複雑・ファジー小説
- Re: ある暗殺者と錬金術師の物語(9/18 本編追加) ( No.51 )
- 日時: 2014/09/18 12:23
- 名前: 鮭 (ID: BOBXw5Wb)
第13話
ジンと別れて一週間。キルは相変わらず食欲旺盛!
ここに来るまでに食料は補給したけどその殆どはキルが一人で食べてしまった。
そのおかげで最近は簡単な料理くらいは作れるようになりました。
今日は探していた鉱石の街に到着する予定でお昼にお魚を焼いています。
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「あっ…焼けたみたい」
たき火で焼かれている魚に視線を向け、最近の日課である日記を書く手を止めてから魚をすぐ横にいるキルにあげた。魚を食べる様子を見た
「もうすぐ到着するんだ…」
ジンに聞いた情報を確かめるために中間に位置する街で情報を集めた私はその街で手に入った地図を見て現在地と照らし合わせた。ここまでの移動速度と距離を考えると到着は真夜中になってしまう。
「うーん…今日は無理しないで歩いて明日に到着するようにすればいいかな」
魚を食べているキルに話しかける私は自分の分の魚を手にとって食事を始めた。
今私が向かっている街は鉱石の加工技術で栄えた国で、話だけ聞くと今までで一番発展した国と思えた。
周辺では様々な原石が取れて国の中ではその原石を加工してそれらを収入源にしていることから人々の暮らしも豊かな国という話だった。
「はず…なんだけどなぁ…」
もうすぐ国に到着するという場所で私が見たのは鉱山で働かされている幼い子供からお年寄りまでの様々な年齢の人々だった。
大人の男性はつるはしを持って鉱山に入っていき中からは原石を掘り出していると思われる音、子供や女性は数人がかりで何かの機械を操作してトロッコを動かしているようで、残ったお年寄り達は運ばれている原石を仕分けしているようだった。
あちこちには作業員がボロボロな衣服を着ているのに対して立派な軍服を着ている人々も交じっていた。
一先ず私は一番近くにいた軍服を着た男の人に声を掛けることにした。
「あの…すみません…」
「おや?もしかして旅の人ですか?」
私の問いかけに気付き、一瞬キルの存在に驚いたように見えたけど男の人はすぐに対応をしてくれた。周りの人達も私の存在に気付いたのかそれぞれ視線を私に向けて来たけど作業員と思われる人たちはすぐに作業を再開したようだった。
「えっと…みんなは…この先の国の人ですか?」
「ええ。ここでは国で加工するための原石を掘り出しています」
「原石を?ここではどんな石が取れるんですか?」
「見てみますか?」
そう一言を言うと区分けの終わった石の中から白くこれまで見たことがない原石を手に取り差し出してきた。
私は差し出されたその原石を手に取り見回した。
「これは…もしかして…」
この原石は私の記憶の中に微かに残っていたものだった。
この原石だけはお父さんが残してくれた本の中に写真付きで書いてあって実際に見たのは初めてだった。
————本には確か加工の仕方も表示されていて…
頭の中で覚えていた練成術をそのまま無意識に発動すると原石は白銀に輝く小さな金属に変わった。
「これが…ミスリル…?」
「そんな…国の学者達も加工出来ずにいるのに…」
錬金術でできたミスリルに男の人は驚いて掌サイズのミスリルを手に取り、私と鉱石を交互に見た。
この人の話からミスリルはまだ実用化していないことが分かった。ジンの情報が確かならまとまったミスリルを手に入れるのは難しいことが分かった。
私が今後のことを考えていると男の人は耳元に何か機械のようなものを当てて誰かと話をしているようだった。時間にしてほんの数分後男の人は機械を耳から離した。
「あの…貴女の名前は?」
「えっ?私はリーネ。それとこの子はキルだよ」
「ではリーネさん。よかったらこの国に移住しませんか?歓迎しますよ?」
「ふえ?移住?えっと…私は…そういうの考えていないから…」
突然の申し出に私は驚いてしまい、どう断るべきかと困ってしまい結局そのまま答えてしまった。
「なら…鉱石の加工場に立ち寄ってください!その加工技術を伝えてほしいんです!」
「えっと…じゃあ…私も用事があるから…一週間の間だけなら…」
「分かりました!では早速国に向かいましょう!私が案内します!」
そう言うと男の人は道の先にある広場にあった…確か本に書いてった車という乗り物を指さした。
とりあえずここからは移動が楽そうかな。
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「疲れた…」
リーネは用意された最上級のホテルのベッドの上に倒れ込んだ。同様にキルもベッドの横に座り込んで眠り始めた。
リーネは国に到着するとすでに入国の審査が完了していて、国の中を見る暇もなく原石の加工の現場に連れて行かれてミスリルの加工をした方法を散々説明することになった。
もちろんそう言った説明が苦手なリーネの話を理解できるものがいる訳もなくまったく加工方法が分からないまま一日目が終了した。
滞在期間中は国で一番のホテルを提供され、食事も無料とリーネが旅を始めてからどころか人生で一番贅沢な一週間を迎えられそうだった。
「でも…このままだと新しい杖…作れそうにないかなあ…」
リーネがこの国に来た理由は今後の旅を考えて自分だけの杖を手に入れることだった。
元々杖の入手は早い段階で考えていたもののどの金属を試しても一度の練成で折れてしまう使い捨てなものしかできず、以前の母親の杖のようなものを作り出せずにいた。
そして今回、ジンの話から今まで試したことがない材質の杖を作成できると考えていたもののその暇はしばらくなさそうだった。
「そう考えると今から行くしかないよね…」
横になっていたリーネは欠伸をしながらも体を起こすと早速と部屋を出た。その横には眠っていたと思われたキルも付いてきていた。
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「これだけ大きい国だからもしかしてと思ったけど…凄い…図書館…」
まずは情報を集めようと思った私は国の中にあった中で一番大きい図書館へと行った。といっても本のバリエーションが豊富すぎて実際に必要そうな本は一部だけだった。その中で私が見つけたのは読み飛ばそうと思っていたエンシェントウエポンの項目だった。
「この杖…お母さんの杖?」
そこに書かれていたのはあの杖の作り方だった。杖の部分はミスリル、先端部分に施された宝石は水晶竜の角が使われていた。そしてもう一つ必要なものがこの本には表記されていた。
「オレイカルコス?」
表記されていたものは幻の金属の名前だった。確かオリハルコンという場合もあったかな…。でもこれはおとぎ話の世界だけのお話で普通の人が見たら子供だましな設計図だった。
でも私には完全な子供だましなものと考えることが出来なかった。だってその中にあった杖を私はこの手にとって使っていたから…。
「この本が本当なら…あの杖…半分も力を出せていなかったんだ…」
この本から私は新しい目的となる3つの物を確認することが出来た。
絶滅したと言われている水晶竜の捜索、そしておとぎ話の世界にしか存在しない金属。
「そんなの手に入らないよ…」
思わずため息を漏らしてしまった私にキルは小さく吠えた。ジッと見つめるキルの視線にそれに答えるように私は笑いかけた。
「そうだね…こんなことで諦めちゃだめだよね?ここはたくさん本があるから…もっと探してみよう!」
顔を上げるだけで目に入る何冊あるか分からない程の量の本に私は自然と笑みが浮かんでしまった。
せっかくの部屋だけどここで徹夜になりそうかな…。