複雑・ファジー小説
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.73 )
- 日時: 2015/01/14 23:33
- 名前: 鮭 (ID: n9Gv7s5I)
第34話
街の中央で戦いが始まって時間にして約十数分。シンとバードは別れて戦っていた。最初対峙した時二人は正面から戦いを挑んだが圧倒的な力の差から固まって戦うのは危険と判断しての戦い方だった。
「とはいえ…参りましたね…」
愚痴るシンは今民家の2階に隠れて窓から見える龍に視線を向けていた。巨大なランスを片手に持ち黒く輝いた龍は形振り構わずに暴れるわけでもなくしっかりと自分達を探しているように辺りを確かめておりそれなりの知識を持っているものだと判断できた。
———3人の影響ですね…下手をすると僕らより…
実際3人の性格はどうあれ魔道士としては知識、戦闘能力も高かったことから召喚獣達もその影響を受けているようで、実際何度か策を試したものの的確に対処されてしまっていた。
———そろそろ…動きましょう…。
シンが取り出したのは狙撃用のライフル。長距離攻撃専用ながらもカグヤのメンテナンスで現状シンが持っている銃の中では一番威力がある銃だった。窓から離れてスナイパー用のスコープで窓を挟む形で照準を向けた。映った龍の顔を一度見てから照準を黒い宝玉が着いた首輪に照準を向けた。
Jのいう仕上げという言葉と共に装備されそれを合図に龍が動き始めた。そのことから召喚獣の制御に必要なものと判断した。
「照準…完了…」
その言葉と共に息を吸い込み止めると定めた照準のままに発砲した。銃声と共に放たれた弾丸はまっすぐ首輪へと向かっていったが着弾したのは首輪ではなく腕だった。
————外した!?…違う…
命中したのは首輪を守るように出された腕でこのことがシンにとってはとてつもない恐怖だった。知識、反射神経、巨体からは考えられないスピードを持っているこの龍を止める方法がシンの頭の中では描くことが出来なかった。時間にして数秒硬直してしまったシンの眼に映ったのはランスを構えてそのまま民家ごと破壊しようとしている龍の姿だった。
————やられる!?
頭の中での自分に対する警告。それと共に体を捻り迫ってくる突きを少しでも避けようとした時、窓越しに見えたのは突きを繰り出した龍の腕に大剣を振り下ろしているバードの姿だった。そのおかげかギリギリで直撃を回避したシンだったがその衝撃で民家は崩れ去った。
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「シン!大丈夫か!?」
攻撃のモーションを見て隙が出来た腕に斬りかかったが全く堪えている様子もなくシンが狙撃に使うと言っていた民家は崩壊してしまった。俺の声に対し崩壊した瓦礫の中からシンはひょっこりと頭を出しいつものような無表情であったことから特に怪我はなかったのだろうと判断できた。
龍は大きな雄たけびと共に再び武器を構え直し、それに対してすぐに距離を取って対応できるようにした。
「参りました…勝てるイメージがありません…」
「出て来るなりそれか?」
「弱点は恐らくあの首輪です…ですがあの龍の防御を崩せません」
ライフルを肩に掛け代わりにとマグナムを抜いた。俺も大剣を片手に持ったまま遠距離攻撃を考えて銃を抜いた。最もシンの銃と違って命中重視で殺傷能力は高くないからどこまで使えるかは分からなかった。
「ならその防御を崩すのが俺の役目ってことだな?」
「できますか?」
「できないようなら…終わりだろ?俺が作った隙を無駄にするなよ?」
「当然です…」
いつも通りの一言からマグナムを構えたシンは銃を発砲した。それと共に飛び込むと龍は首輪を防御するように手を翳した。その動きを見越してその腕に対して大剣を振り下ろした。しかし俺の渾身の一撃も龍に対しては全く傷を付けることが出来なかった。
「嘘だろ…」
リンクさんとの修行もあり攻撃や弱点の見極める力がついて最も的確な個所に攻撃した筈だった。それでもダメージがないということは、このドラゴンにダメージを与えるのは不可能ってことか?
「バードさん!頭を下げてください!」
「何!」
シンの声に反射的に頭を下げるとその上を何かが霞める感覚を感じた。それと共に龍が一歩引いて心なしか苦しそうな表情を浮かべているように見えた。
「シン?お前何をしたんだ?」
「やはりあの首輪です。あそこで細かい制御をしているようです」
龍から距離を取った俺は隣でライフルに弾丸を入れているシンの話を聞いた。龍の身につけている首輪には僅かにひびが入っているのが確認できた。
「ところで…今の一撃であれということは…俺はあと何回死線を潜らないとだめなんだよ…」
「少なくても後十数回は潜る必要がありますね…」
「おい…結構今のもギリギリだったんだぞ…」
「ギリギリなら大丈夫ですよ」
会話の間に怯んでいた龍は再び俺達に視線を向け、シンもまたライフルの準備が出来たようだった。
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「じゃあ2回目をいくか」
「なるべく回数が減るように努力はしますので」
正直こう言った役目はバードさんにしか頼めなかった。この人の頑丈さに関しては認められる。この人だから僕は安心して照準を合わせられる。再び飛び込んで行ったバードさんは銃を乱射しながら距離を詰めていき、その後方からライフルを構えた。
龍はバードさんの銃に怯む様子もなくランスを振り上げた。それにより首輪が露わになるとそれに対して銃弾を放って黒い宝玉に命中すると苦しそうに一歩引きすぐに2発目の銃弾を発砲しバードさんも大剣で攻撃をし雄たけびと共に龍は片膝をついた。
「今のは大分効いたみたいだな…」
「ええ…でも…おかしいです…」
「おかしい?」
僕が感じた疑問はこの召喚獣についてだった。ここまで見てきて強固な防御力と速さは恐ろしいものだったが攻撃のパターンは先に戦っていた龍と変わらなかった。その疑問に答えるように大きな雄たけびは耳を覆いたくなる程だった。
「バカ!」
「えっ?」
雄たけびで一瞬怯んだ時に聞こえたバードさんの声、そして同時に横から押され体がぐらついた時、バードさんが僕を押したこととそのままバードさんが倒れる姿が見えた。
「バードさん!」
「くっ…大丈夫だ…って…体が…動かない…?」
「バードさん?これは…」
攻撃を受けたバードさんの体にはバチバチと電気を纏っていた。すぐに龍に視線を向けた僕は再びランスを構え直す様子が見えた。それに気付いた僕はすぐにバードさんを蹴りあげそれと共に後方へと飛び振り下ろされたランスを回避した。
「どうやら…ここからが本気みたいですね…」
「そ…うだ…な…というか…ちょっと蹴りが…強すぎだろ…」
今にも倒れそうな程に細い声を出すバードさんは立ちあがっておりフラフラしていた。この様子だとまた飛びこませるのは無理だと判断できた。
「バードさん…サポート…できますか?」
「おい…まさか…お前」
「僕が直接飛び込みます…近くなら照準がいらないですし効果も大きいでしょうから…」
正直恐怖はあった。以前のままだったら多分震えて身動きが取れなくなっていたと思う。でも今はそういうわけにいかなかった。
「バードさん…サポート…お願いしますよ?」
「…分かった…任せておけよ…」
こんな言葉を掛けたけど今のバードさんのことを考えると当てにはできない。自分ひとりでこの子を止めないといけない…いや…この召喚獣を倒さないといけない。
右手の肩には一発だけ弾丸が入っているライフル、左手にはマグナムを手に持ち龍を見上げた。首輪には微かにひびが入っている。ランスを構えた龍は雄たけびと共に歩み寄り、それに対して僕も飛び込んで行った。
