複雑・ファジー小説

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.56 )
日時: 2014/10/15 23:15
名前: 鮭 (ID: BOBXw5Wb)

第18話

街を一通り走って公園の広場に着いたカグヤはいつもの日課で役所の広場に来ていた。普段はここで座禅が日課だったものの今日は腕立てをしていた。そんな中で来たのはカグヤに魔術の

「あら?今日は筋トレ?」
「あっ…フィオ姉…魔術に集中し過ぎて全体的に筋力が落ちてしまっていたのよ…」
「魔術の取得には仕方ないけど…でもカグヤちゃんの場合はいいのかな」

カグヤの様子を見てから簡単な確認を終わらせてフィオナは早々にその場から離れて行った。

「ちょっと!何もないわけ!?」
「私も暇じゃありませんから。それに今日はリンクくんもいないから私が働かないといけませんから」
「リンクさんが?珍しいわね」
「今頃バードくんは苦労してそう。多分私よりきついわよ?」

一人笑みを浮かべてから手を振っていくフィオナをカグヤは見送りどんな修行何だろうと気になりながら修行を繰り返していった。

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森の中でバードは大の字に転がったまま疲労からか呼吸を乱していた。数メートル離れた場所では倒された大木に座り本を読むリンクの姿があった。

「そろそろ休憩は終わりですよ」
「えっ?ちょ…ちょっと…ま…まだ…」
「そういって敵は待ちませんよ」

バードの言葉に答えながら本を閉じレイピアを抜いたリンクは倒れたままのバードに飛び込み、それに対してすぐにバードは体を反転して迫ってきたレイピアを避けた。かわされたレイピアは地面に突き刺さりその衝撃で地面に亀裂が入った。

「ちょ…今の俺がかわさなかったら串刺しですよ!?」
「当たり前ですよ。そうなるように攻撃しましたから」
「リンクさん…もしかして俺でストレス解消していませんか?」
「そんなことありませんよ」

レイピアを引き抜いたリンクは軽くレイピアを振り構え直した。それに対してバードも剣を構え直してリンクに向き合った。

「ここまでは普通の攻撃しか使いませんでしたが貴方がここからは克服すべき攻撃パターンで戦いましょう」
「克服する必要がある攻撃?」

バードの言葉に答えることなくリンクはレイピアを鞘に納めるとカチャリという音と共にレイピアを構え直した。

「これなら当たっても問題ないでしょう。痛い思いをしたくなかったら集中してください」

リンクの言葉に無言で頷いたバードは攻撃に備えようと身構えた。
次の瞬間リンクはバードに飛び込んでレイピアによる突きを放った。ただしその剣速は今までバードが受けて来たものを遥かに超える速度で一撃目をガードしようとした瞬間にはレイピアが命中し、体が一撃目をガードしようと遅れて体が動いた時には二撃目が命中しまったくガード出来ずにバードはその場で片膝を付いて崩れた。

「こ…これは…」
「君が克服すべき攻撃です。貴方はこういった高速の攻撃が極端に苦手ですから」

リンクからの説明を聞いていながらも今のバードの頭に入って来なかった。
バードが受けた攻撃は今までに受けたことがないものだった。早さは当然ながら一撃一撃も重く普段見るリンクからは想像できないものだった。

「なんで…こんなに強いのに…」
「私のことはいいでしょう?それよりも…聞いていなかったようなのでもう一度始めましょう。最終的にはこれくらいは受け切ってもらいます」

バードが立ちあがるとリンクは再びレイピアを構え直した。

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銃声が辺りに響きそれと共に台の上に配置されていた鉄板が倒れた。続け様に横に並んでいるまとも倒れて行った。

「ずいぶん正確さが増してきたし早撃ちもできて来たな」

的を元に戻しながら俺はシンが撃った的を元に戻していた。
正直あの年齢でここまで銃を使いこなせる奴は初めてだった。それほどにここまでの旅が過酷だったのかと考えてしまった。

「しかし…お前はここに来る前は何をしていたんだ?銃の扱いにかなり慣れているよな」
「父から習いました。元々僕の家族は狩人でした…。でもある魔物に僕の家族は殺されました…」
「そうだったか…それでそれだけ銃やナイフが使い慣れていたのか」

こうしてシンの話を聞くとこの街には何かしらのつらい過去を持っている奴が多い気がした。そういう意味ではこの街には何か引き寄せる力でもあるように感じた。

「キル。早く配置してください。次が始められません」
「ん?ああ…悪い…」

シンの言葉で自分の動きが止まっていたことに気付いた。俺はすぐに的を並べ直し始めると立てた的が倒れた。もちろん銃弾で倒れた訳じゃなかった。地面の底から響いてくる地鳴りによるものだった。

「何だ?」
「地震でしょうか?」
「サクヤ!一先ず家に避難していてくれ」
「分かった。二人は?」
「俺らは…」

サクヤからの問いかけに対して辺りを見て大きな被害が見られないことを確認した。その間には出かける準備にとコートと帽子を装備し、カグヤが置いて行ったローラーブレードといつも身に付けたポンチョを持った。

「行きましょうか。多分カグヤもあっちにいますし」
「そうだな…というわけだサクヤ。役所を見てくるから留守番を頼む」
「分かったわ。じゃあ私は御飯を作っているね?」

家に戻っていくサクヤを確認してから待たせてしまっていたシンと共に役所に向かい移動をした。街自体は幸い破損は見られなかったものの慣れない地震だったことから建物から殆どの人々が出てきていた。



役所にまで到着すると別で行動していたバードやリンクが役所に戻って来ていた。カグヤもトレーニングを中断していた。

「二人とも遅いわよ」
「すみません。街を確認しながら来ましたから」

文句を言うカグヤに対してシンは特に動じる様子もなく持ってきた装備をカグヤに渡した。自分の装備を身につけるカグヤを他所に俺はこういった時に一番頼りになる人物を探した。

「フィオナはどこかに行ったのか?」
「フィオナさんは今レクス所長に被害状況を報告に行きました」
「そうか…原因は分かったのか?」
「それが何も言わずに戻っていきましたから」

リンクの話が終わったころにカグヤは着替えを完了させており一人で素振りを始め、バードはシンといつものように何か話をしているようだった。

「あら?しっかり集まっていたみたいね」

フィオナの言葉に一同は視線が向けられた。そんな様子にフィオナは満足げに頷くと本を開き呪文を唱え始めそれと共に本が光始めると頭の中に映像が浮かび上がった。それはいつも行き慣れた森と山だった。

「みんなの頭に映ったかな?原因はこの山みたい」
「こんな山があったんだな…」
「ああ…キルは知らないよな長々と噴火はしていないが火山なんだ」
「火山?」
「噴火してもここまでは一応被害が届きませんが念のためにとフィオナさんが時々確認しているんです」

バードの説明にシンが補足してくれて何となく映像の場所のことについては理解できた。流れから考えるとこの火山が先の地震の原因であると考えられた。

「それで!ここの調査の必要があるの。場合によっては沈める必要もあるし」
「沈める?そんなことできるのか?」
「うーん…多分直接行けばなんとかなるかなぁ…」

実際にフィオナの魔術を見たことがある訳ではない俺はどうやって沈めるつもりでいるのか分からず首を傾げ、他のメンバーは特に心配をしている様子もなく出発の準備をしているようだった。

「とりあえず…リンクくんは役所でお留守番。それで…今回の護衛はシンちゃん、バードくんにキル。カグヤちゃんも来てくれると助かるわね」
「いつも思うけどフィオ姉って護衛いる?一人で問題なくない?」
「少しでも私も楽に進みたいの。それに今回は魔物がいるみたいだからね」

フィオナの話から俺達3人はどうやら拒否権がないようでシンとバードは出かける準備を始めていた。
カグヤにおいては魔物と聞いてやる気を出したようだった。

「仕方ないな。まあ…このメンバーなら問題ないだろ」

全員がやる気を出した状態で俺一人だけ行かないわけにいかない。それに火山に影響を与えかねない魔物自体にも興味がないわけではなかった。

「じゃあみんなのトレーニングの成果を試す意味でもちょうどいいでしょ?」
「もしかして…それで俺らを選んだのか?」
「さあ?どうでしょうね?」

正直こいつは何を考えているのか俺には分からないが何故か頼りになるような雰囲気がこいつにはあるような気がした。そのことが原因か危険度が未知な任務なのにも関わらず安心して挑むことができそうだった。