複雑・ファジー小説
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.61 )
- 日時: 2014/11/14 22:45
- 名前: 鮭 (ID: BOBXw5Wb)
第23話
無表情のままRが見据えていたのはターゲットとなる街とその周辺の地図だった。会議が終わってもRは部屋を出るわけでもなく机の上に広げられた地図を見たままシミュレーションを続けていた。その相手は当然Kだった。
「まだ続けるのかい?」
部屋を改めて訪れたNは未だに部屋に残るRに気付き話しかけるがそれに答えるわけでもなくRはジッと地図を見続けていた。
「聞こえていないか」
「シカタナイ…KハR二ハトクベツ…」
いつの間にか後ろにいたG に視線を向けたNは小さくため息をした。Gは戦闘力が高いが言語能力が乏しいことからRの下に着くことになったがNには何を考えているか分からなかった。そもそもGの戦闘を見たことがなかったNにとっては不気味以外の何者でもない存在だった。
「そういう意味じゃない…」
突然言葉を発したRに視線を向けた二人を気にすることもなくRは地図を円筒にしてそれを持った。
「Kは…ライバルだった…だから…負けたくないだけ…」
部屋をゆっくりと出ていくRとすれ違った時、Nは見逃さなかった。いつも無表情なRが浮かべていた小さな笑みを…。
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殺風景な部屋の中にある窓から漏れた月明かりに照らされている中、大剣の磨く青年の姿があった。
————ねえリオン?明日の話どう思う?
「役所とやらを狙うという話か?どこでも俺は問題ない…」
————そうじゃないの!もっと派手にドンパチしたかったの!
頭の中に直接聞こえてくる声に耳を塞げないレミの声にため息を漏らすリオンは磨き終わった大剣を鞘に納めてから光と共にレミと体を入れ替えた。
「あっ!ちょっと!無視しないでよ!」
———ちゃんと聞いている…。前みたいに油断して失敗はやめろよ
「盗賊団のこと?そんなのここに来る前の話じゃない!それにあの子の剣技は私と互角だったし!油断しなければ勝っていたよ!」
昔あった話を出されたレミは頬を膨らませてその時のことを思い出していた。レミが純粋な剣術で負けたのはその一度だけだった。
「でも楽しかった…またああやって全力を出しつくした戦いがしたいよ…」
————つくづくお前は戦闘狂だな…。
「その呼ばれ方は黒歴史だからやめてよ。リオンなんかあまりに静かで沈黙って言われていたじゃない!」
————懐かしいなもう一人の知識(ジー二アス)は何をしているんだろうな…
「だから!無視しないでよ!」
窓から漏れてくる笑い声は一晩中続いた。それはとても純粋でこの場所にはとても不似合いなものだった。
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姿を消したIを探すためにいつも彼女が縄張りにしている森にやってきたJは木の上に座っているIの姿を見つけた。
「珍しいな…お前がこんなにあからさまに姿を晒すなんてな」
「別に…全力で戦いたいだけ…」
普段はローブに身を包んだままのIが以前の任務の際同様にオレンジの衣服と短パンにブーツ、そして鮮やかな銀髪を晒している姿で弓の調整をしていた。
「お前がいいなら構わないが何かあったのか?」
「別に…」
「もしかして俺が行く直前まで一緒にいた奴のせいか?」
Jの言葉にIの手が止まった。それを見逃さなかったJは密かい笑みを浮かべていた。
「お前を惑わす存在ならこの件が終わったら消して…」
Jが言いかけたところでJの頬をかすめる形で矢が飛んでいった。当然その矢を放ったのはIだった。
「それ以上言うと…殺す…」
その赤い瞳はJを見下ろす形で睨みつけられており言葉を間違えれば即座に2射目が飛んできそうだった。そんな中でもJはただ笑っているだけで悪びれる様子も見られなかった。
「冗談だ。本気でやるからには明日は期待しているぞ」
「言われるまでもない…」
再び枝の上に座りこんだIを他所にJはその場から立ち去った。Jの気配が周囲から完全に消え去るとIは星が散りばめられた夜空を見上げた。
————この戦いが最後…そして…
誰もいなくなりマナとなったIは一人静かに今後のことを決意していた。
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「バードさん。リンクさんが今日は終わりにするように言っていましたよ」
「シンか…。」
町の近くの森の中で修行として大剣で素振りをしていたバードはシンからの呼び出しで腕を止めた。すっかり日が落ちて月明かりだけが辺りを照らす中でバードは帰るための用意をしていた。
「そういえばシン…お前は今回の戦いが終わった後はこの街に残るのか?」
「そのつもりですよ。バードさんは街を出るんですか?」
「ああ。この街は嫌いじゃないが…こう言ったら変かもしれないが世界を見てみたいんだ」
バードの言葉の後に辺りが静かになり視線をシンに向けるとまるで変なものでも見ているような表情を浮かべている姿が映った。
「おい!何だよ!」
「いろいろ言いたいですが…本気で言っているならいろいろ引きます」
「何だよそれ!…まあ今回のこともあるが俺の知らないことがたくさんあるって分かったからな」
「…それは僕もです…まだまだこの世界には分からないことがたくさんあるんだと思い知りましたね」
これまでこの街で暮らしてきた二人にとって今回の戦いや話はとても信じられないものだった。それでも関わってしまったからには知らないでは済まされなかった。
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「バードさん。その旅僕も行きますよ」
「は?いきなりどうしたんだよ?」
「バードさん一人では心配ですからね。それとも僕がいると邪魔ですか?」
まったく予測知っていなかったシンからの申し出はバードにとっては嬉しいものだった。戦力としても旅の相棒としてもバードにとっては彼女は最適な存在だった。
「邪魔な訳ないだろ…なら契約の破棄をされないように指切りでもするか?」
「子供じゃないんですから…」
すっかり暗くなりシンの表情がバードにはよく分からなかったが小指を立てて差し出した右手に答えるように差し出されたシンの左手で指切りを交した。今後の旅、そしてお互い生きて戦いを終えようという約束を…。
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役所の広場でフィオナとリンクの監視の元でカグヤとジンは何度も組み手を繰り返していた。以前は完全にジンが勝利していたものの今ではほぼ互角になっている様子にフィオナは上機嫌気味だった。
「二人ともすごいですね…」
「うん。二人ともリンクくんと互角かそれ以上かもね?」
「あのジンという少年にはとても敵いませんよ」
「でも彼女はそれが納得できないみたいだよ」
昼間から何度も組み手を繰り返す二人を最初から見続けていたフィオナはにこやかにリンクに話す中、カグヤの放った横薙ぎの蹴りをジンが鞘で受け止めその衝撃でがくりと片膝を付いた。
「うお!?」
「隙あり!」
態勢を崩したジンに対して即座に拳を振り下ろそうとした時カグヤの視界が反転した。次の瞬間には地面に倒れている自分、そして目に入ったのは青く光る刀を構えているジンの姿だった。
「これで俺の何連勝目だ?」
「今のでちょうど20連勝だよ」
フィオナからの戦歴を聞きながら刀を納めるジンに対してむくれた様子のまま体を起こすとため息をしながらいつの間にか暗くなっている空を見るとこれ以上は無理だと判断して立ちあがった。
「今日は負けたけど明日こそは勝つから覚悟してなさいよ」
「えー。明日もやるのかよ…。少しは俺にも遊ばせろよ」
「うるさいわね!勝ち逃げなんかしたら許さないんだから!」
捨て台詞と共に走っていくカグヤにただ茫然と見送っていくジンを見たフィオナはカグヤが見えなくなったのを確認してから笑い始めた。
「うお!いきなりどうしたんだ!フィオナ?…さん…?」
「フィオナでいいよ。ただカグヤちゃんはまだまだ強くなれそうだと思ってね」
ニコニコしたままのフィオナにジンはたじろぎながらも明日もカグヤの相手をするのかとため息をしていた。この時ジンは何となく明日にはカグヤに追い抜かれてしまうのではないかと考えてしまっていた。
