辺りに干渉しないようにしたんだけどそうしたら魔力を吸収できなくなって、ただの石に戻ったわ」
「しかし…気になるのはなぜこんなものが落ちているんでしょう…」
「召喚術だな?」

シンの疑問に俺が思いつくのはそれだった。フィオナも黙って頷いた。

「キル君の言うとおり。正確にはこの石に召喚術の魔力を吸収させておいて後から発動させているんでしょうね。だから最近のAランクの魔物はまるで存在していないものみたいに消えるのね」
「なんか随分変な奴らに目を付けられてないか?」

バードの言葉を聞いて真っ先に思いつくのが俺を狙った組織の存在だった。
あまり考えたくはないが俺の出方や街の戦力を図るための様子見と考えるのが自然だ。

「はい!とりあえず今日はここまで!またお仕事が出てくるまではしっかり休憩しておくこと!」

フィオナの話で俺は思考を中断させた。
シンとバードは一先ずの仕事を終えて各々気を抜いた。俺はさっきの魔石のことが気になりやや落ち着かなかったがそれさえも見破られているのかフィオナはにこやかに笑い先の魔石に何かしらの術を掛けることでそれは砕け散った。

「これで心配の種はなくなったでしょ? キルも早くサクヤさんに会いに行ってあげて!」
「ばか…余計な御世話だよ」

フィオナは全く動じる様子もなく笑みを浮かべていて小馬鹿にされている気分になった俺はため息をしながら他の二人と一緒に部屋を出て行った。

----------------------------------------------------

「ふーん…じゃあライフルの反動は大丈夫だったみたいね」
「ええ…威力も反動の具合も問題ありませんでした」

カグヤはシンのライフルを組み上げたまま銃のメンテナンスをしていた。
キルもカグヤから工具を借りて簡単な掃除をしていてその間退屈なバードはクロの面倒を見るのが仕事だった。

「それにしても…ここって繁盛しているのか?」
「あんたらだけでも十分な稼ぎになっているわよ。それに最近はあんた達が活躍してくれるから役所からたくさん礼金も入ってくるもの」
「だからいつ来てもタダ同然な訳か…」

カグヤの話にバードが感心している間にキルは銃の調整を完了させていた。
キルの持つ特殊な銃は作りも特殊なせいで本人にしか直せず、銃好きのカグヤに取っては一度分解して中身を調べたいということだったがいつ帰ってくるか分からないからと断られていた。

「それで?あんた達、今日はもう仕事終わったの?」
「今日は朝早かったからフィオナさんが気を利かせて休ませてもらいました」

シンの返答にふーん…と簡単な返事をしてライフルをシンに手渡し、分かり切っていながら一人ずつに指さして人数を確認した。

「5人ね。じゃあキルはお姉ちゃんに連絡してよ。私は他の銃も見ないといけないし」
「人数を伝えればいいんだな…分かった」

キルは銃を納めて家の中に入っていきその様子を見てからシンは腰に納めた銃をカグヤに手渡した。

「いいんですか?」
「いいのよ。これくらいしないとあの二人は進まないでしょ?」
「僕は貴女のことを言ったんですけど…」

シンの言葉にカグヤは顔を逸らしてシンの銃の分解を始めた。その様子にバードは空気を読まずにズカズカと歩み寄ってきた。

「何だよシン?カグヤの弱みでも握ったか?」
「バードさんには関係ない話です…」

そっけない返事にバードは自分が悪かったのかと首を傾げるばかりだった。

-------------------------------------------

「サクヤ?いるか?」
「あら?いらっしゃいキル」

キルが部屋に入るとサクヤは夕食の用意をしていたのかエプロン姿でキルを出迎えた。

「カグヤが今日は5人分の夕食を頼むってよ」
「ということは…今日はみんな勢ぞろいなのね?他の皆は?」
「外で武器のメンテ中だ。終わったら来るだろ」

キルの言葉にサクヤは張り切り始め鼻歌を歌いながら鍋の中を混ぜている様子が見えた。
鼻に届く香りから今日の夕食はカレ—だと分かるとキルはすぐに食べられるようにと椅子に座った。

「あっ!キルはカレ—の味何がいい?辛い方が好きかしら?」
「ん?あまり食べたことがないからな…。いつも作っている味付けでいいぞ?」
「じゃあ辛口にするね?」

意外な味付けの選択にキルは一瞬驚きながらもこういった味付けが好きなカグヤの存在を浮かべてすぐに納得できた。

「そういえばキルは明日休み?」
「明日は…」

キルが考えたのは今朝確認した一週間の休日の内容だった。

「大丈夫だな…。明日は次の調査だからみんな休憩らしいからな」
「よかった!じゃあ明日一緒にお出かけしない?」

サクヤからの誘いに予想していなかったことから明日の予定を変えることに弊害があるかどうか考えた。
最もキルの休みは銃の手入れか寝ているかであって予定のようなものはいつもない。

「出かけるのはいいがどこか行きたい場所でもあるのか?」
「みんなでピクニック何てどうかと思ったの!」
「ピクニック?」

キルにとっては聞いたことがない内容の行事だった。

「みんなでお出かけしてお弁当を食べるのよ?楽しそうでしょ?行きましょう?」
「どうせ暇だからな…じゃあ行ってみるかな」
「うん!明日が楽しみね!」

キルの言葉にサクヤは満面の笑みを浮かべて答え、予想以上に喜ぶサクヤにキルは戸惑いながらも心の奥では明日の外出を楽しみにしていた。