複雑・ファジー小説

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.7 )
日時: 2014/05/06 03:14
名前: 鮭 (ID: XaDmnmb4)

第6話

「はい。オムライスよ」

やや乱暴にテーブルに置かれたオムライスを見て俺は一度対面に座るサクヤに視線を向けた。にこやかに笑顔を向けるサクヤ、その妹で不機嫌そうに料理を運びサクヤの隣に座るカグヤ、そしてまったく気にすることなく隣でオムライスを食べるリーネとミルクを飲むクロ。

ことの発端は少し前に戻る。

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「ただいまぁ」
「あっ!おかえり〜」

サクヤの帰宅に伴い、家の奥から元気な声が玄関まで聞こえてきた。それから殆ど時間を置かずに現れた茶髪の声から女の子か?いきなり現れれば間違えそうな風貌だった。

「ずいぶん遅かっ…ちょっと…あんた誰よ?」
「あっ!本当だ!誰?」

奥から現れたもう一人はサクヤと同じ黒髪の女の子で、その言葉に茶髪の女の子も俺に気づいたようだった。というか気づいてなかったのか。

「待ってカグヤちゃん。この人はキル。私を助けてくれたの!」

サクヤはカグヤと呼ばれる人物にここまでの経緯を説明していった。ムスッとしたままカグヤは納得したのかようやく黙った。

「えっとキル?妹のカグヤちゃん。それとよく遊びに来るリーネちゃん。よろしくしてあげてね?」
「ああ。しかし邪魔していいのか?」
「いいのよ!お姉ちゃんが連れてきたお客だからね!」

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そうして俺はここにいるわけだが、正直カグヤが不機嫌な理由が分からない。逆に隣のリーネは全く気にせずにオムライスを食べ続ける様子にため息を漏らしてしまった。
気を紛らわすようにとカグヤが作ったオムライスを口に運んだ。

「ん?」
「あら?口に合わなかった?」

表情の変化を見られたのか、サクヤからの問いかけに作ったカグヤも気になったのか視線を俺に向けてきた。

「いや…素直にうまいから驚いてしまった」
「当たり前だよ!カグヤちゃんが作ったんだからね!」
「バカなこと言ってないで早く食べなさいよ!」

僅かに赤くなり自分のオムライスを食べるカグヤに笑うリーネとサクヤを見て少し動揺した自分に気付いた。
食事というと今ままではただの栄養補給という認識だった。そのためこういったしっかりとした料理というのは、もしかしたら初めてだったかもしれない。

「あれ?どうしたのキル?」
「ちょ!いくらなんでも泣くことないじゃない!」

リーネ達からの指摘に咄嗟に眼に手を当てた。手にはこれまで流したことがなかった涙があった。

「なんで…」
「あの…キル?よかったらこれから毎日ご飯だけでいいからうちに来ない?」

涙に戸惑う俺に対してサクヤは予想外な提案をしてきた。その提案には俺だけでなく他の二人も驚いていた。

「ちょっとお姉ちゃん!」
「サクヤちゃん!」

カグヤの言葉をサクヤが制止させ、カグヤはもちろん俺自身も驚いた。ここまで見て来たサクヤからは予想できない姿だった。

「急にどうした?何かあったか?」
「ううん…すごく簡単な理由よ。」
「簡単?」

サクヤの言葉の意味が分からなかった。今ここに自分がいるだけで違和感があるのにも拘らず、毎日来るという意味が俺には分からなかった。

「もしかしてあんた家族とかいないんじゃない?」
「えっ?そうなの!」

椅子に座ったままのカグヤからの問いかけに対してリーネも俺に視線を向けて来た。

「確かに家族はいないが…」
「サクヤお姉ちゃんはそういうことすぐ見抜いちゃうんだ」

俺自身は家族という者は確かにいない。正確にはどういうものか分からない。
戦闘技術や暗殺術ばかりを学んだり、教え込まれ続けたからこそこういった場面は新鮮で温かさを感じた。

「俺はこれだけじゃ足りないからな…」

食べ終えた皿の上にスプーンを置き、目の前のサクヤに視線を向けるとサクヤは満面の笑顔を向けて頷いた。

「じゃあ明日からは一人分追加ね。あるいは今夜からかしらね」

周りで笑い合う風景に俺は何か温かいものを感じた。ここを出ていく時が来るまでの間だけ、その間だけこの関係を続けるのもいいかもしれない。心の深層で俺はそんなことを考えていた。