複雑・ファジー小説

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.55 )
日時: 2014/10/09 17:22
名前: 鮭 (ID: BOBXw5Wb)

第17話

国の外に出ると街の中は破壊の限りを尽くした後で私の見た街並みは完全な廃墟となっていた。そしてその中には私やキル以外に生きているものはいなかった。それどころか…

「誰ひとりいない…」

廃墟の中にはそこに住んでいたと思われていた住人達の亡骸は一切見つからなかった。その理由はすぐに理解できた。

「あの召喚獣…だね…」


思いだしたのはLの動きを止めてその亡骸を飲み込んだ召喚獣。そして私に攻撃した召喚獣も恐らく同じものだと思う。
いつの間にか俯いてしまっていた私をキルは服を引っ張って進行を促した。
立ち止まってしまってはいけないと私に言い聞かせてくれている。
そう私に考えさせるほど今の私はキルを頼もしく感じさせ次にしなければならないことを私に示してくれた。

「そうだね…私達の街もこんなふうにしないためにも…帰らないとね…」

街に来て数日しか経っていない私に命をくれたあの水晶竜…そして私を助けようとしてくれたピーターくん…。Lはこの国自体の存在を否定したけど必ずしも全部が悪いというわけじゃない…どんなものでも必ず違う一面があると思う。その証がこの杖だから…。

「帰るよキル。一度みんなに中間報告だよ」

キルに視線を向けた私は笑顔を浮かべながらもそうやって誤魔化していたんだと思う。不安に押しつぶされそうな私の心に対して…。

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「酷いよ…せっかくリーネちゃんと再会できたのに貴方だけ話すなんて…」

Lは中にいるもう一人の青年に向けて話しかけていた。むっとした様子を見せたまま暗い廊下を歩き続けると一つの部屋に入り椅子に座り込んだ。

「ずいぶん早く来たな」
「ちょっと仕事が早く終わったの。誰そいつ?」
「初めてだったか…こいつがIだ」

Iは黒のローブで体を覆ったまま特に何かを話すわけでもなく黙って席に着いた。無表情のままのIに対して珍しく反応を示さないLはJに視線を向けた。

「それで?Kの後任は決まったの?」
「ああ…もう間もなくその予定の後任が到着するぞ」

Jの言葉と共にドアが開くと入ってきたのはR、G、Nの3人だった。その様子を見たJは定位置になっている席にいつものことのように座った。

「後任はRだ。総合力を考えるとこいつが一番の適任だからな」
「ふーん…Rなら私は文句ないかな…I。貴女は?」

IはLの問いかけに特に答えることなく緩い頷きだけをして答え、そのことに対して特にRは気にする様子もなく部屋の壁に寄りかかった。

「それで?このメンバーでKの街を襲撃するの?正直過剰すぎない?街が跡形もなくなるわよ?」
「俺の記憶消去を解除できる可能性がある街だ。それぐらいしないと意味がないからな…」
「ふーん…Jも案外評価しているんだ」
「あわよくばZも動くそうだ」

Jの最後の言葉はLや周りの人物は当然、無表情だったIも驚きの表情を浮かべた。

「Z…動くの?」
「さすがのIも気になるか?それほど組織としては緊急な事態と判断したんだろ?組織の中核だったK、そして俺の術を解除できる存在。この2つがある時点であの街はそれだけの価値がある場所だ」

Iの問いかけにJが説明をしていくと全員が納得をしたのかその後の話を黙って聞いて行った。

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「ようやく腕が動くようになったわね」
「しかし骨折しておいて治るの早すぎだろ…」

庭で空を切るような拳を何度も振るう様子を見るバードは呆れたようにその様子を見ていた。戦闘というわけでなかったせいかいつものような鎧は装備せずに軽装な状態でバードは地面に座りこんでいた。

ほんのほぼ一カ月近く前に腕の骨を砕かれたカグヤはフランの治療により通常の何倍もの速度で完治に成功した。ただしここまで完治が早いのは本人の治癒能力の高さも影響しているとも言える。

「でも正直大変だったのよ?私には永遠とも感じれる程の座禅よ?」
「まあ同情はするけどそこでしっかり休んだから早めに完治したんだろ?」

バードとカグヤが話をしている中でシンはコートと帽子を取った状態で庭に入っていった。

「ずいぶん完治したみたいですね。もう大丈夫なんですか?」
「ええ。むしろ体を動かしていなかったせいで訛って仕方なかったわよ。というわけで…ちょうどいいから相手をしてよ!」
「まあ…いいですけど…いきなり動いて平気なんですか?」
「問題ないわよ!」

シンの言葉に答えるように拳を振るうとすぐに一歩下がって拳をかわしたシンは腰にかけていた訓練用のナイフを抜いて逆手に持ったまま斬りかかり、それに反応して同じく一歩下がったカグヤはそのまま続けて攻撃をしようと一歩を踏み込もうとした時に足にうまく力が入らずにその場に倒れ込んだ。

「おいおい…大丈夫かよ!?」

バードの問いかけに対して倒れたまま黙り込んだカグヤに二人がかりでその様子を確認していると突然起き上がったカグヤに驚いた。

「…め…な…い」
「カグヤ?大丈夫ですか?」
「こんな訛った体が私のわけがない!走ってくるわ!」

大きく決意の言葉を響かせるとそのままカグヤは庭を出て街中へと走っていった。

「余程悔しかったんだろうな…」
「約1ヵ月の殆どを座禅で過ごしていましたからね…衰えない方が変ですよ…」

カグヤと入れ替わるように家から出て来たのはキルとサクヤだった。カグヤが見当たらないことでサクヤは辺りを見回していた。

「あら?カグヤちゃんは?」
「訛った体を鍛え直すために走っていったぞ」
「バードさん…もう少し言い方はないんですか?」

バードの言葉に訂正を求めるシンの様子にサクヤとキルは笑みを浮かべ、クロを抱いたサクヤは普段カグヤが使っていた作業用の椅子に座り、キルはいつものことのように訓練場に向かった。

「さて…カグヤはしばらく個人トレーニングとして…こっちはこっちで始めるか」
「と言っても俺はもういいんだろ?」
「バードは元々能力があったみたいだからな。シンについては基本的な能力を上げるしかないな」

得意げに話していくバードにムッとしたシンはその場で準備運動を始めて行った。右手には先に用意した訓練用のナイフ、反対の手にはリボルバーのマグナムを手にしていた。

「それでもバードさんには負けているつもりはありませんけどね」
「まあ…総合的にはシンの方が上かもな…」
「おい!何だよ二人とも!分かったよ!俺も走ってくるからな!」

二人係で実力不足と言われたバードは脱いでいた鎧を着込み準備を済ませるとそのまま走っていった。バードに対してはキルはできる限りのアドバイスはしたものの分野外な話は概ね別の人間に任せていた。

「さて…俺達も始めるか…俺が教えられるのはこいつだけだからな…」
「分かっています。今日もよろしくお願いします」

銃を抜くキルを見るとシンも銃弾を込めて修行の準備を始めた。



鎧を着込んだバードは待合の予定だった街の外の森の中に来ていた。街中での修行になるとバードの場合周りに被害が及ぶ場合があるからと選んだ場所でもあった。

「お待たせしてしまいましたね」
「いや…リンクさんはフィオナさんや所長のカバーで忙しいですからね」

長髪の金髪にメガネを掛けたリンクは片手にレイピアを持って歩いてきた。経理の仕事が忙しいことからこういった普通の時間に会うのは難しいもののバードのために時間を取ってくれたのだった。そして礼儀などにうるさいことから流石のバードも彼の前では敬語になってしまっていた。

「それでもなかなか付き合ってあげられなくてすみませんね」
「いえ…むしろ付き合ってくれて助かりますよ」

リンクが鞘から抜いたのは曲がりやすい殺傷能力がないレイピアでそれに対してバードは帯剣を抜いて構えた。

「いつでも始められますよリンクさん」
「じゃあ始めましょうか」

お互いに武器を構えたまま話していくとそのまま修行という名の模擬戦を始めた。