複雑・ファジー小説

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.78 )
日時: 2015/02/04 20:45
名前: 鮭 (ID: Y9aigq0B)

第38話

「本気じゃない?やられた言い訳のつもり?」
「言い訳ではないぞ。少し操作すればな」

Jの言葉には笑みのようなものを感じ正直気分がいいものではない…
そんなことを考えているとJはGに向けて指さしその指の先端には手のひらサイズの小さな魔法陣が浮かび上がりそれがゆっくりとGの頭部に向かっていきその魔法陣を受けた時ただでさえ禍々しかった雰囲気に拍車が掛ってもう人間とさえも思えなくなった。

「いまGに掛けていたリミッターを外した」
「リミッター…?」
「こいつは力が強すぎる上に自我も薄くてな…以前も放置したら村を際限なく破壊したんだ。だから普段は俺が力を抑えているんだ」

その言葉の正しさを示すようにGは腕を横に振るうとその衝撃が民家に直撃し壁に穴が開くのが確認できた。自分の力加減とは違い力だったようでGは指をパキパキと鳴らして私に視線を向けた。

「G…まだ仕事はあるんだ。あまり遊びすぎるなよ」

Jはその言葉を残しその場を離れようとした。本来は安心すべきことなのかもしれない。ただ私には一つの嫌な予感が頭をよぎった。

「ちょっと…どこに行くつもりよ!?」
「決まっているだろ…逃げようとしている奴らを処理しないとな」
「ちょっと!まち…っ!?」

Jを追いかけようとして遮ったのはGの蹴りだった。咄嗟に腕を出してその攻撃をガードするもその威力に堪えることが出来ずに気がついたら民家に叩きつけられていた。

「いたた…この!」

視線を再びJに向けようとした時にはその姿はなく代わりに映ったのはGが腕に魔力を集中させている動作だった。そしてその動きからGが何をしようとしているか理解できた。

「嘘!冗談じゃないわよ!」

すぐに立ち上がった私は腕に魔力を集中させ、Gが腕を勢いよく振り下ろした時、赤黒い閃光の軌跡が眼に映り、それに合わせるように私も腕を振り上げて魔力の爪を生み出し相殺した。

「こいつ…まさか…」
「ワタシハ…イチド…ワザヲミレバ…ツカエル…ヨリ…タカイ…イリョクデ…」

その言葉と共に腕を横に振ったGの動作と共に横から感じる衝撃波に倒れてしまった。
現状こいつは魔力を使った肉体強化、腕を振ることで生み出す衝撃波、そして私の使った魔力の爪が武器。しかもどれも私では防御しきれない攻撃。

「気に入らないけど…総合的には勝てないわね…だったら!」

腰に納めていたマシンピストルを構えすぐにオート連射で発砲した。その間にGは片手を前に出し半透明の魔力の壁を作り出しており弾丸を防御した。

「障壁まで?なら…これならどう!」

銃を連射したまま魔力を集中させ銃に纏わせた。それに合わせて銃から放たれるようになったのは淡く光る弾丸。それは障壁に命中するとそれを砕きG本人に命中させた。多少のダメージはあると思ったけど全く堪えている様子もなかった。

「なんなのよ…銃弾も効かないなんて」
「ボウギョハ…ソシキデ…イチバン…コノテイド…キカナイ」
「要は一番倒すのが大変ってわけね…まったく…これが所謂貧乏くじってわけね!」

銃を腰に戻したカグヤは地面を強く蹴り飛び込んだ。当然その動きを予測していたGは横からその長い脚で蹴りを放ちそれを素早くしゃがんで避け、その間に両手に魔力を込めていたカグヤは腕を横に縦にと腕を何度も振るいその間にもGをいくつもの赤い閃光が走り続け怯んだように後ろに一歩下がった。

「これで!いい加減倒れなさい!」

とどめとローラーブレードに魔力を込め放った蹴りはGの腹部に命中してその衝撃で地面に足を付けたまま吹き飛んだ。それでも地面に倒れる様子もなく攻撃が命中した個所も傷一つ付いているようには見えなかった

「オワリ…カ?」
「参ったわね…私の火力じゃ傷さえも付けられないんだ…」

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「これで…ようやく全員ですね…」

住民たちの避難に集中したことによりリンクはようやく全員の避難を完了させることが出来た。

「リンクさん?」
「サクヤさん。大丈夫したか?」
「はい…カグヤちゃんやキル達は?」
「分かりません…ただ今からカグヤさんの加勢に行きます」

避難してきたサクヤにリンクはここまでに起こったことを簡単に説明していった。最も彼が知っているのはカグヤが足止めをしてえくれたことだけで他のことは知らなかった。

「では…皆さんにはここを動かないようにお願いします」
「はい…分かりました。リンクさんも気を付けてください」

サクヤの言葉を聞きすぐにリンクは街へと引き返し始めた。引き返すつもりだった。目の前に黒いローブに身を包んだ人物が現れるまでは。

「こんなところにいたのか」
「貴方は…」
「Jだ・今回の参謀の役目をさせてもらっている」

街へと向かう足をすぐに止め、後ろに一度視線を向け避難民から離れていることを確認した。その間にリンクの問いかけに答えながら片手を前に出したJの腕が赤く光った時それに合わせてリンクの周辺は炎に包まれた。

「これは!?」
「とりあえず…お前には犠牲者第2号になってもらおう」
「第2?」

リンクが疑問を感じるとともにリンクを包む炎は竜巻のように辺りを熱風で包み込んだ。

「んっ?まだ…面倒な奴がいたか…」

Jが呟くと共にリンクは炎の竜巻を突き抜けてレイピアを持つ手を引くとそのままJに向かい目にも止まらぬ突きをいくつも繰り出した。

「惜しいな…相手が俺でなければな」

突きが当たろうとした時リンクの腕を掴んでとめたJはそのままリンクを投げて木に叩きつけた。

「くっ…」
「悪いがもうお前の負けだ」
「まだ…うっ…」

Jの言葉と共にリンクは体に感じる虚脱感で立ち上がれなくなった。それと共にリンクが見たのは自分の腕から何か淡い緑の光がJに向かい流れ込む様子が見えた。


「こ…れは…」
「見えているのか?魔力の流れを」
「何を…」
「俺は触れたものの魔力を奪う能力がある。もうお前には手を出さなくていいだろう」

リンクが最後に聞こえたのはJの言葉とその場を立ち去っていく足音だった。

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「あぐ!」

壁に叩きつけられたカグヤは体の痛みを堪えて立ち上がった。たび重なる攻撃を受け続けたことでメガネには罅が入り視界の悪化に繋がると判断しメガネを外した。

「後で弁償してもらうわよ!」

そのまま腕を振り下ろすことで放たれた赤い閃光はGに直撃するもまったく応えておらず、逆にGの腕を振り上げることで放たれる衝撃波で地面に倒れた。

「ソロソロ…アキタ…オワリ…スル」

カグヤがGに視線を向けた時衝撃波が自分に向かって来る様子が見えた。すぐに回避と考えながらも体はすぐに動かせず直撃を覚悟した。
その時一閃の光が地面に突き刺さり衝撃が二つに割れる様子と綺麗にカグヤを避けていくように通過した。その後に二人が見たのは地面に突き刺さった一本の槍だった。青の柄に銀色の刃というシンプルな槍でカグヤにとっては初めて見るものだった。

「いくらなんでも無茶のしすぎだ…カグヤ」
「…うるさいわね…大体来るのが遅いのよ…」

その言葉と共に槍は光りに包まれて槍は姿を消し持ち主の元に戻った。

「オマエハ…」
「僕はフラン…お前には悪いが…この戦い…続きは僕が戦うよ」

槍をくるくると回して構えたフランはGに視線を向けた。いきなり男場に当然納得がいかないカグヤはすぐに立ち上がった。

「ちょっと!待ってよ!こいつは!」
「すまない…こいつには聞きたいこともある…それに避難している人も助けてあげてくれ」

自分が近づくと多少なりとも反応を示すフランがまったく動揺しない様子からカグヤは一度ため息を漏らした。何を言っても許してくれないだろうと判断したカグヤはバシッとフランの背中を叩いた。

「だったら瞬殺してさっさと手伝いに来なさい!」
「分かった…」

すでにG に集中している様子のフランに力なく笑いそのまま避難民のいる集合地へと向かいカグヤはローラーブレードを走らせた。