複雑・ファジー小説

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.64 )
日時: 2014/12/10 22:38
名前: 鮭 (ID: n9Gv7s5I)

第26話

もうすぐ街の出口に到着しようとした時空にいくつもの光が見えた。前方を走るジンもそれに気付いたのか一度足を止めて空を確認した。

「なんだあれ?」
「あれは…まずい!ジン!避けろ」

ジンに言葉を伝えた時、赤い光を纏った矢が雨のように降り注ぎ始めた。何本かは地面に突き刺さりさらに何本かは地面に突き刺さると共に爆発し何とかすべての攻撃を回避しきると第2射が放たれる前にとすぐに街の出口に向かった。

「おい!キル!待ってくれよ!」

後ろから聞こえてくるジンの声がさほど離れていないことからしっかりとついて来ていることが認識できた。街の出口を通りかかるところでいつもいるはずの門番の姿がなく、代わりにいつもそいつらが付けている鎧や武器だけが地面に転がっていた。

俺が一瞬視線が前方から視線が逸れた時だった。横から強い衝撃を感じた。日ごろの経験が影響してか無意識に体は反応しており衝撃は銃身を使って防いでいた。そしてその襲撃の元凶を確認して目に入ったのはRだった。Rは鎌の先端で俺の体を押していきダメージこそなくてもその力で俺の体は森の中へと吹き飛ばされていった。

「ぐっ…油断…したな…」

森の大木に叩きつけられる形で何とか止まることが出来た俺はゆっくりと体を起こしながら辺りを警戒したが以外にもRは大鎌を肩に乗せたままゆっくりと歩いてきた。いや…Rだからこそ正面から堂々と姿を見せて来たのだろう。

「お前が不意打ちなんて…どんな心境変化だ?」
「簡単…あなたが他のことに気を取られないようにするため…」
「変わってないな…。昔から何も…」
「あなたは変わった…どんどん弱くなっている…」
「それでも負けているつもりはないぞ」

銃に新しく銃弾を装填し直し、そんな中でRは身の丈を超える大鎌を片手で持ち構えた。

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「キル!」

前方を走っていたキルが黒い影に捕まって森の中に消えていったことを確認したジンはすぐに追いかけようとしたがすぐにその行く手を阻む存在が現れた。

「残念だけど…ここから先は行かせないよ」
「…お前が俺の相手かよ?確か…Nだったよな」

ジンの前で刀を抜いたNは刀を片手に握ったまま構えた。ジンも同様に刀を鞘に納めたまま居合の構えのまま身構えた。

「君が生きているのは僕にとっては都合がよくないからね。君の命、そしてその刀はいただくよ」
「悪いが…前の俺のままだと思っていると痛い目にあうぞ?」

ゆっくりとした動作で体を前屈みにして次の瞬間に強く地面を蹴ったジンはNに向かって飛び込み、それと共に居合抜きを放った。閃光のようにNの体を両断しようとした刀は金属音と共に行く手を阻まれた。Nは片手に持った刀でジンの居合を受け止めガチガチと金属音がジンの耳に届いた。そのまますぐにジンは反対の手に握ったままの鞘をNに向けて横薙ぎに振るった。その瞬間ジンの攻撃は空を切りNの姿が消えていた。ジンはそのままの勢いで刀を鞘に納め反転した。

「凄い早さだな…それがあんたの力かよ?」

いつの間にか背後に立っていたNに反転しながら話していくと再び刀を構え直した。一度地面を見ると地面を蹴ったような跡が残っていた。

「元々僕は脚力が組織の中で一番でね。早さに関しては負けないつもりだよ」
「元々ってことは…今は違うんだろ?」

ジンの言葉にNの表情が一瞬歪んだことをジンは確認できた。そのことを確認しジンは刀を再び構え直しNと対峙した。

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「リンクさん!そっちに行った!」
「任せてください」

カグヤの掛け声と共に避難民に向かっていく鎧の兵士にリンクはレイピアによる高速の連続突きを放ち撃退した。倒れた兵士の中身は空っぽになっていた。リビングアーマーと呼ばれているこの魔物は術者が倒れない限り何度もよみがえる魔物でランクはCに分類されているものの限りなくBに近く、兵士たちもその撃退に手こずっている状態だった。
人数の関係上避難を何度かに分けて行うことを決めたリンクとカグヤは最初のひなんがなかなか進めずにいることに焦りを感じ始めていた。

後方を守っていた兵士の悲鳴が聞こえたのはまさにそんな時だった。突然のことでカグヤとリンクは兵士達に任せて後方に戻った。

「ちょっと…これ…」

カグヤの目に飛び込んできたのは目をそむけたくなるような光景だった。後方を守っていた兵士のうち二人は腹部を貫かれており一人は鎧で隠れていたがおびただしい量の血が流れ出ていた。そして最後の一人は目の前にいる黒マントの大柄な人物の腕に腹部を貫かれた状態で絶命していた。

「む…惨いですね…」
「あんた誰よ!」

二人の存在に気付いた様子の黒マントの人物は兵士をそのまま地面に投げ捨てて血を振るい落とした。手の色は褐色で背丈は2m近くありそうな人物に二人は身構えた。

「ワタシハ…G…ココノ…ニンゲンヲ…コロス…」
「G?ということは貴方も例の組織の人間ですね…」

聞き取りにくい声から何とか名前の情報を聞き出したリンクが話している途中でGはリンクに向けて飛び込んだ。それと共にGの右腕がリンクの体を捉えようとした時、その腕の横から急な衝撃が起きGは咄嗟に距離を取った。

「オマエ…ターゲット…」
「リンクさん…ここは私が抑えるから避難を進めて」

Gが次に視線を向けたのはカグヤだった。軽くつま先を地面にコンコンと蹴ったカグヤはGに向き直し身構えたままリンクに話した。当然リンクはそれを制止させようとしたがGの視線はカグヤに集中していることに気付くとレイピアを納めた。

「分かりました。無理はしないでください」

カグヤに一言を残すと第2の避難民のためにとその場を走っていった。そんな様子を見たカグヤは視線をGに向けたままサブマシンガンを片手に持った。

「G…だったわね…カグヤよ」
「カグヤ…」

Gがゆっくりと名前を復唱すると黒いマントを取り払った。白い短髪でボサボサとした髪、肌は褐色で目は赤く光り赤のシャツとズボンと簡単な服装に腕に黒いグローブを装備していたGの姿は鬼という言葉があっていた。
不意にGの左手が薄く光っていることが確認できた。

————魔力!?

事前に魔力の動きが見えるようになったのはフィオナの修行の成果でありカグヤはすぐに身構えられた。それでも構うことなくGは左手を勢いよく振り上げ、それにより発生した衝撃波がカグヤに向かっていった。

「こんな程度で私はやられないから!」

カグヤの両手が光るとそのまま手を前にかざして衝撃波を受け止めて無効化にした。

「オモシロイ…スコシハ…タノシメソウダ」
「魔力で身体強化ってわけね…戦い方が同じなんて気に入らない…」

両手をひらひらとさせて小さく呟きすぐにカグヤは構え直した。Gの動きを少しでも見失ったら自分の命がないと理解できたからだった。

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辺りは戦闘による衝撃や流れた攻撃によりボロボロに崩壊している中でフィオナとLは対峙していた。大剣を握ったLは全く呼吸を乱している様子もなく尚も目の前のフィオナを見据えていた。

「強くなったね…衰えるどころか…強くなっているよ」
「お前は弱くなった。全力の出し方…忘れたか?」
「そうかもね…リオンと違って私は戦いに明け暮れていたわけじゃないからね…」

リオンの言葉にフィオナは皮肉めいたような口調で呟き手に持っていた魔導書を閉じた。そのまま大きく息を吸うとフィオナはリオンに視線を向け、そして笑みを浮かべた。

「学生のころは3人一緒だった。そして誓い合ったよね…私達の力を世界のために…」
「俺達の力をみんなのために…それが俺達の夢だったな…」
「そしていつかの再会を誓い私は二人と別れた…何があったの?」

フィオナの言葉にリオンは黙ったまま大剣の剣先を地面に付けた。視線はフィオナに向けたままだったがその眼は先ほどまでと違い穏やかなものだった。フィオナは簡単に詠唱をしていくと足元に小さな魔法陣を生み出した。

「あなたも話していいよレミ?今なら聞こえるからね」
————相変わらず変な術ばかり覚えて来るよね?

フィオナの視線にはリオンの背後で前屈み気味になっているレミの姿が半透明で見えていた。恐らくリオンもレミのことはこうして見えているのだと考えていた。

「そうでもないよ?この術は肉眼で見えないものを見たり聞いたりするものなの…」
「だからだな…奇襲にも的確に応対していた」
「話が脱線してごめんね?聞かせて?二人にあったこと…」

リオンは一度瞳を閉じた。それと共にレミが表に出てきてリオンが半透明な姿になった。それと共にフィオナには今まで見たことがないレミの沈んだ表情が映った。