複雑・ファジー小説

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.79 )
日時: 2015/02/10 18:49
名前: 鮭 (ID: Y9aigq0B)

白騎士編

「ねえリオン…そろそろお腹空いたよ…」
「またか…さっき昼を食べたばかりだろ…俺の分まで食べただろ…」
「あれだけじゃあ成長期の女の子には足りないの!」

リオンと呼ばれる少年は白い甲冑に身を包んだ蒼髪の大人びた雰囲気を感じさせる。そんなリオンは呆れたように少女に視線を向けた。少女は少年とは違い動き安さを重視した軽装の鎧に身を包み金髪の長髪が特徴的な少女は喋らなければ幼さを残しながらもそれなりな騎士と見えているかもしれなかった。

「レミ…お前卒業式前にダイエットするとか言ってなかったか?」
「私くらいの年はそういうのは却って体に悪いってフィオナが言っていたの!フィオナみたいになるなら今からしっかり栄養を取らないとね!」

リオンは学生時代の友人をこの時ばかりは恨んだ。

「余計なことを…」

二人は先日魔法学校を卒業して騎士となるリオンは挨拶ということで生まれ故郷の村に向かっていた。
一応学校の宿舎にいる間に蓄えていた資金はあったが村までの旅の期間を考えた場合レミに合わせて食事を繰り返していた場合すぐに資金不足になるのが目に見えていた。

「はあ…こうなったら到着したらお腹いっぱい御飯を食べるからね」
「勝手にしろ…到着すれば資金の心配もいらないからな…」

広い草原の道なき道を歩いていきながらため息を漏らすレオンに対してレミは鼻歌交じりに歩いていたが二人にとってはこの状態の旅がごく普通のものだった。

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「リオン!焼けたよ」

夜になり俺とレミは水辺となる川辺を見つけてそこを今夜の野宿の場所に決めた。たき火で串に刺さった魚を焼きそれを挟んで向き合う形で俺達は転がっていた石に座り、魚の焼き具合を見たレミが話しかけて来た。

「ああ…しかし…よくこんなに獲ったな…」
「学校でもらったあの子のおかげだよ。ディキは魚を獲るのが得意みたい!」
「まったく…変な才能を見つけるのは本当に得意だな…」
「変なじゃないよ!生物の個々には必ずだれにも負けない才能があって…」
「分かった分かった…」

ディキはレミが魔法学校の卒業記念にもらった召喚獣で主に肉弾戦を得意としていた。それだけに意外な才能に感心してしまった。レミは卒業前から召喚獣という者に興味があり様々な召喚獣と契約とまでは行かずとも言葉を交し合うということはできていた。そういう意味では扱いが難しいと言われる今回の召喚獣もしっかりと自分のものにしていた。

「明日は山越えだな…」
「あの山かぁ…最近は魔物に盗賊がたくさん出るらしいから大変そう…」
「だからあそこは基本休みなしで一気に通過していくからな」
「ええ!?」
「分かったらさっさと寝るんだな…」
「って!どこ行くの?」
「俺はあっちで寝る…見張りもいるだろ…」
「たまには一緒に寝ようよ」

年頃のはずの女が言うセリフには思えずため息を漏らして俺は黙って手をひらひらと振ってその場を立ち去った。
去り際にレミがないか言っているようだったが特に歩みを止めることもなくその場を立ち去った。

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二人が今歩いていたのは村に向かうために越えなければならない山の登山口だった。昔は様々な鉱石が取れていたということだったが現在はすっかり寂れてしまい所々にある木々が生えているだけで他はボロボロの岩ばかりが転がっている荒れた状態だった。

「ここかぁ…」
「今から登れば明日には超えられるだろ…さっさと行くぞ…」
「えー…」

レミの言葉に特に答えることなくリオンは山へと足を踏み入れ始めた。




「ねえリオン…」
「黙って歩け…」

細い山道を歩いているとレミは周辺から感じる気配に辺りを見ないようにしてリオンに話しかけたが前を歩くリオンは特に何かを言うこともなく歩き続けた。崖に挟まれた細い道にまでやって来るとリオンは足を止めた。

「ここでいいだろ…」
「なるほどね…そういうことね」

リオンの意図が分かったレミはリオンに対して背を向けて背中合わせの状態で二人は剣を抜いたそれに合わせるように細い道の出入り口を塞ぐように男達が現れた。

「盗賊だな…」
「おまけに…それなりにやるみたいだね…まあ…襲う相手を間違えたよね」

逆手に腰に下げた2本の剣に手を掛けたレミはそのまま抜いてくるりと剣を回転させ持ち替えた。それに合わせてリオンも背中の大剣を引き抜いた。

「こらー!!あんたら何しているのよ!?」

突然の大声にリオンとレミは声の主がいると思われる頭上を見上げた。
すぐに目に付いたのは特徴的な栗色の髪の少女だった。小柄な身長に髪は短髪でタンクトップの上に黒のジャケット、下は白の短パンに黒のブーツを履いていた如何にも盗賊という服装だった。

「何だあいつ?こいつらの仲間か?」
「でも…違うみたいだよ?」

突然の乱入者に困惑する二人に対して周りの男達は特に応じる様子を見せなかった。

「なんだセレナ?たった二人の盗賊団がまた縄張り争いかよ?」
「うっさい!大体ここは私達のエリアでしょ!」

セレナと呼ばれた少女は盗賊達のボスと思われる他の盗賊達よりも重装備な鎧と巨大な斧を持つ男に喧嘩腰に話していく。

「これって…縄張り争い?」
「そのようだな…付き合う必要もない…行くぞ…」

盗賊団の争いに興味がないリオンは無視をして進行方向にいる下級と思われる5人の盗賊の男達に歩み寄っていった。

「逃がすな!やっちまえ!」

その言葉がと共に2つのことが同時に起こった。リオンの前にいる5人は倒れいつの間にかリオンを追い抜いて剣を納めるレミと逆側では盗賊のボスが倒れそのすぐ後ろには先ほどまで崖の上にいたセレナが立っていた。その手に握られていたのは黒い片手剣だった。

「さっさと出て行きなさい。次は本気で斬るわよ」

倒れていた盗賊のボスは自慢の斧を破壊された状態であるものの息はまだあり残った部下達が男を連れてそのまま逃げて行った。レミが倒した盗賊達も仲間を追いかけるようにその場を立ち去った。

「あの子強いねぇ…」
「そうだな…単純な早さならお前くらいかもな」
「ええ…そんなことないよ…」

二人が会話している間にセレナは片手剣を腰に下げた鞘に納めて歩み寄った。

「ごめんねえ。巻き込んじゃったよね」
「気にするな。特に被害があった訳ではないからな…」

二人の様子を見たセレナは安堵の表情を浮かべた。盗賊達の口ぶりから彼女も盗賊だと考えていた二人だったがここまでの様子や行動からはそのように見えなかった。

「さて…二人はこの山にどんな用なの?」
「何の用も何もただ通りたかったの。この山を越えた場所に用事があるからね」
「ふーん…近道教えてあげようか?」
「近道?そんなものがあるのか?」

この山に近道があるということが分からなかった二人は当然のことのようにセレナの言葉を疑った。

「ああ…まずは自己紹介しないとね。私は義賊「」のお頭を務めているセレナ。残念だけど二人は私達の獲物の条件に当てはまらないから大丈夫よ!」
「お頭!?」
「そう!貴女はいい反応してくれるね!」

自己紹介に対して一番驚くべき部分で反応を示したのはレミだった。そのリアクションに満足そうに頷いたセレナはレミの肩をポンポンと叩いた。

「ただで教えてもらうのが嫌なら…勝負する?それで私が負けたら教えてあげる」
「おもしろいかもね…あなたとは単純に腕試ししてみたいもの」

セレナの申し出にレミは笑顔を浮かべて腰に納めた2本の剣を抜いた。当然セレナも片手剣を抜きその黒い刃が煌めいた。そんな二人の様子にリオンはため息を漏らした。

「やるのはいいがもう少し広い場所でしたらどうだ?」

そう言い残し崖に挟まれた道を上っていく中二人は壁を蹴りながらリオンを追い抜き開けた場所までやって来るとそれぞれ剣を構えた。