複雑・ファジー小説

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.62 )
日時: 2014/11/22 00:07
名前: 鮭 (ID: BOBXw5Wb)

第24話

パチパチと音を立てる焚き火を見つめたまま私は茫然としていた。この時期は寒いわけじゃないのに何故か寒気が収まらない私は後ろにキルを寝かせてその蒼い毛並みと体温の温もりで暖を確保していた。

「ねえキル?寝ちゃった?」

後ろを振り向くとキルはすでに私の声が聞こえていないようで完全に熟睡している状態だった。そんな様子に笑いかけて頭を撫でてあげた。

「駄目だよ。もう一人の方のキルはそんな呑気に熟睡なんてしないよ?…多分…」

最初は後先も考えないで付けてしまったこの子の名前。でも今はこの名前にして本当によかったと思う。この名前を呼ぶことで私はキル…そしてみんなを思い出せた。そのおかげで折れそうになった私の心を保つことが出来た。

「一度報告したら…お別れかな…」

私の頭の中ではこのまま街に戻った後のことを考えていた。もしかしたら私はまだまだ未練が残っているのかもしれない。帰らないといけないと思う一方で帰りたくないと考えてしまっている。

「ねえキル…私…後…どのくらい…生きていられるのかな…」

夜空を見上げる私は雲一つない星が輝くに向けて何も考えることもなく呟いた。
今感じている不安を口にすることで少しでもそれを解消したかったから…。

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ティタニア家の屋根の上でキルは一人横になり、その横には一匹の黒猫も横になっていた。クロはキルの周辺が気に入っているのかサクヤから離れると次にやってくるのはキルの元だった。

「お前も飽きない奴だな…おれのそばにいて何がいいんだ?」

問いかけても答えるわけもないクロに問いかけたキルは自分のしている無駄な行動に笑みを浮かべて夜空を見上げていた。その時にキルの頭のすぐ上にある屋根裏部屋の窓が開いた。

「二人ともいないと思ったらここにいたのね?」
「サクヤか?出かけていたのかと思ったぞ?」
「カグヤちゃんがさっき帰ってきたからお話していたの。疲れていたみたいだからすぐに寝ちゃったけど」

窓から顔を出して話すサクヤに気付いたのかクロはすぐに起き上がりサクヤの元に飛びついて行った。それに合わせるようにキルもゆっくりと上半身を起こしてから視線を街に下ろしていった。

「キルは…もう帰るの?」
「そうだな…。明日も早いからな」

ゆっくりと立ち上がったキルは思い出したように視線をサクヤに向けた。その表情は最近見せていた厳しいものではなく以前のように柔らかいものだった。

「そう言えば…俺がここを離れた時のことだが…」
「えっ?」

キルの言葉でサクヤはキルがいなくなった時に自分が伝えた言葉を思い出してしまい顔を真っ赤にしてしまいクロを強く抱きしめ俯いた。

「まだ有効なら…この戦いが終わったら答える…」
「う…うん…」

真っ赤になったまま視線を上げていくとキルはサクヤにすでに背を向けており、それを確認した次の瞬間にキルは大きく跳躍して街へと消えていった。見えなくなってからもサクヤはクロを抱いて夜の街を見続けた。

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いつもと変わらない昼時の時間。週に一度行われていた食事会ということで普段のメンバーはティタニア家に集合していた。最もフィオナ、リンクについては役所でやることがあるからと揃ったのはシン、バード、キル、ジンの4人だった。そのことからテーブルの上に用意された皿は6枚だけだった。

「そう言えば最近あいつ見ないよな…」
「もしかしてフランさんですか?」
「ああ…あいつなら今頃山に籠っているわよ?」

バードとシンの疑問に答えたのはカグヤだった。
フランはちょうどそれぞれが修行を始めた辺りから姿を消しており特に目立った事件が起きていなかったことから保安官がいなくてもそれほど気になることがなかった。

「それに細かい作業はフィオナさんがしてくれていたみたいだよ?たまにうちに来て作業をしていたし」

追加して説明したサクヤの言葉を聞きながらも特に気にすることもなくキルはクロに用意されていたお皿にミルクを注いであげ残りのミルクは自分で飲んでいた。

「それでもここまで顔を出さないと多少は心配かもな」



ティタニア家で食事会が進んでいた頃役所の屋上ではフィオナが一人、魔導書を開いて街の外に視線を向けていた。そんな中で屋上への扉が開くと姿を現したのはリンクだった。

「あっ…どうしたのリンクくん?」
「いえ…この時間になるといつも姿が見えないので何をしているのかと思いまして…」
「奇襲がないように街の周りに結界を貼っているんだよ?」
「結界ですか?」

用語自体はよく聞くものだったが実際詳細な情報を持っていないリンクは疑問を感じたまま街の外に向かって視線を向けた。しかし特にそう言ったものは目視出来ず何が行われているかリンクには理解できなかった。

「結界は大げさかな…この街に近づいてきた存在を私に知らせてくれるって程度。それなら街の人くらいは避難させられるでしょ?」
「奇襲の対策ですか」
「そう。最も私の知っている人がいるならあまり効果がないかもしれないけどね」

フィオナの表情は現状分かっている不安要素に普段と違いあまり余裕のようなものがないようだった。

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「あら?結界があるわね」

街からそれほど離れていない場所にLはいた。目の前に広がっているのはただの草原。そして少し先には森林が広がっていた。Lの後ろにはさらに何人かの人物が控えていた。

「ここ?何もない…」
「ああ…ダメダメ。ここを超えちゃうと術者にばれちゃうよ?」

Lの言葉を無視して進もうとするRに制止を促すと結界に向かって歩を進めたLは結界ギリギリの位置で立ち止まった。

「どうなんだい?面倒な結界なのかい?」
「ある意味ね?魔法の素養がない人なら気付かないだろうから奇襲のつもりが逆に待ち伏せされているね」
「待ち伏せ?」
「そう!これは警告を知らせる結界。ここを超えると不法侵入が術者に知らされるの」

術について全く感じることがないNとRはLの話を聞いていき、そんな様子をIは黙ったまま見ていた。普段と違いIは黒いローブを身に着けておらずこう言った場所でなかった場合はLが黙っていそうになかった。

「そうなると奇襲が出来るのはIとLくらいだな」
「ちょっとJは行かないわけ?」
「一応今回は参謀を任せられているからな」

Jの横ではGがIと同様に無言で立っているだけで、そのままJは作戦の配分を決めていってしまった。そのことをあまりよく思っていないLはあまり話を聞かずに結界に視線を向けていた。

「ねえ?こんなことできる人に一人心当たりない?」
————そうだな…。あいつならこれくらい簡単にやりそうだ

Lの中に存在するもうひとりの存在もその正体を予測しており知っている人物だからこそ警戒をしているようだった。

「リーネちゃんがいないからつまらないと思ったけど…楽しめそうだね?」

作戦の説明が終わった様子を確認したLは小さなため息で一息つき結界のギリギリの位置で走るためにと準備運動を始めた。

「俺達が到着するまでにある程度は潰しておけよ」
「はいはい…やれる限りはやっておくわよ」

Lの言葉と共にIはその場から姿を消し、残ったのは強い力で地面を蹴ったことでできた痕跡だけだった。

「あら?早すぎね…じゃあ私も先に行かせてもらうわね」

すでに森の中に消えていった様子のIに呆れたまま話していくと続くようにLもその場から結界を突き抜けて街へと向かっていった。それに続くように残ったメンバーも街に向かい足を踏み出していった。