複雑・ファジー小説
- Re: ある暗殺者と錬金術師の物語(1/14 本編追加) ( No.74 )
- 日時: 2015/01/23 12:21
- 名前: 鮭 (ID: n9Gv7s5I)
第35話
龍が持つランスはまっすぐとシンに向かって来た。それに対してシンは軽く飛んで地面に突き刺さったランスの上に着地しそのままランスを駆け上がりライフルを片手に構えて発砲した。その弾丸は首輪に命中し怯んだ様子を確認するとすぐにマグナムを構え怯んだ龍の頭に発砲し地面に着地した。
「まだ…足りませんね…」
「俺のサポート必要だったか?」
「一応…むしろ…ようやく本気みたいですよ…」
シンの言葉と共にバードが龍に視線を向けてようやくシンの言っている意味が分かった。黒いランスはより毒々しく光り始め、黒い肌は白と青が混ざり始めていた。
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「何だよ…これ…」
「恐らく…融合が不完全だったのでしょう…そして今…完全に融合が済んだのでしょう…」
シンはライフルに弾丸を込め、ようやく体の感覚が戻ってきたバードも大剣を構え直した。ほぼ万全な状態だった二人あったが次の瞬間龍の姿が消えた。
それを認識した時バードは反射的に大剣を横に構えると龍のランスを受け止める形になった。
「くっ…防ぎきれない…」
一歩遅れて龍を確認したシンはその場にしゃがみバードの足を払いその場に転倒させ、押さえつけていたランスはそのまま横薙ぎに空を切った。転倒したバードはすぐに立ち上がり次の攻撃に備えると龍は今までよりも遥かに早くランスを振り上げていた。
「シン!」
「分かっています」
互いに言葉を掛け合い後ろに大きく飛び、ランスが地面に突き刺さった時二人が確認したのはその衝撃で地面に大きなひびが入ったこと。そして地面から突き出て来たいくつもの氷の氷柱が自分達に迫ってくる様子。運よく大剣でそれを受け止めて着地したバードはシンに視線を向けた。
「シン!?だいじょ…お前…」
バードが見たのは膝を折って片膝をついたシンの姿だった。シンの方に突きだされていた氷柱の数は、今自分が受け止めた数の倍はあることを確認しすぐにバードは駆け寄った。両肩には攻撃をかすった後があり左の二の腕、右足には避けきれなかった氷柱の先端が刺さっていた。さらに最悪なのはその刺さった箇所がすでに黒く変色し壊死し始めていたことだった。
「すみません…すぐに…」
「ばかやろう!下がっていろ…凍傷の最悪な状態だぞ!」
立ち上がろうとするシンに対して珍しく怒鳴り龍に一度視線を向けた。再びランスを振り上げた様子を見るとバードはシンを抱き上げてそのまま龍に背を向けて距離を取った。痛々しく傷ついたシンの手足を見たバードは表情を歪めて一軒の民家に入った。当然そのままだとすぐに場余がばれることから民家の窓を利用して龍の視界外を移動して居場所が分からないようにした。
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「とりあえず…見失ってくれたみたいだな…」
「ええ…すみ…ません…」
意識が朦朧とする中でバードさんはどこかの民家に入り壁に背を預ける形で座らされ、バードさんは窓から外の様子を伺っていた。腕と足には殆ど感覚がなく今の状況がもどかしかった。凍傷は進むと切断と聞いたことがあった。ここまで進んでいると正直覚悟がいるかもしれない…。
「参ったな…正直…きついな…」
「今の僕は…足手まとい…です…だから…」
「なんだよ?置いていけとか言わないよな?散々こき使ったんだ。楽するんじゃねえよ」
言葉を遮られ正直驚いた。こういう状況になると何故かバードさんが頼もしく見えた。まあ贅沢を言えばこういう時くらいは労わって欲しいものです…。まあその配慮の足りなさがバードさんらしい。
「とはいえ…まともに突っ込んでも何一つ勝てないぞ…」
「そんなことありませんよ…1対2の状況を…利用しましょう…」
そう言って取り出したのは一発の銃弾。まだ辛うじて動かせる腕でその銃弾をライフルに込めていった。この一発とマグナムの一発。それが僕の残った弾数だった。
「何だその銃弾?今までと違うのか?」
「カグヤさんの…特別製…だそうです…。威力が…高いから…気を…付けるように…言われていましたが…もうこれしかありませんから…」
「ならついでにこれを渡しておくか…ほら…今の状態なら使いやすいだろ?」
そう言って差し出してきたのは普段バードさんが使う銃だった。自動拳銃でマガジンを入れて使う形の銃。正直あまり使っている様子がなかったけどこうして見てしっかりと手入れが行き届いていることに驚いた。
「さて…次で勝負を決めないとな…」
「ええ…では僕が…」
「囮は俺がやる。旅の出発がこれ以上遅れないようにな」
「バード…さん…?」
再び言葉を遮られて驚いていると大剣と帯剣を構えたままバードさんは窓から飛び出した。体をよろけさせたまま窓から外を見るとバードさんが龍に向かって飛び込んで行く姿が見えた。
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何故かバードはシンの声が聞こえた気がした。龍はバードに視線を向けるなりランスを構え直した。
————さっさと倒して安心させてやるか
走っていくバードは龍の体がバチバチと電気のようなものを帯びている様子を確認した。次の瞬間起こることが分かっていたバードはすぐに振り返り飛び込むとその先にいたのは先ほどまでバードの正面にいた龍の姿だった。後ろに回り込んだと考えていたと思われる龍は驚いたのか行動が遅れバードの大剣による突きが首輪に命中した。
「こんなもんじゃ倒せないか…」
すぐに着地したバードは転身して龍から距離を取りそれと共に先までバードがいた位置にランスが突き刺さり先と同様にしかし遥かに多い氷柱が地面から次々と突き出てバードに向かっていった。
「それはもう見せてもらったぜ」
十分距離を取ったバードは地面に力いっぱいに大剣を突き刺しその衝撃で迫ってくる氷柱は動きを止めた。元々バードの防御力が高いというのは体の頑丈さだけを言うわけではなかった。相手の攻撃パターンを観察し同じ攻撃にはすぐに対応する適応力に関しては他の組織の人間達にも劣らない。
「さて…次は何をしてくるんだ?」
2本の剣を構えるバードに対して龍は再び体に電気を帯びさせ始めた。この変化は龍が高速で移動する前触れで所見ではそれを理解した頃にはやられているのが普通だった。
「この距離でも使えるのかよ!」
すぐにその場を移動しようとしたバードは一つの仮説が頭に浮かびそのまま前に飛び込んだ。次の瞬間龍は目の前に現れてそのまま大剣を振り下ろすと黒の首輪にちょうど良く命中した。その衝撃で龍はさらに一歩下がった。
「やっぱりそうか…」
バードが気付いたのは移動の法則だった。高速移動は直線状にしか移動できず距離も決まっていること、そしてその方向は龍の視線に寄ってきますことが分かった。当然確信していたわけではなく勘で動いた面もあった。しっかりと大剣が首輪に命中したことにより龍は一歩下がりそれに合わせるように首輪に銃弾が命中して首輪の宝玉が一部砕け散った。
「あと一撃か…これで…」
帯剣を逆手に持ったバードは首輪に向けて投げつけた。その剣は首輪に突き刺さり片膝をついた。さらに追撃と大剣を構えて飛び込もうとした時、龍は大きな咆哮を上げるとその衝撃で後方に吹き飛ばされた。
「しまった…体が…」
不意な衝撃波でかわすことが出来なかったバードは地面に仰向けで倒れ体がしびれて身動きが取れずにいた。最初にバードが受けたのもこの咆哮で一瞬の気の緩みがバードの回避の判断を遅らせ避けきれずに倒れてしまうことになった。その状態で龍が再び大剣を振り上げた時一発の銃声がバードの耳に届いた。バードがその銃声の元を確認しようと後ろを向くとそこにいたのは動けないと思っていたシンだった。
「シン!?何やっているんだよ!」
「サポートすると言いましたから…」
その一言と共にライフルを構えたシンは怯んでいる龍に向けて発砲した。シンはその反動で後ろに倒れライフルの弾丸はまっすぐ首輪に命中してそれを砕いた。
「やった…のか…?」
しびれた体を引きずりながらシンに近づいたバードは意識を失っている様子を確認し安心したように隣に座りこんだ。
「驚かすなよ…まったく…この小さい体のどこにこんな力があるんだよ…」
すっかり安心しきったバードは視線を竜に向けて硬直した。龍は苦しそうな素振りを見せながらもまだ倒れてはいなかった。
「後一押しだな…待っていろよ?」
完全でないもののふらついたまま立ち上がるバードは大剣を構え直した。バード同様に満身創痍な龍は形振り構わずに咆哮を上げてからランスを構え互いに対峙した。