複雑・ファジー小説

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.57 )
日時: 2014/10/23 21:00
名前: 鮭 (ID: BOBXw5Wb)

第19話

街から数キロ離れた森の中で5人は火山に入る前の準備にと入山口の広場で昼食を食べていた。早々に済ませたキルは今のうちにと銃弾と銃の調整、バードとフィオナはすでに一人分は食べ終えているにも関わらず食事を続け、シンとカグヤはフィオナから聞いていた火口内のマップを確認していた。

「というか…火山の奥まで行くなんて本気で言っているわけ?」
「もちろん。場合によっては火山を抑えないといけませんから」

簡単に説明していくフィオナの言葉にやや疑問を感じながらキルは銃を納めて立ち上がった。食事を終えたフィオナは本を開いてリラックスしておりバードにおいては昼寝をしている始末だった。

————やる気あるのかこいつら…

これから何があるか分からない状況なのにも関わらず普段と変わらない他のメンバーに関心を通り超えて呆れてしまったキルは大きくため息を漏らした。そんな様子のキルに気付いたのかフィオナは笑みを浮かべたまま立ち上がった。

「さて…キルも待ちくたびれたみたいだから行きましょう」
「いや…そんなことないぞ」
「いいの!どうせ私は準備できたし!」

ただ本を読んでいるだけにしか見えなかったキルに取っては準備の意味が理解できなかったが本人が出来たと言うので問題ないと判断した。
フィオナの言葉でカグヤは運動の準備にと屈伸を始めシンはやはり眠ったままのバードを蹴って起こした。

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山登り自体はさほど体力を消費することもなく進行できた俺たちは加工への入口である暗い洞窟へと足を踏み入れた。最も暗かったのは最初だけで数刻歩き続けると赤い灯りが熱気と共に見え始めた。

「おいおい…これはさすがにやばいぞ…」
「溶岩…ここまでしっかりは初めて見ました…」

洞窟を抜けて目には行ったのは巨大な筒抜けな空間と山に沿って螺旋状にできた通路。ただしその通路から足を踏み外せば下に見える溶岩にそのまま落ちてしまう。

「それにしてもこの道…誰かが作ったのか?ここまでしっかりと下に続く道が自然にできないだろ?」
「ああ…これはフランくんにお願いしたの」

鬼か…。と考えたのは恐らく俺だけじゃなくてここにいる全員だろう。

「さて…ここからは生身だと大変だから…術を掛けておくね」
「術ですか?」

シンが俺達の疑問を問いかけてくれると答えながらフィオナは本を開き、術を唱え始めるとそれにより俺達とフィオナに薄く青い光が掛けられた。その瞬間それまで暑かった感覚が消えて普段と変わらない環境になったようだった。

「これで完了!」
「へえ…あんなに暑かったのに…これなら普段と変わらずに動けそうね」
「環境適用のための術だからね。ただ溶岩に落ちたら当たり前だけどアウトだから気を付けてね」

カグヤに対して追加するように説明をしていくと早速とフィオナは螺旋の道を下りて行った。
螺旋の通路の一番下まで視線を向けて行ったものの最下層にある広場まで魔物らしい姿は見当たらなかった。

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「特に何もいませんでしたね…」
「フィオナがミスなんて珍しい話だな」
「バードさんはいつもですからね…」

シンとバードが話している間フィオナは特に何か言うわけでもなく数メートル下を流れている溶岩に視線を向けて歩き回っていた。キルも同じようにフィオナとほぼ対角線になるように歩きながら確認していた。

「うーん…おかしいなあ…明らかに何かいた筈なんだけどなあ…その割に以前より活発な気がするし…」
「でも何もいないしどうするの?」

カグヤの問いかけにため息をしてから中央に集まるメンバーの元に歩き始めた時だった。溶岩から赤く巨大な尻尾がフィオナを横薙ぎに跳ね飛ばした。

「フィオナさん!」

咄嗟のことでシンの声が聞こえるまで何が起きたか分からずそのまま溶岩に落ちていくフィオナを見ていることしかメンバーにはできなかった。

「こいつか!」

キルはすぐに魔物の存在を察知して今まで通って来た通路に視線を向けると炎の鬣を持つ赤い4つ足の魔物が何体もこちらに向かってきていること、そして溶岩の中から数メートルはある赤いドラゴンが姿を現した。

「フィオ姉!」
「おい!フィオナ!」

今にも溶岩に向かって走り出そうとしているカグヤとバードに対したシンは無言で両手を出して二人の進行を制止させた。

「駄目です…このまま近づいたら二人も落とされてしまいます…」
「おい!だからって放っておくのかよ!」
「このまま行ったら僕らまで魔物の餌です。助けるなら…安全を確保してからです…」

拳を振るわせるシンの様子に気付いたバードは一度深呼吸をしてから大剣と帯剣を引き抜いた。その横ではカグヤがすでに魔物と戦おうと準備運動をしているようだった。

————俺が言うまでもなかったか…

3人の様子を見たキルは小さく笑い銃を引き抜き、視線を魔物達に向けて行った。

「あの四足は12…それとドラゴン…俺の見立てだとあいつらがB、このドラゴンはAの下級と言ったあたりだな」

すでに視線を目的の魔物達に視線を向けているメンバー達の様子に安心してからキルは魔物達で一番手強そうなドラゴンに視線を向けた。赤いうろこに覆われ口からは呼吸するごとに噴き出した小さな炎、特徴を見ていく限り直接的な攻撃は危険だと考えられた。

「さて…こいつはどうするかな…」
「とりあえず私がやる方がいいでしょうね」

キルの呟きと共にドラゴンの頭上に蒼い魔法陣が浮かび上がると辺りの熱気さえも忘れそうな冷気と共にいくつもの氷の槍がドラゴンや当たりの魔物に向けて降り注いだ。

「な…なんだよこれ…」
「これは…魔法…ですか?」
「こんな場所で氷の魔法って…うそでしょ…」

突然の魔法に驚いたのは3人や魔物だけでなくキルもだった。ただしそれは魔法いついてのことではなかった。

「確かに一撃目はもらうとは聞いていたが溶岩に落ちるとは聞いてなかったぞ?」

キルの言葉に驚く3人に答えるように溶岩から出て来たのはフィオナだった。まるで水の中から出るように陸地に上がってきたフィオナの体は白い光に覆われており片手に持った本を閉じるとその光も消えた。

「フィオナさん…大丈夫なんですか?」
「大丈夫。これでも冷気の魔法は一番得意だからね」

シンの心配さえも不要に感じるほどにフィオナの体は無傷ですぐにドラゴンに視線を戻した。

「というか説明してよね!聞いていたって何よ!」
「それは魔物退治を終わらせてからにしろよ」

カグヤの疑問に対してキルは一時的に制止を促し魔物に集中させた。魔法に怯んでいた魔物達も態勢を立て直すとそれぞれが飛びかかってきた。

「とりあえず一人4匹の割合だったよな!」

その一言と共に飛びかかってきた魔物達をバードは大剣で一度に5体の魔物を吹き飛ばした。吹き飛ばされた魔物達は溶岩に落とされていった。

「バードさん…力加減また間違えましたか?これはリンクさんに報告ですね…」
「ちょっと待てよ!せっかく助けてやったのに!」
「助けなんていりませんよ…」

言葉を発したままシンはマグナムを一体一体の頭部に銃弾を放ち倒れて行った。当然のようにその銃弾はカグヤの分の魔物にも命中していきすべての魔物を撃退してしまった。

「ちょっと!何で私の分も倒してしまったのよ!」
「すみません…ひさしぶりの実戦でしたので…」

特に反省をする様子もなくシンは銃に弾を込めていった。怒るだけ無駄と考えたカグヤはため息をしたまま視線をドラゴンに向けるとキルは何もしている様子はなくフィオナがドラゴンと対峙していた。

「ちょっとキル!あんた何しているのよ!」
「フィオナが一人でやるっていうからな。面白いものが見られるかもな」
「おもしろいものって何よ」

キルの言葉に魔物を撃退し終えた二人も駆け寄ってくるとその様子を遠目で見ていたフィオナは笑みを浮かべて本を開いた。

「じゃあいい機会だし…本気を出そうかな」

楽しげな口調でドラゴンに視線を向けるとフィオナの足元に魔法陣が浮かび上がり、ドラゴンは一歩ずつ後ずさりし大きな怒号上げて威嚇を始めた。

「元気がいいみたいだけど…眠っていてもらうね」

その言葉と共にフィオナの頭上に大きな氷が一か所に集まり大きな塊になった。その大きさはフィオナ本人の数倍の大きさになっていた。

「さあ…久しぶりの運動だよ…テオ」

フィオナお呼びかけと共に氷は砕け散りその中から出て来たのは氷の体を持つ目の前にいるドラゴンとほぼ同じ大きさのドラゴンだった。