複雑・ファジー小説

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.59 )
日時: 2014/11/03 16:16
名前: 鮭 (ID: BOBXw5Wb)

第21話
俺が組織に入ったのはいつか分からなかった。物心ついた時には組織の中で暗殺術や銃器の扱い、大人達に混じっての訓練を行っていた。元々の素質があったのか特に意識もしないうちに実力は高くなって仕事もこなすようになり、組織内ですら一部を除いた人間に恐れられるようになった頃だった。

「村の殲滅?」
「そうだ。あの村の人間は危険な人種でな。必ずこの組織の危険分子になる。お前には俺とNと共にその村の殲滅に参加してもらう」

当時の俺にとってはごく当り前ないつものことと考えていたことからJから言われた任務に何の疑問も感じることなく参加した。

任務と言う名の一方的な殲滅…正しくは虐殺が行われたのはそれから3日後のことだった。
Nは任務と言うことからか人物を問わずに無表情で斬り伏せていった。そんな横でJは笑いながら村人たちを焼き払い続けていた。正直こんな中で任務に集中できるほど俺も人間が出来ていなかった。

「これでいいな。K、N。残党の殲滅は任せるぞ。面白い素体が手に入ったからな」
「分かった…じゃあ残りは僕とKがやっておくよ」

辺りは燃えてきつい臭いが漂っていた。無抵抗な人間に対して平気でここまでできるJとNには正直感嘆してしまった。もちろん褒めているわけではない。

「結構しぶといんだね…」

Nの言葉からまた一人誰かが殺されたことが理解できた。もうこの村は全滅だろうと考えた時俺の目に虫の息だが生きていた子供が目に付いた。そして俺のJやNに対しての反発心からその子供の元まで移動して話をしながら一発の銃弾を放った。

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「銃弾?じゃあキルはその子供を撃ったんですか?」
「ああ…ただし撃ったのはただの銃弾じゃないけどな」

キルの話を聞いていたシンはキルから出た言葉に疑問を感じて問いかけると懐から一発の銃弾を取りだした。その銃弾は銀色に輝いており見たことがない銃弾にその場の全員の視線が集まった。

「それ…銀弾シルバーバレッド?私も初めて見たよ…」
「知っている奴がいるとは思わなかったな」

それが何かを理解できた反応を見せるフィオナをに視線を向けたキルは笑みを浮かべてから銃弾をしまった。

「この銃弾は俺が持っている最後の一発だ。作れるのは特別な錬金術師だけと言われる代物だ」
「そんな銃弾をジンに撃つことでどうなるのよ?」
「効果は回復と力の覚醒の2つだ。最も撃たれてからしばらく眠りにつく上に後者に関しては殆ど症例がないらしいがな」

キルの話を聞いてからジンは以前にあった戦いを思い出した。それは骨の体を持つドラゴンとの戦いの際に自分に起きた体の変化。

————あの力が…もしかして…村が狙われた理由…

ジンが頭の中で考えてから視線をキルに向けた。キルの表情は無表情ではあるがやや暗くなっているように見えた。そんな様子にジンは黙っていられなくなり立ち上がった。

「キル。一つだけ頼んでいいか?」
「何だ?」
「組み手の相手になってくれないか?」
「いいぞ。ここの広場を使うか…。空いているだろ?」
「えっと…広場は…空いているね。問題ないよ」

ジンの言葉にキルは特に拒否をする様子もなく役所にある広場の空き状況をフィオナに確認した。すぐにフィオナは施設の空き状況を確認していくと問題がないことを伝えた。

「じゃあすぐに始められそうだな。最後に会ったのが1年以上前だったな」
「あの時よりも強くなっているから覚悟しろよ?」

広場に向かいながらジンは祭りに行く前のように楽しげでキルも以前のように表情が緩んだ様子になっており以前から2人を知るカグヤは無意識のまま笑みを浮かべていた。

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「ルールはどうする?」
「キル相手じゃハンデはやれないから…先に一撃を入れた方が勝ちでどうだ?」
「場合によってはすぐに終わるルールだな」
「ああ…俺の勝ちでな」

ルールを確認する二人は広場に着くと10メートル程の距離に立ち、キルは銃を抜いて銃弾を入れ直し始めた。一方でジンは腰に掛けていた刀を手に持ち居合の構えのままキルに視線を向けた。そんな様子を残りのメンバーは観戦することになった。

「前に会った時も気になったがその刀…普通の刀じゃやないだろ?」
「これは俺の村というよりは俺の家に伝わっていた刀だ。結構な業物って聞いているな」
「さっきの話だが一つだけ抜けているところがあった。お前の村が襲われた理由はその刀もある」

キルの言葉にジンは自分が持っている刀に視線を向けた。同時に以前やLと会った時に聞いた話を思い出していた。

———あの時もLは俺の刀を見ていた…何で…

刀を見たままのジンを前にキルは銃弾を込め終わりジンの様子を見ていた。小さくため息を漏らしてからキルは視線を刀からジンに向けた。

「俺の効く限りだとその刀は所謂妖刀って奴だ。持ち主に大きな力を与える代わりにその刀がその持ち主を操る危険な刀だった…」
「だった?どういうことだよ?」
「そういうのは俺よりも専門家の方が詳しいだろ?」

ジンの言葉に対してキルは視線を離れた位置にいるフィオナに向けた。その話の流れからフィオナはジンについて理解した様子で彼女にしては珍しく慌てた様子で手に持っていた本をすぐに開き始めた。

「そんな…まさかジンくんって…デスペラー?」
「なんですかそれ?」
「主に解呪が得意とする人たち。魔法の解除もできるらしいけどもうそんな術者はいないと思っていたよ…」

フィオナの話を聞いていき他のメンバーも視線をジンに向けたがそのジンも知らなかったようで自分が握っている刀に視線を向けていた。

「ジンというよりはその親族がそうだったんだろうな。それでその刀も妖刀でありながら暴走しないでいるのかもな」
「つまり…この刀が危険じゃなくなったから狙われたのか?」
「詳しくは分からないが恐らくな…だからこそお前の力を見ておく必要があるんだ。そんな刀と力を持ったお前のな…」

話が終わったとばかりに銃を構えたキルに対してジンは刀を握りしめてそのまま瞳を閉じた。

「この力はみんながくれたものでもあるんだよな…だったら…みんなのために…そして俺自身のために使わないとな!」

瞳を開いたジンは楽しそうな表情のまま刀を再び構え直した。先ほどよりも自然体で一件変わっていないようにも見えるその構えだったが先とは違うところをキルは見抜いていた。

「さっきのままならすぐに終わったが…今は難しそうだ」
「悪いけど本気で行くから怪我するなよ?」

刀が光始める様子に気付いた他のメンバーもすでに組み手というレベルではないことが分かり数歩その場から下がった。

「おいおい…これ…組み手なんだよな?」
「もう忘れているんじゃない?いざという時はフィオ姉が止めるわよ」
「あはは…止められるかな…」

フィオナの苦笑いを見てただ事ではないことが3人には理解できシンに至ってはその戦いを見逃さないようにと視線を向かいあうジンとキルに向けていた。