複雑・ファジー小説
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.66 )
- 日時: 2014/12/20 16:16
- 名前: 鮭 (ID: n9Gv7s5I)
第28話
フィオナと別れて約1週間、私はリオンと一緒に故郷である村に向かっていた。村自体は森に囲まれていて小さいながらも自然が豊かな名もない村。リオンは一度村に帰って報告するということだから村に帰る予定の私とは同じ道を歩くことになった。
「このペースなら明日には到着するな」
「そうだね私は年に1回は帰っていたけどリオンは久しぶりだからね」
夜の森の中で私達は村までの最後の休憩にと焚き火をして私達は向かいあう形で座っていた。リオンは騎士になるのだからと学校から白銀の鎧を受け取り体に馴染むようにと旅に出てからずっと見に付けていた。最も私やフィオナもプレゼント自体はもらった。フィオナは私達に比べて力が弱い召喚獣をもらったことから立派な魔導書、私は最近覚えた剣技に使う双剣。今考えると私達3人は凄く優遇されていた気がした。そしてそれによって身に付けた力…だからこそ今度はみんなのためにと考えられるようになったんだと思う。
「レミ…結局決めたのか?帰るまで何もプランがないと怒られるんだろ?」
「あはは…特にお父さんには怒られるだろうね…」
私のお父さんは凄く厳格で怒ると怖い。でも私が幼いころに魔法学校に行きたいと言った時に最初に納得してくれたのもお父さんだった。だからこそ恩返しをしたいと思った立派になって帰って喜ばせたかった。
「レミ…一緒に来るか?」
「えっ…?」
「騎士の枠がもう一人あるらしい。俺の補佐になる奴を選考すると言っていた」
「私が騎士?でも…大丈夫かな…」
「お前は俺たちと同じトップ卒業者だろ?それに…ぐずぐずしているとおいていくぞ?」
リオンの言葉は幼いころに冒険ごっこで遅れている私に何度も言った言葉だった。そして決まって私が言う言葉はこうだった。
「すぐにそっちに行くから待っていなさいよ!」
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夜が明けて歩き始めた俺達の視界に村の入口が入ったのはお昼頃だった。ただし違和感があった。村の入口は立て札があり村を覆っている木製の柵はボロボロになっていてさらに入口に立っていたのは見たことがない筋肉質な男が大きな斧を持って立っていた。
「ねえリオン?あの人誰だろ?」
「あまりいい雰囲気でもないな…」
レミの声色には不安もあった。俺達が村の入口に近づいていくとその男も俺達に気付いたようで、にやりと浮かべていた笑みは正直不愉快なものだった。
「何だお前ら?この村に用か?」
「俺達はこの村の人間だ」
「あなた達は誰なの?」
俺達の言葉にその男は村の方に向けて何かの合図をしたそれと共に現れたのは同じような風貌の男たちだった。持っていた武器は斧や剣と様々だったがそのどの武器にも血が付いていた。その様子を見て真っ先に頭をよぎったのは最悪の状況だった。
「お父さん!お母さん!」
俺の言葉を待たずにレミは自分の家族の名前を呼ぶとともに村に向かって飛び込んで行った。それに続こうとした俺の前には進行を邪魔するように男達が立ちはだかった。その中で集団のボスらしき男は俺は殺してレミは生け捕りにしろというような指示を出していた。ここまでの会話でこいつらが山族などの類だと理解できた。
「村のみんなは…どうした…?」
「決まっているだろ?皆殺しだ。どうせこの村は国に認可されていない。騎士様も現れないからやり放題だったな」
男は口々に村での行いを話していった。正直聞くに堪えない内容ばかりだった。そしてレミもこの事実をすぐに知るだろう。
「もういい…言いたいことは終わりか…」
「何だと?」
「この世に残していく言葉はそれで終わりかと聞いたんだ…」
気が付けば俺は背中の大剣を引き抜くと共に召喚の詠唱を唱えた。
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気が付いた時私の周りにはいくつもの屍が転がっていた。我を失っていたようで気が付けば村の中央で血に染まった双剣を握ったまま立って空を見上げていた。
「レミ…怪我はないか?」
「うん…大丈夫…」
声が聞こえた方向に視線を向けるとそこには白銀の鎧と大剣に大量の返り血を浴びていたリオンが立っていた。こんな相手に怪我をするわけがないと答えようとした時自分の体にも大量の返り血を浴びていたことに気付いた。
「はは…こんなに苦しいなら…さっさとやられればよかったかな…」
私の呟きにリオンは答えてくれなかった。今の私にはリオンと向き合うだけの元気がなかった。恐らくリオンも同じような状態なんだと思う。
「血に染まった騎士が何と言うか知っているか?」
不意に聞こえた声は知らない奴だった。視線を向けた先にいたのは黒いローブに包まれていて顔が見えない奴だった。声色的には男だというのは分かった。
「誰だ?あいつらの仲間か?」
「ある騎士の話がある。そいつは人々を苦しめる悪魔を倒すために戦いついにその悪魔を倒した」
男はリオンの問いかけに答えずに話を続けていった。こいつは何だろう。何が言いたいのだろう。そんなことだけが私の頭には浮かんでいた。
「しかし悪魔を倒した騎士は悪魔の返り血を浴び悪魔になってしまった。今のお前達みたいにな」
そう言われた時今の自分の状況に気付いた。返り血やそう言ったことではない。たった今何十人もの人間を殺めてしまったのにも拘らずまったく罪悪感がない。何も言わないということはリオンもそうなのかもしれない。
「お前たちは変だと思わないか?世界中には村はたくさんあるが世界中の村の殆どはここと同じだ。守られているのは国に許可の出ている村だけだ」
「何が言いたい…」
「お前たちは面白い…我々の元に来い…」
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「という経緯で今のこの場所で出会った訳」
レミの悠長な口調で話していく様子はフィオナにとっては耐えられないほどの苦痛だった。それを抑えようと手に持った魔導書を握りしめ話を聞き続けた。
「話が長くなったね。休憩にはちょうど良かった?」
「レミ…あなた…」
笑顔で問いかけてくるレミにフィオナは愕然としてしまった。レミは確かに最年少で学校を卒業できるほどの優秀な人物だったがそれゆえに幼く心が壊れてしまったのだと理解してしまったからだ。
「さて…今度は私が遊ぼ…っ!ディキ?」
「ディキ?そうか…あの子たちも頑張っているんだ…」
Lから視線を外せないフィオナの背後では先にレミが召喚した召喚獣が何かと戦っていた。それがだれかはフィオナには見なくても分かっていた。
「召喚獣の維持は術者の魔力次第。どうやら結構きついみたいだね?」
「そうだね…ごめんリオン…集中するからお願い…」
————分かった…。
光に包まれたレミの姿は半透明になり代わりにリオンの姿が実体化した。それと共に大剣を引き抜き地面に突き刺すと衝撃と共に半透明だったレミの姿も消えた。
「相変わらず厄介だよね…同じ魔力をぶつけて魔術を無効化する魔封…マジックキャンセルだったかしら?」
「いちいち人の技に名前を付ける癖を直せ…」
「あら?卒業してからはそんなことしてないよ」
冗談交じりな口調で話して平静を装うフィオナに対してリオンは再び大剣を構え直した。
「なるほどね…心が壊れたレミをリオンは見守っていたんだね」
「あれ以降あいつは泣かなくなった。どんなことがあっても…。だから俺はこうなることを選んだんだ」
「そんな体になった経緯は話してくれないんだね」
「聞きだしてみろ」
その言葉と共に大剣を振りかぶって飛び込んできた。振り下ろしてきた大剣に対してフィオナは片手を前に出すと魔法陣が描かれた半透明な障壁が現れ大剣の進行を阻んだ。
「魔法障壁か…だが…」
リオンの言葉と共に大剣が光ると障壁は煙のように消え去りそのままフィオナに向けて振り下ろされていった。当然分かっていたフィオナは体を横にずらして大剣を避け、そのまま地面を蹴って距離を取った。
「懐かしいなあ…初めて戦った時はそのまま一撃を受けて私が負けたんだよね」
「そうだったな…」
「でも…無効化するのに同等の魔力を消費する…。だったら話は簡単…我慢比べだよ」
「そういうことか…こっちの魔力が先に尽きるか…」
「私の体力が先に尽きるか…勝負だよ」
魔導書を開いたフィオナの顔つきが変わり、それを察したリオンも大剣を構え直して再び二人は対峙した。