複雑・ファジー小説

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.44 )
日時: 2014/08/18 10:52
名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)

第7話

「ふう…ここは涼しいわね…」
「本当だね。ここなら危険もなさそうだしね」

ここは街から少し離れた位置にある森の中。魔物の出現報告もなく避暑地としても町ではそれなりに有名な場所だった。リラックスした様子で森の中を歩くカグヤとサクヤの後ろを4人はついて行くように歩いていた。

「しかし…何で僕まで呼ばれた…」

キル、バード、シンの3人に続いて歩いていたのはフランだった。

「いいだろ?どうせ暇だろ?」
「貴方は保安官を何だと思っているんですか…」

バードからの言葉にフランは呆れ果てた様子で答えた。実際は3人が出かけるなら休みを取らないフランも連れて行くように所長やフィオナに頼まれたから連れて来たのだった。

「それにしてもここは涼しくて過ごしやすいですね」
「いつも涼しい顔しているからそういうのを感じているとは思わなかったぞ」
「今までは僕が慎重になる必要がありましたから…その癖が直らないんです…」
「ああ…そういうことか」

キルが働き始める前はリーネとバードが仕事のメンバーであったことを考え、シンの負担の具合からキルは密かに同情した。あの二人がいる状態でチームを成り立たせたシンの力量を考えると参謀の才能があるのではと思われた。

「ちょっと!何ちんたら歩いているのよ?」
「安全地帯とはいえ警戒くらいしろよ」

誰よりも先を先行するカグヤに続くようにバードが追いかけていきその後ろを追いかけるようにサクヤ、少し離れてフラン、その後ろからキルとシンが歩いて行った。
最後尾の二人は楽しむというよりも最近の魔物を考えて何か起こらないかを警戒し続けていた。

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「ほら!ここなんてどうかしら?」

カグヤが示したのは綺麗な湖の近くにある場所だった。

「悪くないですね…水も綺麗ですからここを拠点にしましょうか」
「ならここで一度休憩しようぜ?もうはらぺこだ…」

シンの確認が済んだことでバードは真っ先に座り込み、フランは湖の水質を確認していた。

「ずいぶん綺麗な水ね…この水は大丈夫そう?」
「うわ!い…一応…問題ないぞ…」
「驚き過ぎよ…いい加減にしなさいよね…」

相変わらずカグヤが苦手なフランはすぐに距離を取って水に問題がないことを伝えるもフランの様子に不機嫌になりながら水筒に水を汲み始めた。

「まあまあ。誰にだって苦手なことはあるわよ」
「だって…もう年単位の付き合いなのよ」

サクヤに愚痴る様子のカグヤから少し離れた位置では昼寝をするバードとクロ、その横では普段と変わらず銃の手入れをするシンの姿がフランの目に入った。

「君らは相変わらずなんだな」
「一応一人は警戒しておいた方がいいですから…それにキルが何かを見つけたみたいですから」

シンの言葉でフランはようやくキルの姿が見えないことに気付いた。そのことにまったく気にしている様子がないシンはライフルを組み上げて辺りを見回した。同時にバードも目を覚まして起き上がりカグヤもサクヤの手を引いて一か所に集まった。

「ねえ…何かいない?」
「そうだな…安全地帯のはずなんだけどな」

カグヤの問いかけにバードが答えフランとシンは辺りを警戒し、サクヤを守るようにして隊列を整えた。

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————見られている?

それが最初に俺が感じた違和感だった。
木の枝に飛び移りながらその違和感を発しているものに向かって移動を続けた。ふと俺の目に黒い影が見えた。すぐに俺は銃を抜きその陰に向かい2発の銃弾を発砲した。
その次の瞬間に見えたのは銃弾が何かで弾き落された。そのまま地面に着地して動きを止め地面に着地した。
追いついて地面に着地して目に入ったのは頭の上から黒いローブで覆った人物で小柄であること以外は性別さえもわからなかった。

「初めまして…K」
「女?そう呼ぶところを見ると組織の人間か?」
「Iで分かるはず…」
「Iだと?お前があのIだと言うのかよ?」

目の前の人物は黙って首を縦に動かした。

Iは俺自身の初めて見た。
K、Lそれと首領であるZのいわば右腕であるJの他にもう一人、Jと首領だけが正体を知っているIがいる。そしてK、L、J、Iの4人が組織の中で最大の実力者だと言われていた。
ただしIの存在はあくまで噂の領域で、実際の実力はおろか直接話をしたのは初めてだった。

「まさかIの存在が本当だったなんてな…。それで何の用だよ?」
「まだ今なら戻れる…戻ったら?」
「悪いが戻る気はない…」

銃に新しく弾を入れ直し、まったく動きが分からない俺は身構えた。同時に片手を出したIの細い腕に細い紐状の炎が現れその鞭が迫ってくるのが見えた。すぐに横にかわし鞭が当たった地面が焼き焦げていることを確認した。

「ちゃんと実際の炎みたいだな…魔術師か?」

先の銃弾を防いだのは恐らくこの炎の鞭だと考えられる。Iは俺の質問に全く答える様子を見せずさらに鞭を使って追撃を繰り返し続けた。
一つ一つの攻撃を避けながら考えていたのはこのIの戦闘力だった。組織の殆どの人間が何かしら身体能力が特化しているが例外もある。例えば組織に入りたての人間に関しては当然そういったものがない。そしてもう一つは特異体質や他にない特殊能力を持っているもの。正直俺もそこまで他の奴のことは把握していない。ましてこのIについては全く情報がなかった。

「おい…結局何の用だ…。質問に答えずに攻撃はないだろ?」
「貴方の連れ戻し…無理なら…処刑…それが…任務…」

すぐに放たれた炎の鞭を後ろに下がってかわし、鞭で打ち落とせないタイミングで銃を3発撃ちこんだ。照準は鞭を操っている腕と両足。
銃弾が当たろうとした時、Iの足元に大きな衝撃が放たれてそれと共に姿を消した。正確には俺が見失いそうになる程の早さで後ろに回り込まれた。

「後ろか!」
「遅い…」

振り向くとほぼ同時にIが鞭を振り下ろしている姿が目に映り回避行動を取ろうとした時には鞭が体に当たり、衝撃と熱い痛みを感じた。

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「何でこんなに魔物がたくさんいるのよ!」

カグヤは鳥型の魔物を蹴り落としたカグヤはぼやきながら魔物を確認するとそのまま倒した魔物は光りと共に四散した。

「見たことがない魔物ばかりだ…召喚獣の類だな…」

フランは目の前のベア系の魔物を槍で追い払い、シンとバードはサクヤとクロを庇いながら戦闘を続けていた。

「キルの奴!こんな時にどこに行ったんだよ?」
「恐らくこの魔物たちを出している首謀者を探しているのでしょう…」

シンは空中の魔物をライフルを使い落としていき、バードは地上の魔物たちを大剣を使って追い払いいつまでも現れ続ける魔物に疲労の表情を浮かべ始めた。

「いや…首謀者は…あそこだ」

ずっと魔物と戦闘し続けながら一点と常に気にしていたフランは手に持った槍をしっかりと握るとその一点に向かって投げた。その一点に槍が投げ込まれると周りにいた魔物は一斉に四散して消えてしまった。

「こっちは弱い人しかいないって聞いた…。情報にエラー…」

茂みの中からフランの投げた槍を片手に現れたのは背中に大鎌を下げた少女と黒いローブを身に付けた巨体の人物だった。

「あんた達があの魔物たちの親黙って訳?」
「間違っていないと思う…。私はR、そして彼はGよ」

Rはフランの槍を無造作に投げて、それをフランが掴むとすぐに身構えた。同時に他のメンバーも身構えている中でサクヤだけがRに視線を向けた。

「貴女は…もしかして…」
「お姉ちゃんあいつを知っているの?」
「えっと…私が捕まった時に…気絶していて…キルが戦ったって言っていたの…」

サクヤの言葉から2人の正体が分かり、身構えた様子を見たRは大鎌を片手に持って地面に振りかざし地面に突き刺した。

「Gは動かなくていい…私がやる…」
「お譲ちゃん一人で俺らと戦う気かよ」

 Rの言葉にバードは大剣を構えたまま言い放つとRは大鎌を地面に刺したまま一人で前に出て来た。

「残念だけど…あなた達なら素手で十分…」
「あんた4人に対して一人で素手なんてふざけているの!?」

無防備のまま前に出てくるRにカグヤは声をあげるもRは無表情のまま立ちはだかった。