複雑・ファジー小説

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.68 )
日時: 2014/12/30 15:06
名前: 鮭 (ID: n9Gv7s5I)

第30話

この状態は正直負担が大きい。魔力を抑えてないせいでただ立っているだけで魔力が減っていく。その上、体がまともに動かないから余計に魔力を消費する。その上リオンの動きがレミと同等にまで上がっていた。
今も私の目では殆ど負えない速さで斬りかかってくる。この攻撃を防げているのは殆ど反射的で見切れているわけではなかった。

「テオ!ブレス!」

私の掛け声と共にテオは息を吸い込み蒼く輝いたブレスを吐くとリオンは当然のようにそれを横に避け剣を振り上げ飛び込んできた。振り下ろされてきた剣の軌道は迷わずに私に向かって振り下ろされ、それを私は剣の横に術をぶつけて攻撃の軌道を変えた。
対象を凍りつかせる風の術「アイスウインド」。ただし攻撃の範囲を細かく絞れないことから普段は使わない術。でもこの相手にはそんなことを考えていられなかった。

「剣が見えて来たか?」

リオンの言葉でようやく今の自分が最初は見切れていなかった剣が見えるようになっていたことに気付いた。リオンの攻撃に的確に対処できてきているのもそのおかげだと分かった時、さらに一歩が見えるようになってきた。

「そうだね…戦いの勘…戻ってきたみたい」

縦横無尽に放たれていく連撃の一つ一つを捌いていき、その間にテオのブレスを織り交ぜた攻防が続いていた。互いに疲労が見えていく中、リオンと背後にいるレミの呼吸の乱れが見えた。

「そろそろ魔力がきついかな…」
「そうだな…次で決めるぞ?」

その言葉と共に飛び込んできたリオンを見て私も最後の力を振り絞り飛び込んだ。リオンが渾身の力を込める時、剣を振り上げる癖は知っていた。予測していた通り振り下ろされてきた剣は私の眼前まで近づいてきたのを確認したところである予感が私の頭の中によぎった。

---------------------------------------------------------

恐らくこれが最後のこいつとの激突だと思われた。最後の一撃をと考えて飛び込んだところで俺の頭を過ったのはこの攻撃が今まで同様に弾かれそのまま反撃をされる未来だった。そう考えた時、そのまま縦に振り下ろそうとした剣を止め、その攻撃を防ごうとして右手を翳したフィオナの右脇に蹴りを入れて態勢を崩させた。

「ぐっ!?」

予想外な攻撃だったのか目を見開き思惑通り態勢を崩したフィオナを確認し、止めた剣を改めて構え直し横薙ぎに斬りかかった。そんな時フィオナの口元に笑みが浮かんでいたことに気付いた。それと共にその剣が氷の盾によって防がれた。

————嘘!?

俺は当然レミも予想していなかった防御だった。その予想外の防御に動揺してしまった間に俺の腹部に手を翳して放たれた術。

「これで終わりだよ!」

蒼い閃光が俺の目で確認できた時、そのまま吹き飛ばされて壁に叩きつけられ体が動けなくなった。体を見ると凍りついてしまい身動きが取れない状態だった。そもそも体に力が入らない。どの道身動きが取れそうにない状態だった。

「はあ…はあ…こ…れで…私の魔力も…切れたよ…」
「そうだな…この状態の魔力切れはレミの魔力切れも意味している…。お前の勝ちだ…」
————悔しい!絶対勝てると思ったのに!

レミの悔しそうな声に思わず苦笑いをしてしまい、フィオナの魔力切れが影響してか俺の体を包み込んでいた氷も砕け散った。思えばここまで全力で戦ったのはいつ以来だったか…。

そんなことを考えている時、急にフィオナはその場に倒れた。魔力が尽きたからかと考えていたが腹部から血が流れていることが確認できた。すぐに呼びかけようとした時聞き覚えのある声が耳に届いた。

「ご苦労だったなL…」

--------------------------------------

「いったいどうなっているんだよ?」
「分かりません…一先ず役所に急ぎましょう」

シンとバードは巨大なドラゴンと交戦をしていたが、役所から見えた蒼い光と共にドラゴンは姿を消してしまった。周りに何体もいた筈の召喚獣達も姿を消しとりあえずと遅れながらも役所に向かっていた。

「でも召喚獣が消えたってことはフィオナが勝ったんだろ?」
「恐らく…でも…嫌な予感がします…急ぎましょう…」

シンは消費した弾丸を装填しながら役所へと向かい、バードは辺りを警戒しながら走っていた。第一撃の攻撃以降時間が大分経過してしまっていることから家の殆どは崩壊しており元々の街は見る影もなかった。

「シン…まだ行けるだろ?」
「当たり前です…この時のために体力づくりもしてきましたから」

話をしていきながら役所の前に到着した時、二人の目に入ったのは3人の人間だった。一人は地面に倒れているフィオナ。役所の壁に寄り掛ったL。そしてその前に立っている黒いローブに身を包んだ人物だった。

「フィオナさん!」
倒れているフィオナに駆け寄ったシンはフィオナを抱き起そうとしたがそのまま言葉を失ってしまった。腹部を何かで貫かれた痕が残っていた。

「シン…ちゃん?」
「フィオナさん!何で…」

予想していなかった状況にシンは珍しく声を上げて呼びかけバードはローブの人物に視線を向けていた。

「J…お前…何をしに来た…」
「簡単だ。後処理だ」

Jは片手をLに向けて話していくと何かしらの術を詠唱し始め、それと共にLの姿は二人の人間に別れた。一人はリオン。そしてもう一人は二人が何度も見て来たレミの姿だった。

「白騎士?何で…引き分けだったのか?」
「いや…そこで倒れている女の勝利だ。まさかLを一人で倒す奴がいると思わなかったぞ」
「そのLにお前は何をしているんだよ」
「使えない奴の後処理だ。融合させて力を与えてやったのにこれでは使い物にならないから俺がその力を使ってやる」

その言葉を残してその男は二人の目の前から消えた。すぐに警戒して辺りを見回したバードは何もないことを確認したから壁に寄りかかったリオンに駆け寄った。

「おい…大丈夫かよ?」
「悪いが…魔力を奪われた…しばらく動けない…いや…もう…」

何かを言いかけたところでリオンの言葉は途切れてしまった。

「テオ…テオは…どこ…」

急に後ろから聞こえて来たフィオナの声にバードが振り向くとシンに介抱されたフィオナが手を震わせながらも伸ばす様子が見えた。

「大丈夫です…今…向こうで休んでいます…」
「よかった…さっきから…何も見えなくて…心配だったの…」

すでに手を施せない状態だと分かったバードはシンがついた嘘になにも言わなかった。フィオナから流れ落ちる血は全く止まる様子もなく徐々に顔色が悪くなっているのが二人は気付いた。

「少し疲れたみたい…ちょっと…休ませてもらうね…」
「分かりました…」
「あれ…?雨…?風邪を…引かないようにね…?」

青空の元でフィオナの言葉が途切れるとそのまま瞳が閉じられた。シンは無言のままフィオナを寝かせてあげた。バードが視線をLと呼ばれていた二人に視線を戻すとすでにリオンはフィオナ同様に動かないでいた。

「ねえ…ちょっと…いい?」
「お前…無事だったのか?」
「魔力を取られたけどなんとかね…」

レミからの呼びかけにバードは驚きながらも地面に仰向けのままのレミに歩み寄った。

「ちょうどいいから…一つお願いをいい?フィオナのためにもね…」
「何だよそのお願いって…」

-----------------------------------------------------------------

二人は私とフィオナをリオンの隣に座らせる形で移動させてくれた。リオンの右隣に私…左隣にフィオナ。この並びは昔からの並び方だった。

「主人がこれでごめん…動けないからテオとディキ、ディオスをよろしくね…」
「ええ…でも貴方達のためではありません…フィオナさんのためにです…」
「どっちでもいいよ…ほら…さっさと行く…」

目が赤くなっている娘はシンだったかな…こんなときでも冷静でいようとして…か…わいい…。

「バードさん…行きましょう…あのJという人…まだ近くにいるはずです」
「そうだな。じゃあ俺達は行くからな」

多分…あの口の動きは…そう言ったんだと思う…。なんだか周りの音が聞こえないよ…。分離しても…魔力の核がないから…もう無理かな…。

————レミ。ほら行こう
————置いて行くぞ?

二人の声が聞こえた気がしたのは。とっくに逝ったのかと思ったのに待っていたんだ…。しょうがないな。

「いま…そっち…に…いく…からね…」

最後に感じたのは柔らかくて暖かい風でなんだか悪いものではなかった。いろいろあったけど…あっちではみんなに会えるのかな…。ここでできることは終わっちゃうけど…あっちでも…あっちでこそ…楽しく…生きられればいい…。それが…今の私の望み。



そんなことを考えながら私は待ってくれている二人の元に駆け寄っていった。