複雑・ファジー小説

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.77 )
日時: 2015/01/31 14:23
名前: 鮭 (ID: Y9aigq0B)

第37話

「そろそろ行く…」

時間にして数分、シンはバードを抱きしめたままその場を離れようとしなかった。このまま立ち去ることもできたマナであったがなくなった人間からの願いを無碍にするのは今のマナにはできなかった。仕方なく二人を見つめていたマナはシンの腕や足の具合を確認してから手を引いて無理矢理立たせた。

「うっ…なっ…なんですか!」
「もう行く…弔わないと…」

マナの言葉でシンは自分の表情が崩れてしまっていることに気付き涙を拭きいつものように表情を無表情にした。その様子を見たマナは小さくため息をし、バードの亡骸を肩に乗せそのまま街の外に向かって歩き始めた。
そんな中でシンは足を引きづり付いてきた。

「あなたは来る?この人の弔い…」
「はい…」
「その足と手…処置しないと切断…」
「構いません…」

躊躇することなく答えていくシンにマナは内心驚きながら街の外へと歩いていった。

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「いい加減…倒れてほしいわね…」
「ムリダ…」
「なら…」

街の人間を逃がす為に襲撃してきたGと一騎打ちを挑み抑えている形だった。
魔力をローラーブレードに通わせたカグヤは再びGへと向かって飛び込んだ。ローラーブレードによってカグヤの移動速度は大幅に上がり簡単にGの後ろを取った。それと共にローラーブレードでとび蹴りを放った。

「これでどうよ!」

とび蹴りに対しGはすぐに振り返り振り返りざまに右手で蹴りを横から弾いた。バランスを崩したカグヤを見るとGはそのままの勢いで左腕から拳を放つ。

「…っ!」

すぐにカグヤは左足を畳みローラーブレードで拳を受け止めた。本来魔力が通ったカグヤのローラーブレードに素手で触れるのは不可能に近い。しかしGは全く関係なく攻撃を受け止めたカグヤの体を吹き飛ばし、そのまま民家の2階のベランダへと吹き飛び壁に叩きつけられる形となった。

「いたた…。もう!何なのあいつ!」

体に付いた埃を叩いて落として立ち上がるとGはカグヤに視線を向けたままその場を動こうとはしなかった。

————誘導は一応成功か…

建前上の目的は達成できたもののすぐに片付けるつもりでいたカグヤにとっては不満が残るものだった。ベランダの手摺に手を掛け再び下に下りたカグヤはその場で身構えてある違和感に気付いた。

「そういえば…あんた…全然動かないわね…どういうつもりよ?」
「ヒツヨウ…ナイ…」

突然Gの右腕が微かに光り、それが魔力によるものだとカグヤが認識した時、咄嗟に片手を翳し魔力を用いた半透明の障壁を作り出した。障壁越しにカグヤが見たのはGが腕を振り上げる姿でそれと共に強い衝撃がカグヤを襲った。障壁はガラス細工のように簡単に砕け散りそのまま民家に叩きつけられた。

「けほ…何なのよ…あいつ…」

土煙越しに見えるのはゆっくりとした足取りで歩み寄ってくるGの姿だった。すぐに起き上がったカグヤは地面を強く蹴り一気に距離を詰めた。しかし突然の横からの衝撃に目を見開いた

「かは…!?」

カグヤが確認したのは拳を突きだそうとして空いた隙へと的確に放たれたGの蹴りだった。その衝撃で地面へと転がり落ちた。

「くっ…やってくれるわ…」
「ヒケ…オマエデハ…カテナイ…」
「言ってくれるわね!なら…そろそろ…本気で行くわよ」

魔力を両腕に集中させたカグヤはGに視線を向けた。その眼には嫌悪に満ちており右手を後ろに引く形で身構えた。

「本当に…何から何まで…私の…技ばかり!!」

後ろに引いた腕を振り上げたカグヤがそのまま勢いよく振り下ろした時Gの右斜め上から4本の衝撃波が発生しGを襲った。

「グッ!?」
「まだよ!」

そのまま左手を今度は横薙ぎに振るうと今度はGの左から4本の赤い軌跡を映しその衝撃がGに直撃した。

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「魔力の具現化?」

フィオ姉が私に教えてくれたのは魔力の操作の仕方だった。フィオ姉と違い完全な魔道士でない私には魔力が限られていることからその限られた魔力を有効に使わないといけない。それがフィオ姉からの教えだった。

「魔力はね?ある意味では命そのものなのだから完全に0にはならなくて大体8割くらい使うと打ち止めになるの」
「それと魔力の具現化に何が関係あるんです?」
「うーん…説明するより実践が一番かな。あの木をいつもみたいに攻撃してみて」

フィオ姉が何を押したかったのか分からなかった私は言われるがままに腕に魔力を集中させその拳を大木にぶつけその衝撃で木が倒れていく様子を確認した。

「これでいいの?」
「うん。ただこのままだと魔力の消費が大きいかな。カグヤちゃんなら今の半分も使わずに倒せるはずだよ」
「うそ?でも…今のでも殆ど魔力を込めていないのに…」
「もう一度手に魔力を込めて見て」

フィオ姉の言葉が理解できず再び拳を握り締め魔力を腕に込めた。そしてそのまま手に魔力をより高めようとした時…

「はい!そのまま!」
「えっ?でもこのままだと…」
「そう…このまま魔力を上げていくことによって余計にカグヤちゃんは魔力を使っているの」

フィオ姉の話を聞きなんとなく言いたいことが分かった。つまり私の一撃一撃には余計な魔力が消費掛っているということのようだ。

「それじゃあ…どうした方がいいんです?」
「そこで具現化よ。これは魔力をイメージした形にするの。例えば剣のような武器、矢や銃弾のような使い捨ての武器にもなるの」
「結構いろいろ使い道があるんだ…でもそれがどうして魔力節約になるんです?」
「それはね…」

フィオ姉は私がいつもやるように魔力を集中させた。それと共に腕を横に振ると大木に4本の爪跡が残った。

「こんなところかな…カグヤちゃんはブーストさせる形で魔力を使っていたのに対して今回はその魔力を使ってより広範囲な攻撃が出来るの」
「でもそんなことしたら魔力がさらに使うんじゃ…」
「具現化の便利な部分は消費した魔力だけ強くなること。そして具現化した者が破壊されない限り魔力を消費しないことなの。まあ理論はいいよ。まずは頭に攻撃のイメージを生み出すことだよ」

正直よく分からなかったけど要は破られない限り魔力消費を抑えて攻撃できるってことだと認識した。

「あれ?でも今フィオ姉は何を具現化したの?」
「ふふ…今具現化したのはね…————」

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「ナンダ…イマノハ…」

Gが見たのはカグヤの両手が淡く光り続けゆっくりと右手を振り上げていく姿だった。

「知る必要はないわ…今…吹き飛ばすから…」

そのまま腕を勢いよく振り下ろすとそれに合わせて赤い4本の軌跡がGに命中しそのまま腕を動かすたびに赤い閃光がGに命中していき片膝をついたGの姿を確認するとそれに合わせて再度腕を振り下ろし赤い閃光がGに直撃した。

「これで…」
「なかなか進まないと思ったが…邪魔ものがいたか」

ゾクッとした寒気にカグヤは思わず振り向きながら回し蹴りを放った。しかしその蹴りは空を切りカグヤの眼に入ったのは黒いローブに身を包んだ人物だった。

「何…あんた…」
「俺はJ…まさか俺の傑作品のGをここまで追い込むか…」
「J?あんたもあいつの仲間ってわけ!?」
「しかし面白い技だな。まさか攻撃その物を具現化するとはな」
「えっ…?」
「体を動かすことで思い描いた位置に攻撃できるのだろう?普通の魔術と変わらないようだが威力は高く攻撃範囲も視界内。一番の利点は魔力を消費しないことだな」

的確に自分の術を説明していくJにカグヤは眼を見開いた。実践でこの術を使ったのは今回が初めてということからたった一度の使用で攻撃を読まれてしまったことがカグヤに危機感を与えた。
そんな中でJは片手を軽く下に振り下ろす。その時カグヤの眼に入ったのはボロボロになり地面に倒れたGの姿だった。

「えっ?だって…そいつは…」
「こいつは俺の傑作品だと言っただろ?そしてこいつはまだ力を出し切っていないぞ」

その言葉と共にGの体は禍々しく光り始めてゆっくりと立ち上がった。それに合わせてカグヤは距離を取り身構えた。