複雑・ファジー小説

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.53 )
日時: 2014/09/29 13:12
名前: 鮭 (ID: BOBXw5Wb)

第15話

「あなたがこの子にこんなことをしたの?」
「そうだ。そして君やそのペットもこの国に取り込まれるんだ」

リーネは視線を男に向けて視線を向け、それに気付くと男はグローブをはめた右手で指を動かして行くと蒼く光る見たことがない文字が浮かび、それと共に地面に魔法陣が浮かび上がった。

「召喚魔法…やっぱりあなたが…」
「すでに聞いていたようだな。俺はエルク。この国の軍の人間だ」

エルクの言葉と共に地面の魔法陣がさらに強く光りだすと半透明な体を持ち、頭には長い角を一本生えた巨大なドラゴンだった。

「水晶竜?何でこんなところに…」
「これは数年前に手に入った俺のコレクションだ」

エルクの言葉はリーネにとって不快でしかなかった。

「コレクション…あなたは…召喚師じゃないの?」
「召喚獣は友達とか仲間だとかお決まりなことを言い出すのか?」

笑みを浮かべてリーネの思いを見透かすように話していくエルクは片手を前に出すと広い空間をドラゴンが羽ばたき空を飛び始めた。体が光り始めその光が角に集中し始めた。

「あの角…ピーターくん!」

子竜に視線を向けたままのピーターは竜の動きにまったく気づいている様子もなく、次の瞬間光っている角からいくつもの稲妻を発し始め、それとともにキルはピーターを背中に乗せて稲妻を避けていきリーネも攻撃を避けて行った。

「なかなかいい動きだな。とても魔道士とは思えないな」
「魔道士?」
「ミスリルの加工…あれは魔術だろ?」

ドラゴンの攻撃が収まった時リーネはエルクの言葉に疑問を感じた。

————もしかして…錬金術を知らない?

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「キル!ピーターくんを連れて離れて!」
「一人でドラゴンと戦うつもりか」

エルクは水晶竜に対して何か指示を与えているようだった。以前も水晶竜について調べたことがあったけど対魔道士においては無敵のドラゴンだと言われていた。

「リーネさん!僕も!」
「ここで魔法は使っちゃダメ!」

ピーターくんの声に気付きすぐに視線を向けるとすでに魔力を集中させているようだった。それに反応するように水晶竜の角が光り始めると同時にピーターくんに集中していた魔力が拡散して竜の角に吸い取られていく様子が見えた。

「やっぱり…魔力を奪われている…」

すぐに倒れそうになったピーターくんの手を取り転倒しないように体を支えた。キルの背中にピーターくんを寝かせたまま視線を水晶竜に向けた。ピーターくんの魔力を奪ったことで竜の角の光はさらに輝きを増していった。

「この国に逆らったんだ。そのガキはもう用済みだ!やれ!」
「キル!お願い!」

エルクの言葉に従うように竜は再び角から稲妻を辺りに放った。それとほぼ同時にキルの体が青く光り私の前に半透明の障壁を作り出し稲妻を防御してくれた。

「なるほど…主に忠実に従うフェンリルか…ますます手にいれたくなった」
「キルはものじゃないよ!」
「それはどうかな?」

エルクの腕が光ると小さな魔法陣が浮かび上がった。その魔法陣は見覚えのあるものだった。召喚師が使う契約の魔法陣。ただしそれはお互いに認め合って同意が得られた時にだけ効果が表れる術でもあった。

「キルと契約なんてできないよ」
「だからこうするんだ」

エルクの言葉と共に魔法陣は黒くなり魔法陣に描かれていた形や文字の内容が変わった。その魔法陣がキルに向けられるとキルの頭部に魔法陣が浮かび上がった。

「キル!?」
「抵抗するか…どうやら飼い主がいると術が効かないようだな」

キルの輝いていた毛並みが消えるとその場に蹲り、そのまま動きが鈍ったのが分かった。その様子から私の頭に一つの禁呪が浮かび上がった。

「強制…契約…?」
「よく分かったな。この術は魔物を強制的に召喚獣にする術だ。まあフェンリルには効果が薄いようだ。」

術が効いたわけではないと分かり安心はしたけどあの様子だと戦闘は無理なようで、その場にしゃがみ込んでしまった。

「では少し痛めつけるとするか」

エルクの指示と共に水晶竜の角が光り始めたのを確認する中、私は対処を考えていた。

文献から水晶竜はブレスのような攻撃はなく角に集中した魔力を使い戦うのが種だと言うことは分かっていた。そして最大の武器は高い防御力だった。そして弱点は力の供給源である角だと伝えられていた。

ただそのためにはあの稲妻をすべて防いで角に触れる必要があった。そしてその方法が今の私には思いつくことが出来なかった。

「やっぱり…これしかないよね…」

瞳を竜に向けると角から撃たれた稲妻が眼前に迫るのが見えて私に直撃した。
正直言うと痛みはなかった。
意識が飛びそうになって体から力が抜けていく感覚だった。

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「リーネさん!」

ピーターの呼びかけにも答えることなく稲妻をまともに受けたリーネはその場に膝をつきその場に崩れ落ちた。

「まともに受けたんだ…ここまでだな…」
「そんなこと…ないよ…」
「なんだと!?あの稲妻を受けてなぜ生きていられる」


エルクの言葉に対してリーネはゆっくりと体を起こした。当然立ち上がれるわけがないと考えていたエルクとピーターは驚きの声を上げた。

「流石に…全部は流しきれなかったかな…感電なんて初めてだよ…でも…もう効かないよ」
「どんな手を使ったかは分からないが次はどうだ!」

すぐさまエルクはドラゴンに指示を出す様子に気づくとリーネの指輪の一つが微かに光った。

「エルクさんだっけ?雷は知っている?」
「急に何を言い出すんだ!」

リーネからの言葉に対してエルクは無視するように竜に指示を与えると当然のようにその角から稲妻がリーネに向けられて放たれた。
それと共にリーネが片手を前に出すと稲妻はリーネから全く違う方向に曲がりまったく見当違いな位置に着弾した。

「何!?攻撃が逸れた!?」

攻撃が思わぬ形で外れたことに動揺している間にリーネは地面に手を当てると再び指輪が光り地面がそのまま柱のように伸びていくと水晶竜に飛びついた。

「ごめんね…このままじゃあなたにもよくないから…」

その言葉と共に角に手を触れさせるとその角は容易に折れた。
力の源を破壊したことで力を失ったドラゴンはそのまま地面に落ちて行った。

「お前何者だ…魔術はこいつが魔力を吸収して使えないはずだ!」
「魔術なんて使っていないよ…ことわりに手を加えただけ…」
「理?」
「雷は地面に向かって進む時、通りやすい経路で進むの。そしてそれは水分を含んだ湿った空気のことだよ。だから最初は捌ききれなくてその分が当たったけどもう私には当たらないよ」

リーネは手に持った角に視線を向けるとピーターに歩み寄りその角を手渡した。

「ごめんピーターくん。これ預かってもらっていていい?」
「う…うん…リーネさん…あなたは…」
「私は錬金術師。私のお父さんの言葉を借りると世界の理を力にする術師かな?」

水晶竜の角を預けたリーネはピーターの頭を撫で笑顔で笑いかけた。そのまま視線を障壁の中に閉じ込められた小さな水晶竜に向けた。

「待っていてね?あの子も助けてあげるから…」
「リーネさん…お願いします…」

視線を下げたピーターの瞳に一瞬見えた大粒の涙をリーネは見逃さなかった。
ゆっくりと立ち上がったリーネは視線をエルクに向けた。その瞳は普段とは違い鋭いものだった。

「いつもはこういうことは言わないけど…許せないよ…召喚獣…みんな解放してもらうよ」
「召喚獣を倒したくらいで調子に乗るなよ…術者が召喚獣よりも弱いわけがないだろう?」
「関係ないよ…あなたは絶対にしてはいけないことをしているんだよ…許すわけにはいかないよ」

リーネの言葉に構う様子もなくエルクは服の中に隠していたチェーンを手に握った。それに対してリーネも身構えた。