複雑・ファジー小説
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.50 )
- 日時: 2014/09/13 13:08
- 名前: 鮭 (ID: BOBXw5Wb)
第12話
地面に着地した骨のドラゴンは禍々しい雰囲気が出ていた。その雰囲気に村人たちはパニックになり逃げ始め、それと共にドラゴンは奇声とも言える雄たけびを上げた。同時にドラゴンの背後には黒く人のようなものが影がいくつも見えた。
「こいつ…普通の魔物じゃなよな…」
「怨念…それがドラゴンの原動力…」
「何だよ怨念って…そんなオカルトじみた話ありかよ?」
ジンは今までにないタイプの魔物に戸惑いを見せ、刀を鞘に納めたまま居合の構えをしながらも攻撃への一歩を踏み込めずにいた。そんなジンを他所にマナはすぐに弓を構え得てドラゴンに矢を放った。
しかしその矢はドラゴンに命中する前にドラゴンを覆うオーラに弾かれてしまった。
「物理攻撃…当たらない…面倒…」
「ちょっと待てよ…俺達だと不利過ぎるだろ」
ドラゴン同様に黒いオーラに包まれたもう一体の魔物リッチ—に視線を向けたジンは困惑した。
「マジュツノナイ…オマエタチ…ワレニカチメナイ…」
「うるさい…聞き取りにくい声で…しゃべるな…」
マナの一言とほぼ同時に一本の矢がリッチ—の頭に直撃し、その反動で倒れた。矢が頭に刺さった状態で立ちあがるリッチ—はすぐに杖を構えた。
「オマエ…ナニモノ…」
「名乗る必要…ない…」
マナは一言だけを発し矢を手に取ると先端が光り再び放たれた矢はリッチーの肩の関節部に命中し腕の部分が落ちた。
「マナ…お前…今の何だよ!?」
「知らないの?魔力を矢に伝わらせたの…」
マナは再び弓矢を構えると再び弓の先端が光り始めた。それに対してドラゴンは大きな雄たけびを上げ、それにより発生した衝撃でマナの構えた矢の先端の光が消えた。
「…魔力消失?」
「なら直接斬りつければいいんだろ!」
衝撃を突き抜けてジンはドラゴンに飛び込むと鞘から刀を抜き居合抜きで斬りかかるもその刀はドラゴンの体に到達する前にドラゴンを覆うオーラがそのゆく手を阻んだ。
「くそ…攻撃が…届かない…」
「下がって!」
マナの声にジンは咄嗟に一歩下がるとその直後に飛んできたリッチ—の杖が地面に突き刺さった。
「不意打ちかよ!」
「ジン!下がりなさい!」
急に口調が変わったマナにジンは戸惑いながらも後ろに下がり、マナに視線を向けるとその手には今までと違い赤く光に包まれた矢が握られていた。
「オマエ…マサカ…!」
リッチーが言葉を言い終える前に赤く光る矢が頭部を貫き、その瞬間にオーラが消え去り骨が灰となって消え去った。
「この程度なら…簡単…」
「マナ…お前…そんなに強かったのかよ…」
ジンは自分がまったく勝てる気がしなかった相手をほぼ一撃で倒したマナに驚き、その間にも彼女は腕をゆっくりと横に振ると再び赤い矢が生成されてまだの追っているドラゴンに放った。矢はドラゴンの前足に命中し雄たけびと共にその動きを鈍らせた。
「まだ生きている…もう一発…」
「ちょっと待て!様子が変だ!」
さらに弓を生成して攻撃を続けようとしたマナに対してジンは攻撃を制止させた。
ジンは再び視線をドラゴンに向けるとドラゴンを覆う黒いオーラが少しずつ形状を変えて何人もの人の形を作り、それと共に何人もの子供の泣き声が辺りに響き始めた。
「何だこれ…」
「リッチーの生贄になった子供の声…」
「子供の?じゃあお前が言っていた怨念って…」
「今まで生贄にされてきた子供のもの…」
マナの説明にジンは言葉を失ってしまった。村のためにと捧げられてきた子供によって生まれたこの魔物を本当に討伐するべきなのかという迷いが頭によぎった。
「どうするの…ほっとく?」
マナからの小さな言葉にジンは手に持った刀を握りしめた。
「マナ…俺の村は…もうないんだ…」
「そう…」
唐突なジンの言葉に対してマナは全く興味がない様子で呟いた。
そのまま弓を引き動きが鈍ったドラゴンに向けた。
「村の名前はヴィーゼ…そこで俺は家族を亡くしたんだ…」
「ヴィーゼ…?」
ジンの話した中の単語にマナは弓の動きを止めた。
————ヴィーゼ…知っている…?
「だから…俺は…あんな悲しみを…これ以上…増やしたくない。俺の目の届く範囲で…そんなことはさせない!」
ジンの言葉に答えるように刀は蒼く光を放ちドラゴンに飛び込んだ。
飛び込んできたジンにドラゴンは大きな雄たけびを上げ、ジンはそのまま刀を横に薙ぎ払いドラゴンの腕を切り裂いた。
————俺が守ってやるからな…マナ…————
「お兄ちゃん…?」
マナの小さな一言と共にドラゴンは縦に振り下ろされた刀により倒れた。
それと共にドラゴンを覆っていた黒いオーラは消え去りその屍は灰となり消え去った。
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気が付いた時俺は大木に背中を預ける形で座っていた。
辺りは暗く夜になっていたが空から見える星や月が辺りを照らしていた。昼間にあるいて来た森の中とは思えないほど綺麗で気分がいい場所だった。
「起きた?」
すぐ横から聞こえた声で俺はようやく隣にいたマナの存在に気付いた。マナは俺が起きたことに気付くと片手を前に出すと前に置かれていた薪に火を付けてたき火を起こした。
「魔術が使えたのか?」
「火だけ…後は弓矢の具現化もできる…」
「だから矢がなくならなかったのか」
マナの話を聞いて戦闘時の弓矢の光について理解できた。
確かカグヤがやっていた体術と同じ原理だったな…。
「貴方…名前は…?」
「あっ…そう言えばしっかり名乗ってなかったな…ジンだ」
「ジン…覚えた…それと刀…」
小さく呟いたマナは俺の刀を鞘に納められた刀を差し出してきた。
何故か俺に顔を向けないマナの態度の変貌がよく分からずに刀を受け取った。
「その刀…どうしたの?」
「俺の家の家宝だ。村を出た時に持って来たんだ…。よく親父に妹と一緒に刀の話を聞かされたな」
「妹…いたんだ…」
「ああ…それで俺は今…いなくなった妹を探して旅をしているんだ…」
「そう…見つかるといいね…」
マナの言葉を聞いている中で俺は体の疲れのせいかマナの言葉に答えることが出来ないまま意識を失った。
それでもマナが妹であると確信できた。理由は分からない。ただこうして一緒にいることで感じた今までにない安心感が俺に教えてくれた。
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「もう行くの…?」
次の日の朝にジンは刀を片手にして出発の準備をしているとマナは声を掛けて来た。心なしか寂しそうにも取れる声色にジンは笑みを浮かべた。
「ああ…ちょっと行きたい場所があるんだ。また会いに来ていいか?」
「うん…待っている」
「じゃあ…またな」
ずっと無表情だったマナの表情が緩んでいることに気付いたジンは上機嫌になり片手を振り森の中を歩いて行った。そんな様子にマナは遠慮がちに片手を振り見えなくなるまで見送った。
「仕事は終わったか?」
ジンを見送ったマナの背後から聞こえた声に対してゆっくりと振り向いた。その視線の先にいたのは黒のローブに身を包んだJだった。
「終わり…」
「思ったより時間が掛ったな…」
「ちょっとトラブル…」
マナは無表情のまま返事をすると昨晩寝ていた木の横に置いておいた弓と矢を手に取り、そして黒のローブを頭から被った。
「行くぞI」
「うん…」
Jは一人その場を立ち去り、マナは一度ジンが歩いて行った方向に視線を向けた。口元が僅かに動きしばらくするとその場を立ち去った。