複雑・ファジー小説
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.60 )
- 日時: 2014/11/07 16:17
- 名前: 鮭 (ID: BOBXw5Wb)
第22話
「じゃあ行くぞキル!」
その言葉と共に飛び込んで来たジンは刀を鞘に納めたまま居合いに来るのかと思うと柄から手を離しそのまま鞘で逆手のまま横薙ぎをしてくる動きが見えた。相変わらず身動きが分かりにくい攻撃に咄嗟に銃で鞘を受け止めるとジンはすぐに反対の手で柄を握り刀を抜き、青く輝いた刀身が俺に向かってくる感覚を感じるとすぐに地面を蹴り距離を取った。
「あの咄嗟の抜き打ちでもしっかり峰打ちなんだな?」
「そう言いながらしっかり俺の二段構えを避けているだろ」
再び刀を鞘に納めるジンの動きを確認するとすぐに銃を構え2発の弾丸を放った。狙いは右足と左肩。同時に防ぐのが困難な位置のはずだったがジンは右足を引き、左肩を狙った銃弾を鞘に納めた刀を振り上げて弾くことで2つの銃弾を防いだ。
「銃弾を見切るくらいの動体視力はあるようだな」
「まあ半分は勘でもあるけどな。じゃあそろそろ本気で動くからな?」
ジンが地面を数回蹴る様子を確認した時動きが変わった。緩急を付けながら不規則にステップしながら近づいてくるその姿は常人には逆にスローモーションに見えていそうだ。
「おもしろい動きだ…前に見た時よりも…面倒そうだ」
言葉と共に銃を構えた俺は不規則な動きをするジンに対して銃弾を放った。その瞬間ジンの動きが変わった。不規則に動いていたのが一転して俺が見失いそうになるほどの速度で飛び込みそれと共に居合抜きの動作までの動きが見えた。
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————もらった!
銃弾を避けて完全に意表を突いたと確信したジンが次の瞬間に見たのは自分の眼前に向けられていた銃口だった。咄嗟に刀を止めてバックステップで距離を取るジンには照準がずれることなく銃口が向けられておりそのまま2発の銃弾が放たれるのが見えた。
「おわ!!あぶねえ…」
放たれた銃弾を刀で撃ち落としていきながらバランスを崩し転んだジンはすぐにキルに視線を向けると銃弾を込めながら走ってくる キルの姿が見えた。
「くっ…!」
そのままの勢いで放たれた蹴りを鞘で受け止めるも予想以上の威力にそのまま吹き飛んだ。そんな中でもシンはキルからの次の攻撃に警戒を緩めずにすぐに立ち上がった。
「あぶねえ…スナイパーの蹴りじゃねえぞ…」
「専門家には勝てないがそれなりに前衛もできるつもりだからな」
すでに銃弾を込め終わっているにも関わらず追撃をして来ないキルにジンは笑みを浮かべて鞘い納めたままの刀を引き抜き鞘も刀のように握り構えた。
「なあキル…俺はまだ強くなれると思うか?」
「そうだな…まだお前自身は俺の銃弾の効果が表れていないみたいだしな」
「じゃあ今の俺を全部ぶつけてやるよ」
地面を蹴り飛びかかってきたジンの動きをキルは見逃さないように見つめた。振り下ろされてくる鞘、その一撃を避けるか受け止めるかで軌道を変えるつもりであろう刀の動きを…。
「悪いが…ここまでだな…」
振り下ろされてきた鞘を後ろに下がって避けたキルはそのまま銃弾をジンに向けた。当然その動作が見えていたジンはこの後に撃たれるだろうと考えていた銃弾を避けようと頭で考えていた。
————ここを避ければ勝てる!
一瞬の油断だった。ジンが次の瞬間見たのは一瞬で放たれる4発の弾丸だった。2発と予測していたジンはすぐに刀で3発の銃弾を刀で斬り落とせたが1発の銃弾だけ見失ってしまった。
————外した!?
ジンがそう考えたのとほぼ同時に背中に衝撃を感じた。まったくの無警戒な位置からの衝撃にそのまま重力に任せるように前のめりに倒れた。
「実弾じゃないから平気かと思ったが…大丈夫か?」
「いてて…なんとか…平気だ…」
ゆっくりと体を起こしそのまま地面に座りこむとそれまで観戦していたメンバーも集まってきた。
「あんた…なんかめちゃくちゃ強くなっていない?追いついたつもりがまた離されたわよ…」
「まあカグヤには負けていられないからな」
「何よそれ!」
露骨におもしろくなさそうに話すカグヤに対して背中を摩りながら笑うジンの姿はよりカグヤの逆鱗を刺激したらしく、遠慮なく蹴り放つとそれをなんなく避けたジンはそのままカグヤから距離を取った。
「キル…最後の銃弾はなんですか?何か特殊な弾丸ですか?」
「そんなものじゃない。ただの兆弾だ」
呑気な二人に対してシンはキルの最後の一撃について確認していた。シンの言葉に答えたキルは役所の壁と役所の周りを囲んでいる壁を指さしていき弾丸の反射角度を説明していた。
「どうしたんだフィオナ?一人でニコニコして?」
「そう言うバードくんも笑っているよ?」
「ああ…なんかこのメンバーなら誰が来ても大丈夫な気がしてな」
「そうだね。私もそう思っていたの。やれることは全部やったからね」
いつの間にか夕暮れになっていた空を見上げてフィオナはすべてが終わった後のことを考えていた。当然無事に終わるようなものではないことは分かっていた。それでも充実したこの時間をこれからも送りたい。それが彼女の願いだった。
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————おい…いい加減起きろ。
頭の中に大きく響く…だけど不快に感じない声が聞こえた。瞳を開けば目に付いたのはなんの飾りつけもないうす暗くて部屋が目に付く。ベッドから体を起こすと次に見えるのは机といつも身につけている白銀の軽装な鎧と双剣。いつものことのようにシャワーを浴びて着替えを済ませてから装備を身に付けた頃には起きてから1時間は経過していた。
「準備は完了。行くよリオン」
————ああ…今日の会議はレミでいいのか?
頭に聞こえて来た声に対して私は特に答えることもなく扉を開いた。この部屋から出た時、私はレミからLになる。それが私とリオンが選んだ道だから…。
既定の部屋に到着して中に入ると黒いローブに身を包んだIが壁際に立っていた。この間聞いた声と背丈から女の子なのは間違えないと思うけどRやリーネちゃんみたいに可愛いとは思わない。椅子にはNが座っていてその後ろには壁に寄りかかる形でGが立っていた。NはともかくこのGは正直不気味。Jが突然連れて来た奴だから詳細もよく分からない。
「何?Jはまだ来ていないわけ?」
「そろそろ来るよ。時間にはうるさいからね」
椅子に座りながら悪態を付いているとNが答えた。最も今この部屋にいてまともな会話が出来るのはこいつくらいだけど。
「遅くなった…Jはまだ来ていないんだ…」
「あっ!R!会いたかったよ!」
笑顔で手を振るも相変わらずRは特に表情も変える訳でもなくただ頷いてドアの近くの壁に寄りかかった。Rは普段はクールだけどライバル視しているKに対しては感情を表に出すことがあるからここにいる人たちで一番好感が持てる。正直他の連中は裏で何を考えているか分からない。
「遅くなった。全員そろっているな」
「遅い…何して…って…誰それ?」
ようやく来たJにここぞと文句を言おうとしているとJに続いて入ってきた人物が目に付いた。茶髪で長髪。黒いマントで体を覆っていて年齢的にも幼そうに見えた。背丈もRより少し大きいくらいだから10代半ばくらいと推定できた。
「もしかしてまた新人?この間みたいな不作じゃないわよね?」
「おいL!」
「いいよ。彼女は…いや…君とI以外は僕を知らないからね」
落ち着いた口調の彼はゆっくりとした足取りでいつもはJが座る位置に向かっていった。すれ違い様にIも無言で小さなお辞儀をした。
「さて…ここにいる何人かは初めましてだね…僕はZ。この組織のトップだよ」
「あんたがZ!?」
他のメンバーも同様に驚いているようだったけど私がその言葉を代弁する形になってしまった。IやJの態度の違いはこれが原因だったんだと思いながらも私には信じられるものではなかった。
「みんなが信じないのは仕方ないね。でも事実だから仕方ないよね」
まったく覇気も感じなければ強さも感じない。今斬りかかれば簡単に仕留められそうな気がするくらいだった。
「やってみるかい?L…」
「えっ?」
にこやかに私に視線を向けて来た彼に私は寒気を感じた。そうしてようやく彼に対する違和感の正体に気付いた。Jのように見ただけで強い感じるわけでもなければRのようにさっきを感じるわけでもない。何も感じられないんだ…。
「えっと…あの…」
「気にしなくていいよ。みんなも同じみたいだったからね」
彼は弱い人とは違った。力の根源がまったくないんだ…。言葉さえも失いかけた私はそのまま黙って席に着くことしかできなかった。
「さあ…始めようか?今から始めるお祭りの話し合いを…」
とても任務のための会議を行うとは思えない口調でZは席に座り会議は始まったのだった。