複雑・ファジー小説

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.63 )
日時: 2014/12/03 17:29
名前: 鮭 (ID: n9Gv7s5I)

第25話

頭の中に警告を示すように軽い痛みがフィオナを襲った。フィオナの掛けていた結界は侵入者を感知すると警告として軽い頭痛を与えるものになっている。そして結界内にいる侵入者の魔力を察知できるようになり侵入者の居場所とおおよその実力も知ることが出来る。

「来たみたい…。じゃあリンクくんはすぐにみんなを避難させてね。ここは私が守るから」
「分かりました。ではお互い無事で」
「うん。じゃあ片付いたらみんなで祝賀会だよ」

最後のフィオナの言葉にリンクは軽く手を上げって簡単な返事をしてから住宅街に向かい走っていった。その様子を確認し終えると言所の敵の位置を確認した。今確認できた敵の数は6つ。そのいずれもフィオナ自身が想定していたものよりも小さかった。そのことがフィオナにとっては違和感があった。
6つの魔力は確かに小さかったがどれもがあまりに小さすぎた。

「先制されたのはこっちだったのかな…」

役所の門の前でフィオナは小さく呟きすでに無人になっている役所の前で必ず自分の前に現れると確信している人物を待っていた。

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「来たか…」

食事を終えそれぞれ談笑している中でキルは立ち上がった。特に魔力を感じたりしたわけではなかった。長く組織にいたことで感じる同族の気配に敏感だったキルにしかない感覚だった。

「いよいよ…ですね…」
「そうだな。じゃあ俺とシンは役所の守りだったな」

元々この時が来た時の各々の配置や役目は決めていたことから早々と役所の守りの予定だったバードとシンはすぐに家を出ていった。フィオナの話だと自分の元にほぼ間違いなく来るからと配置を多くしていた。

「じゃあ俺とキルは外の奴らを撃退だったな」
「それで私は住人の避難補助と護衛をリンクさんとだったわね。お姉ちゃんもクロを連れてすぐに避難してね」

待たせている相手がリンクということもあり、カグヤは必要なことを早々と伝えていくとすぐに家を出ていった。
そんな様子を見たサクヤはクスクスと笑い、ちょうどミルクを飲み終えた様子のクロを抱き上げて避難の準備を始めた。その横ではジンが刀を手に取り出発の準備を済ませていた。

「よし…俺はいつでもいいぞキル」
「分かった。じゃあ行くか」

ジンの言葉を聞くなりいつもと変わらず特に何か準備をするわけでもなく出発しようとしていた。正確には常に準備が出来ている状態だともいえる。

「あっ…キル…」
「何だ?」
「あの…無事に帰って来てね?」
「帰ってくるから安心して待っていろよ」

サクヤからの言葉も特に特別な返事をすることもなく先に家を出たジンに続いてキルも普段の任務に出かける時と変わらず家を出ていった。

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街から少し離れた森の中にある木の上でマナは予定の時間を待っていた。Iとしての彼女の任務は街への第一撃目の攻撃だった。それに合わせて他のメンバーが攻撃を開始する。つまり彼女の攻撃が戦闘の開始を意味していた。

「そろそろ…みたい…」

枝の上に座っていたマナはそのまま地面に着地してから愛用している弓を右手で取った。それと共に反対の手を横に振ると紅色の光が出現しそれは矢の形を形成し始めた。

「時間…」

用意を終えるとともにマナはその矢を手に取り上空に向けて射るとそれは街に向かって飛んでいき、そのまま一本の矢は分裂を始めていき雨のように光の矢は降り注いでいった。



「合図だね」

位置としては街の入口にいる門番が目視できるところだった。はるか上空をいくつもの細い光が飛んでいくことを確認してからLはその場に片膝をついて片手を地面に付けた。

—————あまり呼び過ぎてへばるなよ?
「だから今回は50で許してあげる…」

笑みが浮かんだまま中にいるもう一人に話しかけるLは小さく詠唱を始めていき足元に魔法陣が浮かび上がり大量の召喚術を発動させた。最も召喚した者たちがLの目視できる範囲に召喚されることはなかった。

「後はJが勝手にやってくれるわね…」
————なら行くぞ…。キルと交戦になるとお前のお気に入りに怒られるぞ
「分かっているわよ。だからさっさと街に入るわよ」

召喚術が終わった頃には城壁の中からは煙が上がっておりその様子を見てからLはその場を離れていった。

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「なんだあれ?」

役所に向かって走っている途中でバードは空に見えるキラキラと光るものに気付いた。その正体に真っ先に気付いたシンは腰に納めた銃を上空に向け発砲した。銃弾は光りに当たったもののいくつあるか分からない光のうちの一つを相殺しただけで6発しか装填できない銃では撃ち落としきれなかった。

「落としきれませんね…」
「ひとまず…回避だな!」

迫ってきた光が姿を見せると確認できたのは赤い光の矢で二人は回避をベースにして矢をやり過ごしていった。
着弾した矢の中には地面に突き刺さるものと小さな爆発を起こすものが混ざっていた。

「危なかったな…」
「ええ…でも街の被害が少なくて…」

周りの家にも多少の攻撃が命中しながらも予想よりも被害が少なかったことで安心していると地面に突き刺さっていた矢は跡形もなくなり代わりにその下に魔法陣が浮かび上がっていった。

「おいおい…この魔法陣って…」
「召喚魔法ですね…しかも…」

魔法陣を確認からシンはすぐに辺りを見回しあちこちに魔法陣が浮かび上がっていることを確認した。その数は確認できる範囲だけでも10はあった。そのことを確認し終えると白銀の甲冑に身を包んだ兵士たちが現れ目は赤い光を放ち、手にはそれぞれ長剣と盾を持っていた

「どうやらすぐに役所にはいけませんね…」
「まあ何とかなるだろ?こいつらくらいは俺達が片付けるぞ」

10はいる甲冑の兵士達に囲まれた状態のままシンはもう一つの銃を手にとり、バードは大剣と帯剣を構えて兵士達に応戦を始めた。

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あの時もこんな青空だった…

雲一つない青空を見つめていた私は昔を思い出していた。

————私達の力はこの世界のために使う

今考えると子供のような…でも凄く単純な誓い。
その誓いの元で私は2人と別れてこの街でその力の限りを尽くして来た。
恐らくこっちに向かってきている2人は私と別れてからどんな旅をして何を見て来たんだろう…。

青空を見ていた私は視線を下げた時、現実に戻された。
最初の攻撃により燃やされた家、その中で避難が遅れてしまっていた人だったもの…。そして召喚によって呼び出された中身の入っていない鎧たちの残骸。
結界内であるこの街の中ということもあり、それぞれどういった状況なのかは把握できた。

キルは街の外で一人と交戦。ジンくんも同様だけど2人の距離は大分開いている。
リンクくんは召喚獣と戦いながら移動してすぐ近くでカグヤちゃんが一人と交戦中。
シンちゃんとバードくんは召喚獣と交戦中。
一人は森の中で…動かないから多分待機中。
そして…

「久しぶりだねレミ」
「本当だね?あの時とはお互いにいろいろ変わったけどね?」

レミは昔と変わらない屈託のない笑顔で話していた。再会がこういった形でなかったらとどうしても考えてしまう。

「おとぎ話の中でのお話だと思っていたけど…実現したんだね…魂の共有…」
「フュージ二アン…それが今の私とリオンの状態だよ。ねえフィオナ?降伏しない?」
「無理だよ。この街を見捨てるなんて私にはできないからね」
「そう…残念だね…」

その一言と共にレミの足元に魔法陣が現れた。そしてそれが召喚の魔法陣であることをすぐに理解できた。そして次に現れた巨大な魔法陣と共に現れたのは5mはあるドラゴン。ただし普通のものとは違っていた。ドラゴンは白銀の軽装な鎧を身につけ片手には巨大なランスを握っていた。

「ドラゴンソルジャーの王…確かディキだったかな」
「そう…ただフィオナの相手じゃないよ?後ろから向かってきている邪魔な人たちの相手だよ」

召喚を終えたレミの体が光るとそれと共に姿を現したのはリオンだった。あらためて挨拶をしようと考えているとリオンは無言で大剣を抜いた。

「久しぶりなんて…2回目はいらないよね?」
「ああ…昔馴染みでも悪いが…容赦はしない」
「そういえば勉学が互角でも模擬戦ではリオンに勝ったことなかったね…じゃあ今日はリベンジさせてもらうからね?」

魔導書を開いた私は大剣を構えたリオンに対して身構える形になった。そんな中で先にレミが呼んだドラゴンが歩いて行く様子を私は見ていることしかできなかった。