複雑・ファジー小説
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.65 )
- 日時: 2014/12/17 23:49
- 名前: 鮭 (ID: n9Gv7s5I)
第27話
蒼い空が俺の目に映っていた。背中に感じる芝生は暖かく、肌に感じるほのかな風、昼寝にはちょうどいい場所であり環境だった。
「リオ—ン!またお昼寝?」
せっかくの昼寝を嵐が邪魔し始めた。仕方なく俺は体を起こすと嵐の元凶であるレミの姿が目に入った。赤を主にした制服に身を包み膝丈までの長さのスカート、そして成績上位組が付ける緑のスカーフが一応この学校の生徒であり成績が優秀であることを判断させてくれる。
「どうしたんだ?一緒にいるとからかわれるとか言っていなかったか?」
この学校は約7割が女で人によっては羨ましがる奴もいるようだが正直居心地はよくない。まともに話せる奴も幼馴染であるこいつくらいで他の奴とは正直話しにくい。
「今日はリオンを紹介してほしいという人を連れて来たの」
「俺を?誰だよ?」
「私だよ」
レミの返事の代わりに聞こえて来たのはどこか気の抜けた声色だった。声の主は同じ学生のはずのレミと並んでいるのにも拘らず大人と子供と考えてしまうほど雰囲気が違っていた。当然この場合の子供はレミの方だ。
「俺に何か用か?」
「男子唯一の成績上位者の君の実力を確かめたくて来たの」
手に握られていた魔導書を見て頭の中にあった噂を思い出した。魔導書だけを武器に様々な強豪と模擬試合をして連勝を続けている奴がいる。
「次の授業が始まるまでなら付き合う…。その前に…名前は?」
「フィオナ」
これが俺達の出会いだった。
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「あの頃は楽しかったね」
————そうだな…
「結局あの日はリオンの全勝でフィオナは悔しそうだったよね」
沈んでいた表情を浮かべていたレミには笑顔が戻りフィオナも目の前にいる相手を敵としてではなく旧友として話をしていた。
「歴代最年少、歴代初の男の卒業生、歴代1の頭脳。そして歴代最優秀。私達だけで大分伝説を残しちゃったよね」
「後輩にも面白い娘はいたよ。だからそんな伝説すぐに塗り替えられるよ。レミだってそのうち最年少は抜かれるかもよ?」
冗談混じりに話す二人とそんな様子を見るリオンはこんな場所でなかったら穏やかな風景だったかもしれなかった。不意にレミは表情を暗くしてため息を漏らした。
「でも楽しかったのはここまで…」
「私と別れる時に村に一度帰るって言っていたよね?何があったの?」
「そうだね…全部話しておくよ。気になってそれを負けた言い訳にしてほしくないからね」
冗談を交えて笑おうとしていることがフィオナには理解していた。だからこそフィオナはそのまま二人に対して視線を向けていた。
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魔法学校の卒業式は正直退屈なものだった。僅かな卒業者への卒業証書の授与、退屈な長い話、まあこれは私達をお祝いしてくれているわけだから感謝はしても面倒がるのはよくないと二人に怒られてしまうかな。
そんなことを頭の中で考えていると卒業生のトップは召喚獣をもらえるけど今回は私とリオンにフィオナが満点トップだった。何だかんだで負けず嫌いな私達の勝負は結局では測りきれないようだった。
「レミ?どうしたのこんなところで?」
「うん…私の召喚獣はすぐに終わったからね。フィオナもその子とずっといたから簡単だったみたいだね」
「まあ私の場合はそれと属性もあるからな。二人の召喚獣は光と闇だから習得が大変だよ」
「リオンは闇だからさらに大変かもね」
魔法学校で学んだ限りだと召喚獣は数を数えればそれこそ人間以上の数がいるけどそれぞれ属性がある。人間で言う人種のようなものらしい。ただその中でも潜在能力が高い光と闇の召喚獣はその契約が困難ということだった。
「もう二人は終わったみたいだな」
「あっリオン。今日は最後だったみたいね。レミよりも後に来るなんて余程大変だったのかな?」
「まあ…少し慣れないと呼び出すのは無理だな」
フィオナの言葉にリオンは特に反論をせずに表情には普段見せないような疲労の色が見え、それを察した様子のフィオナもからかうのをやめた。
「この学校ともいよいよお別れだね…二人はこの後どうするの?」
卒業後のことをしっかり考えていなかった私は村に帰ることだけを考えていて他のことは特に考えていなかった。だから二人の意見を参考にしようという思惑があったけどフィオナにはそのことが見抜かれているようだった。
「うーん…とりあえず私は世界を回るつもりだよ?ここでは身に付かないような魔法があるかもしれないしそれを知りたいんだ」
「知識の探求かフィオナらしいな」
リオンの言葉は私も同じ意見だった。フィオナは本当に勉学を欠かさないし手を抜かない。そんな彼女だからこそこの学校の知識だけでは満足できなかったのかな。
「私に聞いておいて二人はどうするつもりなのかな?」
「俺は一度村に帰る。それから騎士になるつもりだ」
「騎士?リオン…本気なの?」
リオンからの言葉には私はもちろんフィオナの顔にも驚きの表情が浮かんでいた。
騎士はすべての兵士たちの中のエリート中のエリートだけがなることが出来るものであり、本来は名家の実力者達をさらに厳選して与えられる剣士が目指す最後の称号でもあった。
「実はある国から卒業後に国に来てくれないかと言われていたんだ。その際は騎士として迎えたいと言っていた」
「私が聞く限りだと…いくらここの卒業者でも騎士になれたのは初めてじゃないかな?」
「ああ…それは校長も言っていた。正直俺なんかが騎士でいいのかと悩んだけどな…。だが俺を必要としてくれているならやろうと思う」
ずっと一緒にいた筈なのにリオンがそんなことを考えていたのは知らなかった。二人の話に私は黙って聞いているしかできなかった。何も考えていなかったのは私だけだったんだと思うと情けなくなってきた。
「それでレミはどうするの?」
「えっ?わ…私は…」
フィオナの問いかけに私は答えることが出来なかった。何も考えていなかったなんて正直言いたくなかった。そんな私を見た二人は何かを察したようで、フィオナは笑みを浮かべた。
「そういえばこの場所が私達3人が初めて揃った場所だよね?」
「そう言えばそうだったな…」
フィオナの言葉にリオンは頷いた。突然の言葉に私はフィオナが何を言いたいか分からず何も言えなかった。
「だからお別れもここでしようか。もちろん一時的なお別れだよ?」
「えっ?お別れ?」
「もちろん永遠じゃないよ?私達の力は世界のために使うの。そうすればまた再会できるよ。道がみんな同じならね!」
フィオナの言葉…正直私には意味が分からなかった。でもリオンは何かを理解したようだった。それと共に背中の大剣を抜き地面に突き刺した。
「なら別れの前に誓うか。再会するためにな」
「リオンにしてはいい考えだね」
右手の甲を上にして前に出したリオンの動作を見てからフィオナはそのままリオンの手に重ねるように右手を重ねそれから私に視線を向けた。
「レミはしないの?」
「えっ?」
「今は分からないかも知れなくても目指す道は一緒でしょ?」
フィオナの言葉で私はようやく意図が分かった気がした。そして私も手を重ねてから二人に視線を向けた。その様子を見たフィオナは笑みを浮かべた。
「よし!じゃあ行くよ?」
「大丈夫かレミ?」
「平気。さあ…行くよ?私達の力は…」
「「「世界のために!」」」
私達は声の限りに誓いの言葉を声に出して発した。まだ分からない未来へと旅立つための第一歩にするために…。