複雑・ファジー小説
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.48 )
- 日時: 2014/09/05 14:36
- 名前: 鮭 (ID: BOBXw5Wb)
第10話
シンはキルと対峙する形でカグヤの家の裏にある模擬戦用のグランドに立っていた。その横の作業場では腕をギブスで固定したカグヤとシンの様子を見に来たバードが立っていた。
シンは片手にナイフと銃を持っていた。ただしナイフの部分はゴム製で殺傷能力がない訓練用のナイフ、反対の手にはハンドガンを握っていた。
「まずはルールの確認。3分以内に俺に攻撃を当てるか被弾しなければクリアだ」
「分かりました。では行きます」
訓練用のナイフを逆手に持ち構えたまま答えるとシンは、飛びかかり向かってくるナイフをキルは銃芯で受け止める。それに対してシンはすぐに勢いに任せて横に蹴りに転じるもすぐにキルはしゃがみ蹴りを避けた。そのまま蹴りの直後で隙が出来たシンに向けて銃を構え銃弾を発砲する。
「うっ…」
「任務は失敗だな。ゴム弾じゃなかったら今ので死亡だぞ?」
「僕もまだまだですね…」
腹部にゴム弾を受け地面に仰向けのまま倒れるシンにキルは銃を納めながら話していき、それに合わせるように次はバードが剣を構え始めた。
「次は俺だよな」
「悪いが手加減とかしないからな…?」
「いらねえよ!」
大剣を構えたまま前に出るバードは剣を振り上げた瞬間にキルは飛び込んで銃を頭に突き付けた。反対の手ではバードの持つ大剣を抑えた。
「俺じゃなかったらもう死んでいた…振り上げ時が隙だらけだ…。シンの援護は常に完璧ではないんだからな?」
「くっ…お前の…組織の奴ら…こんな奴ばかりかよ…」
手を離したキルは起き上がったシンを見てからそのままカグヤにも視線を向けた。
「ひとまずカグヤはしばらく休養でシンとバードは組み手の相手にはなるからいつでも呼び出せよ」
「分かりました。毎日鍛錬してキルで試せばいいんですね」
「ならしっかりと鍛錬をして手こずらせるくらいはしないとな」
やる気を出し始めた二人を見てキルは表情を緩ませて行き、そんな3人を見るカグヤは現状何もできない自分にもどかしさを感じていた。
「カグヤ…お前は魔力の扱いを今のうちに学ぶといいぞ」
「魔力の?」
「フィオナの奴がその辺りは詳しいだろ?お前は魔力調整をすれば多分一番強くなれるはずだ」
「上から目線が気に入らないけど…いいわ。それであの二人より強くなってあげるんだから」
キルの言葉にカグヤは笑みを浮かべた。
自分にできることが見つかった喜び、そして自分自身もしっかりと戦力として考えてくれていることがカグヤにとって一番嬉しいことだった。
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リーネと別れてから何日か経過した。俺はいろいろと情報を集めて身寄りがない者たちが集まった村の存在を聞きその場所に向かっていた。噂の村は深い森の中にあり一日余計に掛って迷った挙句にようやく到着した。
「あの村か…しっかりとした作りみたいだな」
目に付いた村は木の柵で囲まれていて一つ一つの建物はレンガ造りでしっかりとできたものだった。見えている限りだと柄が悪い人間がいる様子もないから危険もなさそうだ。
「決まりだな…しばらくはここを拠点にするか」
俺は刀を握り直し念のためにといつでも戦闘が出来るように警戒しながら村に向かった。
村自体には特に特別な入村審査のようなものもなく問題なく入ることが出来て早速宿屋の場所を教えてもらい部屋を取ることが出来た。
「さて…まずは情報集めから始めないとな…」
俺は早速、探し人の情報集めようと外に出る。
村では何かの祭りをするためか飾り付けをする男達や祭りのための食事を用意している女性たちがいた。俺は祭りの内容が気になり手近にいた男に確認した。
「なあ…この時期は祭りでもあるのか?」
「なんだ?旅人さんは知らないのか?明日は生贄の儀式の日だよ?」
「生贄の儀式?」
「何だ知らないのか?」
男からの話を聞くとこの時期になると正体不明の魔物が現れて村を襲うという言い伝えがあり、毎年村で選ばれた赤子を決められた谷から落とすという儀式が行われているということだった。
「そんなの言い伝えじゃないのかよ?」
「しかしこの儀式は俺が子供のころから行われているものだ。だから今更やめて村が滅びたらそれこそ今まで犠牲になった赤子達に申し訳ないだろ?」
男の言葉に俺は嫌な予感が走った。もしここに妹が来たとしてすでに生贄にされていないかということを…。
「そういえば村の周辺で毎年その魔物を探している奴がいるという話を聞いたことがあるな…」
「村の周辺?だって周りは森に囲まれているぞ?」
「そいつはその森で生活している。それに森に囲まれたこの村に魔物が来ないのはそいつが退治しているかららしい」
俺は村人の話を聞きさらに詳細を聞くとその人物が現れたのは数年前でちょうど村を襲われ妹と別れた時期と一致していることを考えると非常に有力な情報だった。俺は村人に礼を言うと早速森を回ってみることにした。
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「せいや!」
身の丈は約2mあるベア系統の魔物をジンは刀で横薙ぎに切り裂いて撃退した。
おたけびと共に倒れた魔物に軽く黙祷をしてから刀を納めて息を付いた。村を出てそろそろ2時間は経過したが出会うのは魔物ばかりで人間に会うことがなかった。
「本当に人がいるのかよ…」
ジンがぼやいていると今倒したベアの雄たけびを聞いたのかさらに3体のベアが現れた。
「まだいるのかよ?来いよ…」
ジンは再び刀を引き抜いた。
ほぼ同時に地面を蹴り上げまずはと一匹の魔物を両断しその勢いを利用して体を捻りもう一体のベアの首筋に鞘を逆手に持ち殴り、怯んだところで再び魔物を横に薙ぎ払った。
残った一匹が仲間を呼ぼうとしている様子が見えたジンはすぐに攻撃に転じようとした時、一本の矢が魔物の首に突き刺さりそのまま声を上げられることなく倒れた。
「貴方…油断しすぎ…」
「誰だ?」
木の上から下りて来たのは一人の少女だった。少女は銀色の短髪、狩人用の茶色の帽子、首にゴーグルを掛けていた。上は緑とオレンジを主にした衣服と短パンに同色のブーツを装備。背中に矢を収納し片手には弓を持っていた。
「マナ…この森の狩人…」
「狩人?もしかしてお前がここの魔物を倒しているって奴か?」
「うん…」
マナはジンの問いかけに簡単に頷いて答え、魔物に刺さった矢をマナは無表情のまま引き抜いてから背中に矢を収納した。マナを見たジンは気になっていたことを確認してみた。
「マナ…ここには…いつ来たんだ?」
「今年で2年前…」
「その前は何をしていたんだ?」
「話す必要ない…」
ジンはマナの話から自分が探していた人物なのかと考えていた。ジンが確信できた理由は2つだった。
ジンの村では基本的に銀髪の人間が殆どであり、ジンの親も銀髪、そして妹も銀髪だった。
そしてもう一つの理由…
「マナ…その名前は…誰が付けたんだ?」
「…分からない…」
無表情のまま答えるマナに対してジンは刀を納めて考えていた。今目の前にいる人物が本当に探していた妹なのかどうか。
———マナは俺の母親が付けた名前。同一人物なのか…?
森の中に一人消えていくマナをジンはそのまま見つめることしかできなかった。