複雑・ファジー小説

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.58 )
日時: 2014/12/03 15:37
名前: 鮭 (ID: n9Gv7s5I)

第20話

「ただものじゃないとは考えていたが…召喚師だったか…」
「あら?私はあまり驚かないキルがただものじゃないと考えちゃっているかなあ」

キルの言葉を聞いたフィオナは視線を目の前の赤いドラゴンに向けた。
テオと呼ばれていた氷のドラゴンはそれまで暑かった空気を一気に極寒へと変え火山の中にいるという空気を感じることが出来なかった。

「ちょっと…何でこんな場所に呼んだはずなのに…あの氷のドラゴン…元気すぎない?」
「テオはただの召喚獣じゃないからね。とりあえず…。テオ!」

フィオナにしてはめずらしく声をあげた指示に対してテオと呼ばれるドラゴンは青く光るブレスを吐き、それに対抗するように赤いドラゴンも炎のブレスを吐きその温度差で爆発が起こった。

「うわ!こんな場所で派手にやりすぎだろ!」
「あんた…少しはシンを見習いなさいよ…」

爆風で大げさに騒ぐバードに呆れるカグヤが見せるように指さした。バードの目に入ったのは帽子に付けたゴーグルで砂埃を防ぎながら片手には銃を持ちいつでも次の行動がとれるようにしている姿だった。

「今はいいぞ。決着は着いたみたいだからな」
「いえ…どんな時も次の行動がとれるようにしないといけませんから…」

態度を変える様子がないシンに言葉を掛けたキルも笑みを浮かべ視線を上げると砂埃と共に次の瞬間に見えたのは氷の竜が溶岩に向けてブレスを放つ姿、そして倒れた赤いドラゴンを調べるフィオナの姿だった。

「溶岩は抑えたね。じゃあこの子も帰さないと…」

ドラゴンのことを調べ終えた様子のフィオナはドラゴンに向けて手を触れさせ反対の手で本を開くとドラゴンは光りと共に姿を消した。

「あのドラゴンも…召喚獣だったんですか?」
「多分…最も契約もされていないから使い捨てのつもりだったのかもね」

シンからの問いかけに答えたフィオナは上空を飛ぶ氷のドラゴンに視線を向けた。その様子に気付いたのかドラゴンはフィオナの横に下りて来た。

「しかし…こいつがいると…寒くないか…」
「何言っているのよ。おかげで噴火も抑えられたじゃないの」

火山なのにも関わらず体を震わせるバードとカグヤを見たフィオナは黙って笑みを浮かべ視線をドラゴンに向けた。数秒ほど視線を合わせてからフィオナの足元に魔法陣が現れ、それと共に氷のドラゴンは光りに包まれ姿を消した。それにより周りの温度は上昇し始めたがメンバーにとってはちょうどいいくらいの温度だった。

「フィオナさん…あなたは召喚師だったんですか?」
「うーん…正確には違うかな。本業は魔導士。テオは私の先生から譲り受けた召喚獣だよ」
「とりあえず話は後だ。いったん出るぞ」

シンに簡単に説明をしていくフィオナはいつもと変わらない調子でいつもの講義が始まり兼ねないことから話を中断させたキルは全員の状況を確認した。
結局戦闘をしていないカグヤとキルは全くの疲労もなくバード、シンも戦闘時間がそうでもなかったことから怪我も疲労も見えなかった。

「フィオナは平気なのか?」
「私?うーん…溶岩に入った時に少し魔力を消費したけど…問題はないかな」

ドラゴンの攻撃、溶岩に落ちたのにも拘らずフィオナは特に怪我をしている様子もなく疲れている様子もなかった。

「というか溶岩に落ちて何でそんなにピンピンしているんだよ?」
「魔法よ。具体的に言うと冷気の盾を全身に纏ったの。これで大抵のことは耐えられるの」
「そんな溶岩にも耐えられるような冷気を体に纏って大丈夫なのかよ?」
「平気だよ。自分の魔法で怪我しないようにするのは魔法使いが最初に学ぶことなんだよ」

バードへの説明が終わった辺りを見計らってキルは再び魔物が出てくる前にとこの場からの撤退を促した。もっともこの後にフィオナの講義が待っていると予測できたことからキルの足取りは他のメンバーに比べて重かった。

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「うーん…どこから話をした方がいいかな…」

役所に戻るとさっそくと話し合いが開催された。
部屋は如何にもお偉いさん達が使うような長い机、立派な椅子が設けられた部屋だった。今回は珍しくリンクもいたがその理由はバードの修行の成果の確認で恐らく明日からの修行が大変になるのは明らかだった。そして参加した理由はもう一つあった。

「バードの修行の一件はここまでですね…それともう一人…入ってきていいですよ」

リンクの言葉と共に開いた扉から入ってきた人物に俺はもちろんカグヤも驚いた様子だった。見覚えのある銀髪に腰に吊るした刀を持った少年、その姿は他人と間違えることなどできなかった。

「あんた!ジン!?何でここにいるのよ!」
「ひさしぶり!報告したいことがあってこの街に帰って来たんだ!」

久しぶりに見たジンは以前に見た時よりも大人びているように見えた。その様子を確認してからリンクはフィオナに軽く頭を下げてから部屋を出ていった。

「妹は見つかったのか?」
「まあな。それと俺の村のこともな…」

椅子に座りながらジンは何かを含むような口調を話していった。

「とりあえず話し合いの席のメンバーは揃ったことだから一つずつ話していきましょうか」
「とりあえず…フィオナ…お前が何者か…という話からだな」
「そうだね…どこから話せばいいかな…みんなは魔法学校を知っている?」
「噂くらいだな…」

仕事の関係で耳に入った情報の中にそういった話があったと思った。他のメンバーは知らないのか首を横に振ることで知らないことを伝えた。

「魔導士ならともかく一般には知られていないかな…」
「それはやはり魔法を学ぶ学校と認識していいですか?」
「そう。初級、中級が出来れば普通の魔導士。そして上級が最上級魔導士として扱われるの。上級を卒業しようとするとその頃にはお爺さんが普通だけどね」
「それをフィオナさんは卒業したわけですね」
「確か16歳で卒業したかなあ…」

最後の言葉には流石に全員が絶句した。自分達が考えていた以上に大物な人物であったことが一番大きかった。しかしそれ以上に驚く内容が続いた。

「でも最年少卒業者は14歳だよ」
「14歳!?もうそれは人間じゃないよな!」
「あんたは何でそんなに楽しそうなのよ…」

ジンの話ぶりにカグヤは呆れたようにしてため息をしフィオナも小さく口元を緩めた。

「ちなみに私とその子ともう一人がその代の首席卒業者だよ。相当異例な話だったみたい」
「そうだろうなあ…年によっては卒業者がいないくらいなんだろ?」
「バードさんには永遠に無縁な話になりそうですね」

バードやシンの様子に笑っている一同の中でフィオナはここで初めて表情を曇らせた。

「ここからが本番ね。テオはこの時に卒業祝いとして私に与えられた子なの。元々私はテオとその2人と一緒に競いお互いを高め合ったの」
「ライバルだったってことかぁ。そう言うのはいいよな」
「そうですね…張り合う相手がいるかいないかではやはり違います」

相変わらず表情を曇らせたままのフィオナの様子や話を聞いていき嫌な予感が俺の中で芽生えた。その経歴に思い当たる人物がいたからだ。

「その二人の名前はレミ、リオン。二人は私と違って完全な魔道士タイプじゃなかったの。レミは双剣、リオンは大剣の使い手でもあったわ」
「ちょっと待ってよ!それって…」
「あなた達の会った白騎士でまず間違えないよ。報告の特徴も一致するしね。私とリオンはそうでもないけどレミは召喚師としても優秀だったからいろいろ呼び出せたの」

カグヤの言葉はこの場の何人かの代弁でもあった。大方予測が付いていた俺にとってはそういった経歴があったことの方が驚いてしまった。

「そいつらだったら俺も会ったぞ?リーネが白騎士って呼んでいたから間違えないぞ」

ジンの言葉でその場にいた全員が黙り込んでしまった。正直俺も驚いてしまったのもある。

「あんた!リーネに会ったの!?」
「ああ…結構前に…。まさかあんなに強くなっていると思わなかったな」
「そんなことはどうでもいいわよ!元気そうだったか聞きたいの!」
「く…苦しい…」

襟を掴みぐいぐいと締め上げるカグヤにジンは机を叩いて助けを求め、シンが宥めることでその場が収め改まり、ジンがここに到着するまでの過程を話した。ジンが立ち寄った村に偶然いたリーネとそこでの戦い、その後見つかった妹の話。そして滅ぼされてしまった自分の村の話を…。

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「この刀が俺の村に伝わった宝だ…。多分俺の村が狙われたのはこいつが原因だが詳細は分からない」
「詳細は俺が話す…」

キルの言葉にその場にいた全員の視線が集まった。

「キル…お前が関わっていたのか?」
「その任務には俺も参加していた…そうじゃないかと思っていたが今の話でハッキリした…」
「話してくれていいかな?キルが知っていること」
「ああ…特に弁明をするつもりもない…あったことをすべて話す…」

そんな状況でもフィオナは笑みを浮かべたままだった。一度ため息をしてからキルはその時にあったことを話し始めた。