複雑・ファジー小説

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.49 )
日時: 2014/09/08 17:32
名前: 鮭 (ID: BOBXw5Wb)

第11話

雲ひとつない青々とした空の元で俺は宿を出た。
昨晩から俺はマナのことが気になっていた。探していた人物が妹なのではないかと一晩中の間熟睡することが出来なかった。

村では今日の夜に儀式があるということで辺りには祭りの飾り付けが施されており、一部ではにぎわっているように見える。特に村長と呼ばれている老人は細かな部分を指摘している様子で誰よりも熱心に祭りの用意をしているように見えた。

————生贄なんて儀式をするのにそんな風には見えないな…

俺は賑わう村を他所に俺は昨日の森に向かって歩いて行った。
森の中を歩きながら俺は今回の生贄の儀式を行う崖に向かって歩いていた。マナが魔物を退治するのが目的なら会えるかもしれないと思ったからだ。

「しかし村を何年も怖がらせる生贄を探す魔物か…どんな奴だ…」

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ジンは森の中を歩きながら一人で村人から聞いた崖に向かっていた。
森の中は昼まであるのにも拘らずうす暗く、時間も分からなくなりそうな場所だった。

「しかし…嫌な森だな…」

うす暗いだけでなく昼間なのにも拘らず不気味な空気のようなものが感じられた。
昨日戦った魔物は村の近くということでそれほどの強さでなくジン自身は大した苦労がなかった。
しかし村から離れて奥まで進んでくると何も出てこない分明らかに異様な雰囲気が出ていたことからジンは刀を常に握り締めて奥に進んだ。

「如何にも幽霊が出そうだよな…というかそういう魔物ってどうやって倒せばいいんだ…」

ジンはまだ会ってもいない魔物のことばかりを考えて呟いていた。

ことが起きたのはそんな時だった。
突如辺りから聞こえて来たのは細く今にも消え入りそうな獣の鳴き声だった。

「魔物か?それにしては…」

辺りから聞こえていることからその声の出所が分からずジンは刀を身構えたまま辺りを見回した。

「隠れて…」
「ん?誰だ?」

不意に聞こえて来た声はジンの頭上から聞こえた。
視線を向けた先にいたのは昨日に出会った少女マナだった。
それと共に聞こえていた魔物の声が近づいてくるのに気付きすぐにジンはその場を跳躍してマナの隣に腰を下ろした。

「お前…こんなところで何をしているんだよ?」
「静かに…来る…」

マナの言葉に視線を下げると現れたのは異形な姿の魔物達の姿だった。
あるものはウルフであるものの体が腐り骨が見えて口からはだらだらと膵液をたらし、同様な体でベア、鳥獣、そして人間だった。

「うっ…な…何だよ…あれ…」

直視するのも辛い魔物達の姿にジンは口元に手を当て、声を殺してマナに話しかけた。
ジンの言葉に対してマナは一度首を横に振り魔物の大群が消えていくのを確認してから木から下りた。

「おい!マナ!あいつらは何だよ?」
「アンデット…生ける屍…」
「アンデット?あんなの架空の魔物じゃないのかよ?」
「何かがあの魔物達を操っている…それだけは分かる…」

マナの説明を聞きジンは当然のように茫然としてしまった。アンデットいう存在、そんなものの近くにある村。そしてそんなものを見ても平然としていられるマナ。

「やっぱり…違うよな…」
「違う?」

ジンの言葉にマナは表情こそは無表情だったものの声色では疑問に感じている様子で、ジンは軽く手を振り魔物達が消えていった方向に視線を向けた。

「マナ…あいつらはどこに向かっているか分かるか?」
「崖の下…生贄の話…知っている?」
「ああ…そういえばそんな話があったな…」

マナからの問いかけにジンはすぐに理解できなかった。その様子に気付いたのかマナは小さくため息を漏らしてから視線を魔物達の向かった先に向けた。

「崖の下…あそこには…元凶がいる…」
「元凶?」
「私は…あれを倒すつもり…」
「ちょっと待てよ…その元凶って何なんだよ?」

ジンの問いかけに対してマナは答えることなく歩き始めた。当然ジンはそのあとを追いかけようとした時マナは視線を唐突にまったくの反対方向の獣道を指さした。

「あなたはすることある…」
「すること?」
「生贄を捧げたら面倒…だから…止める…」

マナの言葉にジンはそもそも今日まさに今から生贄の儀式が行われるということを思い出した。こうしている間に今年も生贄が捧げられてしまうという事実にジンはすぐに走り始めた。

「マナ!後で話がある!勝手にいなくなるなよ!」

ジンの言葉に対してマナはただ頷きそのまま魔物達が向かった方向に足を進めていった。

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マナの指さした獣道を通り過ぎると目に付いたのは聞いていた崖だった。
断崖絶壁である程度の空間には儀式で使うための飾りなどが設置されておりその周りには村人が約20人程集まっていた。
村人たちは円を描くように集結しておりその中心には村長らしい人物、そして若い男女とその前には一人の赤ん坊が横たわっていた。

「その儀式待て!」

俺の声に驚いたのか村人たちは視線を俺に向け、その間に跳躍と共に村人たちの円の中心に着地してすぐに子供の様子を確認した。この状況を分かっていない様子の赤ん坊は無邪気に笑っていて抱きかかえて恐らく夫婦と思われる母親に子供を返した。
夫婦の目元はどれ程泣いたらこうなるのだろうと考えてしまうほどに赤くなってしまっていた。

「何をする!儀式の途中じゃぞ!?」
「知るかよ…こんな儀式間違っているだろ…」
「間違っている?村を守るためじゃ!何が間違っている?」

村長の言葉は理解できないわけでなかった。この人も村を守るために必死で考えたと。

「でも今ここで泣いている奴がいるんだ。そんな方法は間違っている。それだけは俺でも分かる」
「ならどうする?村を滅ぼすつもりか?」

村長の言葉に周りからはそれに同調するように罵声が始まった。長く続いてきた儀式を数日前に来たばかりの人間が言うのだから当然だった。

「要はその魔物を退治すればいいんだろ?」
「バカな…そう言って退治に出て戻ってきたものは一人もいない!邪魔をするな!」

村長が言葉を言い終えたその瞬間だった。
一本の矢を胸に受けた村長がその場に倒れた。矢が飛んできた方向にいたのはマナだった。
マナは表情を一切変えることなく近づいてきて驚いた村人は黙って道を開けた。

「あなた…甘い…」
「甘いって…何も殺すことなかっただろ!?」

マナの言葉は意味が分からなかった。 
しかしそんな疑問はすぐに解消された。

「オドロイタ…ヨク…キヅイタ…」

急に口調が変わった村長に驚き、それと共に肌はドロドロと溶けだし骨を露わにした。同時に黒いボロボロの衣を纏い片手には金色の杖を握っていた。

「うわ!何だこいつ!?」
「ランクA…アンデットの王…リッチ—…」


マナは小さく呟き周りの村人たちは村長だと思っていた人物が魔物だったということに驚き動揺してしまっていた。

「早く逃げろ!こいつは俺がやる!」
「オマエガ…?ムリダ…」

リッチ—が小さく言葉を発すると同時に杖が光った。それと共に不気味な声が上がり崖から大きな物体が飛んできた。

「ドラゴン?いや…あれは…」
「スカルドラゴン…」

崖の下から飛んできたのは巨大なドラゴンの…骨だった。
骨なのにも拘らずそれは自ら意思を持っているように見えた。

「何だあれ!骨じゃないのかよ!」
「あれもランクA…だけどAの中のさらに上級…私はAAと呼んでいる…」
「ランクAA ?」
「あの2体…追い払う…」

マナは弓を構えてリッチ—と骨のドラゴンに向かいあった。どう見ても一人で追い払おうとしているマナに俺は刀を身構え一緒に魔物達に対して身構えた。