複雑・ファジー小説
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.47 )
- 日時: 2014/08/28 22:50
- 名前: 鮭 (ID: BOBXw5Wb)
第9話
Rは大鎌を振り上げるのを確認しフランはすぐに後ろに下がり大鎌を避けるも攻撃後にできると思われた隙も鎌を構え直す一瞬しかなかった。
「おいフラン!ここは逃げた方がいいんじゃないか?」
「分かっている…だが…」
身動きが取れないカグヤやサクヤの存在を考えれば当然の考えだった。
そんなフランの頭の中に浮かぶのは2つの不安要素。
1つはそもそもこの人外な力を持つ相手が逃がしてくれるかどうか。
もう一つはずっと動かないもう一人の存在だった。
「来ないの?じゃあこっちから行く…」
Rから一定の距離を保ち続ける三人を見てRは片手を前に出し親指をフランに向けて弾くような動作をした瞬間、フランは反射的に両手で防御態勢に入り同時に衝撃で抵抗することもできず後ろにある大木に体を叩きつけられた。
「何だ今の!?」
「魔力はなかったので魔術の類ではありませんね…」
バードの驚いている様子を見て今起こったことを確認しようとシンはRを確認するも正体は全く分からなかった。
「指弾か…初めて見たぞ…」
よろよろと立ち上がるフランは再び槍を構え直し話す。足が震えて一押しで倒れてしまうようにさえ見えるフランに続くように片手の痛みを堪えながらカグヤも立ちあがった。
「カグヤちゃん?まだ立っちゃだめだよ」
「大丈夫…離れて銃を撃つくらい…サポートくらいできるから…」
サクヤの言葉にカグヤは痛みを堪えたままサブマシンガンを引き抜き笑顔で答えた。
「それにあの二人なら…なんとかできるでしょ…」
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「バードさん…キルが来るまでに生き残るにはこちらから攻めるしかありませんよ…」
「そう言われてもな…あの鎌に誰が切り込むんだ…」
「本気で聞いているんですか?」
Rを観察したまま答えるシンの無情な一言はバードはため息を漏らして大剣を構え直した。
「無事に再会できたらおごれよ?」
「帰ってくるのが当たり前なので必要ありません…」
シンの一言と共にバードは大剣を振り上げてRに飛び込んだ。ほぼ同時にシンはRの腕にハンドガンを構えて2発の弾丸を発砲した。同時に背中のマントが動き銃弾は完全に防がれ殆ど隙を作ることなく鎌を振り上げた。
「終わり?」
「ここで終わらねえよ!」
鎌を構えるRに対して特攻するバードにRは大鎌を振り下ろそうとした時、Rの目に入ったのはその後方でマグナムを構えているシンの姿で、バードの頭部を避けるように銃弾はRへと飛んで行った。
「無駄…」
銃弾は頭部を狙っていたためにマントを操り銃弾を防いだ。マントを解けて次に視界に映ったのはすでに大剣を振り下ろし始めているバードの姿だった。
「これで決まりだ!」
バードの大剣を咄嗟にRは大鎌の柄を使い受け止めるもののその勢いで後方に吹き飛び片膝をついて着地した。
「R…ユダン…シタカ…」
ずっと黙ったまま動かなかったGは聞き取りにくい声色でRに話しかけた。
「油断していない…単純に驚いた…普通の人間でここまで強い人は初めて見た…」
「そいつは光栄だな…」
答えたバードは正直参っていた。自分の渾身の一撃とも言える一撃にまったくダメージが見えず、勝つための方法が全く見えなかった。
「シン…悪いが…こいつは…俺らの手に負えるレベルじゃないぞ…」
「ですが…このままだと…」
シンは何とか戦おうとするも体は震えており戦える状態ではなかった。Rは再び片手を前に出すと照準を二人とは別の方向に向けた。
「まずは一人目…」
バードが再び指弾が放たれたことを理解した時、衝撃音と共に現れたのはキルだった。
「ギリギリだったな」
キルが着地した位置はサクヤの前だった。急に飛び込んできたキルにサクヤとカグヤは驚き、Rはすぐに数発の指弾を放つもすぐに銃を使い一つ一つを防いだ。
「面倒な技をまた覚えたみたいだな…」
「貴方に勝つまでいくらでも強くなるから…」
先まで無表情だったRの表情は僅かに柔らかくなっていた。それに気付いたのかバードはシンとフランを連れてサクヤの周りに集まった。
「悪いが今日は引いてくれないか?俺もさっきIと戦って疲れているんだ」
「ソウイウワケ…」
Gが聞き取りにくい声で言いかけたところでRは大鎌をGの前に振り下ろした。Rはそのままじっとキルを見たままだった。
「構わない…全力でない貴方と戦ったら…意味がない」
「R…メイレイハゼッタイ…」
「早く帰る…いくらGでも…これ以上は…殺す…」
Rは大鎌を背中に掛けてからGがその場を立ち去る様子を確認してから視線をキルに向けた。
「情報…半年後…組織の人間が集まる…」
「それは豪勢だな…お前ら3人だけじゃなくてその上の奴らもか?」
「貴方を殺すためよ…でも貴方を殺すのは私だから…勝手に死んだら…許さない…」
Rは一言と共にその場から立ち去った。
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カグヤやフランの怪我が酷いことから街に引き返すことになった。
カグヤの腕は骨折しているもののガードの際に魔力を込めていたおかげで元に戻るという話だった。逆にもしまともに受けていたら骨は砕け散って二度と腕を使えなかったという話だった。
フランに関しては軽傷ではあるもののやはり入院が必要という話だった。
「しかし…二人とも思ったよりひどくなくてよかったな」
「まあ…あんたが突っ込んで怪我しなかったのは私達が囮になってシンのサポートがあったからなんだからね!」
ベッドに横になったままのカグヤはバードに悪態を言いった。
キルは病室の入り口の前で一人今後のことを考えていた。
半年後に組織の人間が集まってくるならその前にこの場からどの程度まで離れることが出来るか。他の組織の人間全員を相手にしてどこまで戦うことが出来るのか…。
「キル?」
頭の中で今後のことを考え続ける中で突然声を掛けたのはクロを抱いたサクヤだった。
「中に入らないの?」
「ああ…今入ろうとしていたんだ…」
「キル?今キルが考えていること当ててあげる」
突然のサクヤの言葉にキルはギクリとした。
そんな表情を見たのかサクヤは笑いかけてキルを見つめた。
「みんなを巻き込まないように早く街を出よう…そうなんでしょ?」
「それは…」
「もしそうしたら…私だけじゃない…他のみんなも怒るよ?」
サクヤの言葉と共に聞こえて来たのは病室内からの声だった。
「早くこの手を直して修行ね。今のままだと街を守れそうにないわ」
「僕はキルに少し稽古を付けてもらいましょう…」
「なら俺もそうするかな」
「僕は少し一人で鍛え直そう。今のままだと完全に足手まといだ」
それぞれ半年の間に少しでも鍛えて一緒に戦ってくれることを前提に話していることにキルは無意識に表情を緩めた。
「みんなの気持ち…分かった?」
「ああ…この街の奴らがバカだとよく分かった…でも…いい街だな」
キルの言葉にサクヤは満面の笑みを浮かべてからキルの手を握った。
戸惑った様子のキルに対して気にすることなく笑いかけてから病室の扉に手を掛けた。
「行こうキル!」
「ああ…」
病室に入った時にはキルの中から街を出て行こうという考えはなくなっていた。