複雑・ファジー小説
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.70 )
- 日時: 2015/01/04 22:54
- 名前: 鮭 (ID: n9Gv7s5I)
第31話
「おいシン!どんどん走っているがあいつがどこに行ったのか分かるのかよ?」
瓦礫になってしまっている街の中をシンとバードは走っていた。先導するシンがどこに向かっているつもりなのか分からないでいるバードはシンに向かって話しかけた。普段考えがないままに移動するということをしないシンの行動には何か意図があると分かっていながらもやはり気になってしまった。
「あの人は…力を使ってやると言っていました…」
「それが何だって言うんだ?」
「多分その力はあの3人の召喚獣です。だから呼び出す為に適した場所があります」
「適した場所?」
思っていたより落ち着いている様子のシンにバードは寒気のようなものを感じてしまい続く言葉を待った。
「多分ですが…街の中央にいます。あそこなら呼び出すのに十分広いスペースとそこからどこにでも召喚獣を向かわせることが出来ます」
「なら街の中央に行けばいいんだな。」
納得したバードはシンの後を追い急いで街の中央へと向かっていった。
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街の中央についたところで目的の人物を見つけるのに時間は掛らなかった。赤い炎で辺りは燃やされていて嫌な臭いが鼻に届き自然と表情が歪んでしまいそうになった。Jと呼ばれていた男は街の噴水の前に立って魔法陣を地面に展開しており俺達の存在に気がつくと男は視線を俺達に向けて来た。
「思ったより早かったな」
「3人の召喚獣を返してください」
いつもに比べて口調が強いシンが俺には気になった。ここに来るまでに至る冷静な分析力を考えれば心配ないと考えられる。ただいつも以上に安心をして見てはいられなかった。
「俺はまだ仕事があるから付き合えないがせっかくだ。お前達で試すか」
「試す?どういうことだ?」
「返してほしいなら返してやる」
その言葉と共に地面の魔法陣が光り、姿を現したのは黒く巨大な二足歩行の竜だった。ただし先ほどと違い黒く、それでも透明感がありキラキラと輝いており赤い瞳、漆黒の防具にランスを装備していた。さっきまで戦っていた龍と大きさこそ変わらなかったが威圧感は比べ物にならなかった
「何だよ…これ…?」
「短時間だったがいいものが出来た。これで仕上げだ」
Jのさらなる術の発動により龍の首に黒い宝玉が着いた首輪が装着されるとその竜の視線が俺達の方向に向けられた。
「あれは…まさか…」
「あの3体を融合させたものだ。素晴らしいものが出来たな」
「融合?お前!何やっているんだ!?」
召喚獣については知識がない俺でもやっていいことと悪いことがあるくらいは分かった。融合させるのにその個々の意識がどうなるかと考えると黙っていられなかった。
しかしJからの返答はなく代わりに聞こえたのは一発の銃声だけだった。そしてその銃を発砲したのはシンだった。
右手に持っていたマグナムから放たれた銃弾はJに向かって放たれたがそれはJの手に収まるようにして吸い込まれてしまった。
「テオ達を戻してあげてください」
「それは無理だな。あのできそこないの二人と違って今度は完全な融合だ。元には戻せない」
Jの言葉と共に大きく雄たけびを上げた龍の声は心なしか悲しげに聞こえ、同時にその衝撃で辺りで燃えていた火は消し飛び倒れかけていた家屋は崩れていった。
「さて…長居はよくないな。後は任せたぞ」
その言葉を残しJは姿を消し、残されたのは龍と俺達二人だけとなった。黙ったままのシンは消費した銃弾を装填していきながら龍に向き合った。
「バードさん…」
「何だよ?逃げたいとかはなしだぞ?」
「はい…だから…この子を止めるために…協力してください…」
「それこそ…駄目だと言っても協力するさ」
銃を二つ抜いたシンの横で大剣を構えてきょう二回目の龍と対峙した。
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街の外の前にある森の中。ジンとNが刀で切り結び続け金属音だけが響き渡り続け、ジンが鞘から居合の形で横薙ぎに刀を振るとそれに対して下から斬り上げるようにして受け止めて対峙した。
「やっぱり…正面からの攻撃は無理みたいだな…」
「いつまで遠慮しているつもりだい?まさか命を奪わないで勝とうとしていないよね?」
「そうだよな…遠慮はもうやめるからな」
左手に持った鞘をくるりと回して持ち替えたジンは刀でNの刀を弾き空いた頭に向かって鞘を振り下ろす。それに合わせるように左手を出して防御姿勢に入った。防御した腕を砕くつもりの勢いで鞘を振り下ろし腕に当たった時、ジンは違和感に気付いた。命中した感触は腕を砕くものではなく金属がぶつかり合うような手応えだった。視線を腕に向けたジンはその腕に装着された手甲の存在を確認し、先に弾いたNの刀が再び向かってくるのを確認した。
「ぐっ!」
咄嗟に刀を使って防御しながらもその刀の力強さに吹き飛ばされ木に背中を叩きつけられた。態勢を立て直そうと視線をNに向けると刀を振り上げている動作が見えた。
「あれは…」
「以前君を追い込んだ技…朱雀だよ」
そのまま剣を振り下ろした時炎に包まれた巨大な鳥がジンの元に向かって来た。
「前の俺とは違うのをみせてやるよ」
すぐに刀を納め居合の構えをすると白い光を放った刀が引き抜かれその剣圧により炎を纏った鳥は消え去った。すぐに刀を納め直したジンはそのまま飛び込み、大技を出した直後のNに居合を放ちギリギリで避けようとしたNの上半身に僅かな切り傷を付けた。
「危なかった…まさか奥義の相殺からすぐに攻撃してくるなんてね」
「あの時の俺ではないってことだ。次は何だ?もう一つの奥義を出すのかよ」
「そうだね…もう一度君の一撃を見てから決めるよ」
その言葉と共に刀を構えることなくただ片手に持ったまま無防備に歩み寄ってきた。その意図が分からないジンは先ほどと同様に居合の構えのまま飛び込んだ。刀がNへと届く位置にまで近づいた瞬間、ジンの引き抜いた刀が空を切り目の前にいた筈のNの姿が消えた。
「消えた!?」
ジンが言葉を発した瞬間全身に痛みを感じた。地面へと倒れていく中自分の体、手足に斬撃を受けてそのまま倒れた。急所は外れており手足も切り落とされていなかったが重力に任せるように地面に倒れた。
「くっ…」
「今ので終わらせようと思ったけど…浅かったみたいだね」
自分を見下ろしているNを見上げたままあジンはNの握っている刀に視線を向けるとその刀はジンの持っている刀同様に光り輝きその白い光がジンの目を細めさせた。
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「七発…」
二人から離れた大木の上でIは木に寄りかかったまま戦いを見ていた。最後の激突の瞬間彼女の目に見えたのは居合を後ろに下がって避けてから七回斬りつけていく様子だった。
元々彼女の任務は街への最初の一撃を入れること、出口からの逃走者の撃退。しかしその任務の内容を知らないNとRが来たせいで何もすることがなくなりその場で行われていた二人の戦いの見物をすることになった。
「まだ…覚醒…出来ていないんだ…刀の覚醒が見られたから…もしかしたらと思ったけど…駄目なのかな…」
彼女にとっては兄だと確信できた人物が自分の格下と思っている人物に負けている状況が気に入らなかった。見ている人間が他にいないということもありそろそろ助けるべきかと考えていた時ジンはゆっくりと立ち上がった。
「まだ…戦えるんだ…頑丈…」
小さく呟きながらもその手にはいつでも矢が放てるように弓が握られており再びIは二人の様子を伺い始めた。
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「その刀も…妖刀かよ…?」
「現在確認されている妖刀で唯一の光の属性を持つ白夜。力なら君の持つ刀と変わらないはずだよ」
光り輝いている刀は俺の持っている刀以上の輝きで変わらないと言われていても同じだとは思えなかった。そう思わせてしまっているということは使い手本人の差ということか…。
「まだまだ…修行が足りないよな。本当に…」
無言のまま俺をただ見るNに思わず笑ってしまった。当然おかしくてじゃない。こいつに勝てた時俺自身はどこまで強くなれるのだろうと考えてしまうと高ぶる気持ちが抑えられなかった。
「こんな状況で笑うか…ここで終わらせるよ…まだ君が知らない奥義でね」
「どんな技でも来いよ…打ち破ってやる」
この瞬間、自分の体に起こったことが俺には理解できなかった。痛みで目が霞みそうだったのに急に視界がクリアになり何故かNの動きがスローモーションに見えた。正確にはそう思えてしまった。一つ一つの動作をするための体の動きから目の動きまですべてが見えてしまった。
「っ!?何だ?」
突然のことで動揺してしまった俺の目に映ったのは自分の頭の中で描いたイメージ通りに動作するNの姿だった。