複雑・ファジー小説
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.52 )
- 日時: 2014/09/23 17:37
- 名前: 鮭 (ID: BOBXw5Wb)
第14話
「わあ…もう朝になっているよ…」
本を読み続けていた私の視線に窓から漏れた日光が入った。途中から寝ていたキルも朝日に反応し欠伸をしながら目を覚ました。
「キルも起きた?徹夜したのに…結局大きな手掛かりはなかったなあ…」
おとぎ話の中の金属は考えないようにして、私はかつて存在していた水晶竜について調べていた。
以前街で調べた時は水晶の体を持つ一本角のドラゴンですでに絶滅しているという情報まで。
今回調べた情報で新たに分かったのは竜そのものも高い知識を持っていたこと。その竜たちが滅びたのは武器の作成のために当時の人々によって狩りつくされたのが原因で最後に確認されたドラゴンも姿を消したことから完全に絶滅したと考えられた。
「一晩で分かったのはここまでか…でも…なんだか…嫌な話…」
一度ため息をしてから手に持っていた本を閉じて本棚に戻した。
そう言えば今からまたミスリル加工のために行かないといけないんだ…。
「ご飯や宿を提供してもらったんだから仕方ないよね」
キルに視線を向けた私はこれからの予定を考えて徹夜を後悔したまま図書館を後にした。
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数時間に及ぶ講義を終えた私は疲労困憊な状態で部屋に向かっていた。当然ミスリルの加工がうまくいくということはなくお昼過ぎになって疲れの限界から強制的に終了してきた。
「旅人さん!いませんか?」
ようやく到着した自分の部屋の近くにまでやってくるとドアを叩く音と声が耳に届いてきた。
「誰かいるの?」
「あっ!えっと…旅人さんですか?」
部屋の前にいたのは男の子だった。年齢は多分シンちゃんよりも下みたいだから10歳前後かもう少し上くらいだった。服装は緑のフード付きのジャケットを着て白のズボンを履いていた。被っているフードから見えたのは赤い髪と蒼い瞳だった。
「そうだけど…あなたは?」
「僕はピーター。この国では本当は奴隷の階級だけど隠れてここまで来ました」
「奴隷?えっと…一先ず立ち話もなんだし入って」
一先ずと私は扉を開けてから彼を部屋に招き入れてから一先ずとソファーに座らせた。
「ピーターくんは紅茶でいい?」
「えっと…大丈夫です」
見慣れない相手にやや警戒している様子のキルの頭を撫でてから二人分の紅茶をテーブルに置いた。
「それで…いろいろ聞きたいことはあるけど…まずは君が隠れてわざわざここまで来た理由を聞いていい?」
「はい…えっと…僕…どうしても旅人さんに伝えないといけないことがあるんです!」
「えっと…リーネでいいよ?それとこの子はキルね?」
何故か緊張している様子のピーターくんに私は一先ず緊張を解す意味で簡単に自己紹介を済ませた私は紅茶を一口口にしてから改めて視線を正面に向けた。
「それで伝えたいことって何?」
「あっ…はい!今は無理だと思うから今夜中にこの街から出てください!この国はリーネさんみたいに優秀な人にとっては危険なんです」
「危険?どういうこと?」
ピーターくんのいう危険の意味が私には分からずにいた。この国に来てまだ2日目だけどそんな危険な雰囲気は見えなかった。国の外であるあの採掘場を除いて…。
「この国には基本的には旅人さんは入れないんです」
「そうなの?でも私は入れたよ?」
「それは旅人さんがミスリルの加工が出来るからだよ?あの原石の加工は今この国で一番の難問なんだ」
彼の話が本当だとしたらここまでの待遇やミスリルの加工に関してあそこまで執拗に聞いてきたり方法を指南してほしいと言われたことが理解できた。
「でもそれが何で危険なの?」
「リーネさんの場合多分何かしらの理由を付けてこの国から出られなくしてミスリルの加工をずっとさせるつもりだよ?それで逆らえば何かしらの手で無理矢理従わせると思うんだ」
「もしかして…ピーターくんもそうなの?」
ピーターくんの話は具体的すぎて何となく体験談なのではないかと考えられた。そしてここまで考えればピーターくんにもこの国にとって有益な力があるんだと予想できた。
「僕…魔道士なんです。それでその力が採掘に役立つからって…」
「でも…だからって…何で奴隷なの?」
「この国では労働力となった人間についてはみんな奴隷なんだよ…。だから外で働いている皆も元々は旅人だったんだ…」
ピーターくんの話が本当だったら外にいた恐らく50人はいたと思われる人たちがみんな元は私のような旅人だったということになる。
「でも…それで何でみんなは逆らったりしないの?」
「この国には召喚師がいるんだよ?それでその人が呼ぶ魔物がすごく強いから逃げだせないんだよ」
「召喚師?」
ピーター君の話を聞いて真っ先に思い浮かんだのはかつて白騎士と名乗った人。もしかしたらあの人たちが関わっているかもしれない。
「その召喚師ってどんな人?女の人?」
「男だよ。白髪で白い変な仮面を付けているんだ。今は軍の偉い人だよ」
「軍?もしかして採掘場にいた制服を着た人たち?」
「そうだよ。みんな武器も持っているし…」
話を聞いた私は何となく今のこの国の状況やどうするべきなのかを考えていた。そんな様子に気付いたキルは私にじっと視線を向けて来た。
「うん…分かっている…私達が関わったらだめなんだよね…。みんなのためにも…」
「ただ…この国は予定より早く出ようとすると捕まっちゃうから隠れて出ないとだめだよ」
ピーターくんは話し終えると立ちあがって窓に近づいて外に視線を向けた。私はそれに続くように歩み寄ると賑わう街と国境となる塀、その向こうに見える採掘場が私の目に飛び込んできた。
「国の中にあの採掘場に繋がっている隠し通路があるんだ」
「じゃあピーター君はそこを通ってここまで来たの?」
「うん。だからそこに案内するために僕は来たんだよ」
「じゃあ早く出発した方がいいよね?」
出発は夜がいいのが明らかだったけどそれまでにピーターくんが作業から離れてしまうと見つかってしまう可能性があった。そのことからあまりのんびりするわけにいかなかった。
「リーネさんはもう大丈夫?」
「じゃあ行こうか。一応危険な場所も通るから慎重に行こうね」
特に荷物がない私はキルと共にピーターくんについて行った。
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ピーターが案内する通路は街にある下水道が入口だった。鼻の効くキルはそのにおいが耐えられないのか一刻も早く出ようとやや早足気味だった。
「そろそろです。ここから採掘所の洞窟に繋がっています」
ピーターが示したのは通路の途中にある何の変哲もない壁だった。その一部を手で押すとそれがスイッチだったのか壁は横にスライドして扉のように空いた。その中はすぐに採掘場の中と思われる洞窟が見えた。
「ここが採掘場なんだ?」
「そうだよ。ここからは一本道だからすぐに出られるよ」
ピーターの言葉にリーネは出口に向かおうとした時キルが洞窟の奥に視線を向けた。
「キル?この奥に何かあるの?」
「あっ…この奥はやめた方がいいよ?魔物がいるらしいよ」
「魔物?でもどうして奥から出てこないの?」
「よくは分からないけど封印しているみたいだよ?」
ピーターの話を聞いてリーネは何かに呼ばれるような感覚を感じて奥に向かって歩いて行った。
「リーネさん?」
「ごめんねピーターくん…この奥にいる魔物は…多分…」
リーネは言葉を言いかけたところで走り出した。それに続くようにキルも走り出しその後をピーターも追いかけた。
洞窟の奥には4本の柱が四方に配置されておりその中央にいたのは蒼い半透明な体を持った小さなドラゴンだった。
「えっ…あれは…水晶竜…の子供?」
ドラゴンに歩み寄るとそれぞれの柱が光うっすらとガラス張りのような壁が姿を現して進行を邪魔した。同時に中にいるドラゴンも光り苦しむように鳴き声を上げた。
「これ…障壁?」
「リン!」
キルと共に現れたピーターは竜に向かって呼びかけた。ピーターは最初からここにいた物の正体が分かっていたようだった。
「リン?この子のこと?」
「うん…リンは今この国に捕まっているんだ…」
柱の光が収まると中にいたドラゴンは倒れ込みそのまま眠りについた。隣で泣き崩れるピーターに視線を向けたところでキルは急に入口の方に向かい吠えた。
「誰!」
「いいペットを連れているようだな。それもいただこうか?」
入口に立っていたのは白髪の短髪に蒼の軍服を着た男だった。年齢は30はいっていそうで片手にだけ黒いグローブを付けていた。その特徴からこの男がピーターの言う男だとリーネは悟った。