複雑・ファジー小説
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.67 )
- 日時: 2014/12/27 15:41
- 名前: 鮭 (ID: n9Gv7s5I)
第29話
シンとバードが戦いを始めて数十分が経過した頃に現れたドラゴンは二足歩行で鎧を装備し巨大なランスを握っていた。リザードマンという魔物も存在はするもののそれらよりも遥かに大きく知的で戦闘能力も高かった。
「おいシン…ちゃんと生きているよな?」
「死人はしゃべりませんよ…」
ドラゴンに対峙している二人は呼吸を僅かに乱して疲労を見せている状態だった。散々修行をしてきた二人にとっては魔物の相手だけで苦戦していることが面白いものでもなかった。すでに視界内に入っている役所に近づけないでいることがより彼らに焦りを与えてしまっていることもあり完全に力を出し切れていないというのも時間が掛っている原因だった。
そんな中で役所の方から何度も爆発音が二人の耳に届いた。
「フィオナさん…派手にやっていますね…」
「大丈夫だと思うが…急いだ方がいいよな…」
すでに何度も戦闘による衝撃音が耳に届いていた二人は助けの邪魔をする目の前にいるドラゴンを見上げ再び身構え始めた。
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リオンの大剣が振り下ろされ、フィオナは再び片手を出して障壁を作り出して大剣を受け止めた。その動きを呼んでいたリオンはすぐに障壁を消しそのままフィオナの腕の動きが追いつかないように大剣の軌道を縦から横に変化させ横薙ぎの剣技を放った。
「そうはいかないよ」
動きを見ていたフィオナはそのまま視線を大剣が迫ってくる方向に向けると同時に障壁が大剣の進行を妨げた。予想外の防御に一瞬硬直したリオンにフィオナが右手を差し出し同時に魔導書が蒼く光りだした。
それが何かをすぐに察したリオンは地面を蹴って距離を取ろうとした瞬間、いくつもの氷の槍がフィオナの周辺に形成されていき、そのままリオンに向けて何本も飛んでいった。
「こんなもの!」
四方八方から飛んでくる氷の槍は大剣で叩き落してもすぐに形を形成し直してリオンの元に向かっていった。回避する空間がなくなったところでリオンは地面に大剣を力強く突き刺すことで周辺に衝撃を発生させて氷の槍をすべて弾き飛ばした。
「流石だね…無効化できないくらい撃てばと思ったけど…まさか全部無効化にするなんてね」
地面に突き刺した大剣を引き抜いたリオンの周りには力を失ってバラバラになった氷の槍が転がっていた。
「訂正してやるか…弱くなっていないな。その探究心や術技…昔のままだ…何も変わっていない」
リオンの言葉と共にその体が光った時リオンの姿が消えた。それと共にフィオナは反射的に左に飛んでその場から移動するとほぼ同時に先ほどフィオナがいた位置に剣閃が走った。そしてその剣閃を放ったのはレミだった。
「ごめんねフィオナ。本当は1対1をさせてあげたかったけど…相手があなただと時間が掛るからね」
「そうだね…私も長く時間を掛けられないと思っていたんだよね…」
二人は向かい合い話すとフィオナは本を開き足元に魔法陣が浮かび上がった。それと共にレミの姿が光に包まれリオンが再び姿を現し大剣を構え直した。
「レミが相手するわけじゃないんだ…」
「ああ…あいつは召喚獣の維持をしているからな…お前の力をぶつけてこい…」
「じゃあ行くよ…テオ!」
フィオナの呼びかけと共にフィオナの頭上に氷の塊が集まりそれが砕けて現れたのはフィオナがテオと呼ぶ氷のドラゴンだった。
「テオのブレスは知っているよね?」
「ああ…テオ…いや…召喚獣は呼び出す時と維持には魔力は必要だ。だが攻撃は魔力がない」
「よく勉強しているね…じゃあ…これはご褒美だよ!」
フィオナの呼びかけと共にテオは口を開き放たれた蒼く輝くブレスはまっすぐリオンに向かっていった。当然のようにリオンはそれを横に飛び避けた。ブレスが触れた箇所は凍りつき、テオはブレスを吐いたまま攻撃を避けたリオンを追いかけていき、大剣を構えて避けきれなかったブレスを受け止めたリオンの体は徐々に凍りついて行った。
「なら…こっちも行くぞ…」
ブレスを放っているテオの下で術の詠唱をしているフィオナの様子を確認したリオンは一人呟き、同時に黒い魔法陣が足元に浮かび上がった。
「行くぞ…ディオス…」
リオンの呼びかけと共にリオンのすぐ横に黒い穴のようなものが現れ、フィオナがそれを確認した瞬間、軽い衝撃と共に体に脱力感が襲った。
「なっ…何…」
フィオナが気付いた時、地面に倒れていて立つことが出来なかった。顔を上げてリオンに視線を向けるとその後ろには黒い肌にレミのディキ同様の二足歩行の巨大なドラゴンが立ち、その周辺はパチパチと電撃を帯びていた。鱗は刺々しくフィオナには雷を連想させた。
「そういうこと…黒い閃光龍ディオス…学校側も…凄い子…渡したんだね…」
「俺とレミは自分の特性と逆の召喚獣をもらったからな…。早さに長けたレミは力のディキ。そして俺は早さのこいつだ。ディオスのブレスは殺傷能力こそ低いが身体能力をマヒさせる」
倒れているフィオナに歩み寄るリオンにテオは主人を守ろうとリオンに突進をするも途中でディオスに捕まり地面に押さえつけられた。
「凄い子だね…光のような速さの移動…反則だよ…」
「魔力維持は大変だけどな…そろそろ降伏してもらえるか?」
「駄目だよ…」
リオンの言葉に対して体を震わせながらフィオナは立ち上がった。当然体がまともに動かないその体はフラフラとしておりちょっとした衝撃で倒れてしまいそうに見えた。
「貴方達を追い払ったら…みんなで打ち上げの予定だからね…」
「そんなボロボロの体でまだ向かってくるつもりか?」
リオンは大剣をフィオナに向けたまま問いかけていくと不意に辺りの気温が下がり寒気がリオンを包みこんだ。
リオンは真っ先に召喚獣のテオの仕業と考えたもののディオスに押さえつけられたままで、次にフィオナに視線を向けるとフィオナの桃色の髪は白銀に変わり目つきも普段と違い鋭いものに変わっていた。
「リオンは変わっていないって言っていたよね?じゃあ…変わった私を見せるよ…」
フィオナの言葉と共にフィオナの足元から地面が凍り始めていき辺りが白銀の世界に変わった。その様子を確認したリオンはすぐに大剣を構えフィオナに飛び込もうとしたその時だった。
————リオン!防御して!
レミの声に咄嗟に大剣を前に出し魔力の防御をした瞬間強くリオンがこれまでに感じたことがない程冷たい衝撃が発せられた。咄嗟にリオンが防御しなかった場合リオンも白銀の景色の一部になるところだった。ただしテオを押さえつけていたディオスはこの空間に耐えきれず凍りついてしまった。
「私があの学校に元々通っていたのはこの強すぎる魔力を抑える修行のためなの…。だからテオにはお世話になったよ。私が本気の状態でもそばにいられるのはあの子だけだったから」
「つまりここからは…本当のお前の本気か…」
「そうだよ…残念だけど終わりにするよ…」
フィオナが片手をゆっくりと横に手を振るとそれと共に強い冷気の固まりがリオンに迫り、今まで同様にそれに大剣を振り下ろして無力化させると急激な脱力感がリオンを襲った。
「これは…」
「リミッターを外した私の一撃は無力化にそれなりに力を使うはずだよ」
口調もやや力が籠ったフィオナにリオンは一度小さく息を吐きジッと視線をフィオナに向けた後に大剣を背中に納めた。
「レミ…悪いが力を貸してくれ…」
————分かっている。フィオナが本気を見せたんだから私達も見せないとね
その言葉と共にリオンの髪はオレンジに変わっていき体は僅かに発光し始めた。それと共に背中に納めた大剣の姿は消え代わりにリオンの持つ大剣でもレミの持つ細身の双剣ではなく大きさはちょうどその中間に当たる剣が姿を現しリオンの手に握られた。それと共にテオを抑えていたディオスも姿を消え自由になったテオはフィオナの元に戻った。
「フュージ二アンの真の力だね…本来それは二人の力を一つにして力を倍増させるもの…」
「ああ…だが本当にそうなるにはいろいろと鍛錬とパートナーとの信頼が不可欠だがな…」
「参ったなぁ…一気に決めるつもりが…無理みたいだね」
再び飛び込んできたリオンは今まで以上の速度で、目で追うのは困難になっていた。その速度のままリオンはフィオナの横に移動し剣を横薙ぎに振るとフィオナの翳した手の先でできた氷の壁がその進行を抑えた。
「確かに短期決戦は無理みたいだな」
「でもこれだけは分かるよ…この戦いの決着が近いってことはね」
————そうだね。あなたの敗北でね
「そんなことないよ…勝つのは私だよ」
レミの言葉に答えると共にフィオナの開いた魔導書が光り、それに答えるように刀身が光り始めた剣をリオンは握り持ったまま互いに視線を重ねた。