複雑・ファジー小説
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.8 )
- 日時: 2014/06/24 16:50
- 名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)
第7話
キルが私達の家に通うようになって一週間。
今日は私が買い物係。
それといつもより買う物が多いからということで、お姉ちゃんに荷物持ちとして一緒に行くように言われて渋々付いてきたこいつ。
「ちょっとキル?早くしなさいよ」
「お前は歩いてないから早いんだろ。足に変なもの付けてないで歩けよ」
「変なものじゃないわよ!ローラーブレードよ!しかも私の魔力に反応して…」
「分かった分かった。もう何度も聞いた。」
聞いていたってどう考えてもあの時は寝ているようにしか見えなかったけど…なんて言うのも面倒。
私のこの装備は自作したもので、私自身の魔力に反応してスピード調節も可能な特注品。
最近は外を歩くのもこれじゃないとなんだか物足りなさを感じるほど馴染んでいる。
市場に到着して必要な食材を買ってはキルに渡すという行動を繰り返し、ようやく最後の品物を買い終えた頃にはすっかりお昼時で人もぞろぞろと集まり始め、飲食店はどこも繁盛していた。
「はい。カグヤちゃん。それとおつりだよ」
「ありがとおばさん。」
私は購入した瓶入りのミルクを一本キルに向かって投げて、片手でキャッチしたキルを見てから会計を済ませた。
「手伝いをさせられてその報酬がミルクだけかよ」
「何言っているのよ。私と一緒に買い物の時点で十分な報酬でしょ?」
「罰ゲームの間違いだろ。」
「なんですって!」
さっさとミルクと荷物を入れた紙袋を持ったまま歩いて行ってしまうキルに対して空しく私の声が響いた。
キルはこの一週間でずいぶん変わった気がする。
表情も幾分柔らかくなったし口数も多少増えたかしら?というより今まで足りなかった物が補われた感じ?
最近はなんだか口喧嘩が成立しているだけで驚いている。
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帰路に着くために市場を歩く二人の前に人が集まり道を塞いでいた。
カグヤはため息をしてキルも人ごみに視線を向けて様子を探った。
「なんだ?また何かあったか?」
「喧嘩みたいね」
人ごみを抜けていき、二人の目に入ったのは5人に囲まれた少年と女の子の姿だった。
白銀の短髪でライトグリーンの瞳が印象的で10代後半くらいの風貌。薄い水色のコートの中には黒のジャケットにズボンで腰には刀を下げている。
「何かあったのか?」
「あの子が子どもを助けたんだよ」
キルの言葉に隣にいた男が説明した。
話によるとゴロツキとぶつかって絡まれている女の子を少年が庇ったということだった。
「ちょっとキル助けた方がいいんじゃない?」
「いや…必要ないだろ。」
「必要ない?」
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キルの言う意味が私には分からなかった。囲まれた状況に加えて女の子を庇う様子はどう考えても不利に見えた。
「それで?どうしても見逃してくれない?」
少年の楽しげそうに聞こえる声を聞き、ゴロツキ達の内の一人が棍棒を振り下ろした。
その瞬間、右手で子どもを庇いながら腰にある刀を鞘に納めたまま掴み、振り上げることで棍棒を叩き落とし、そのまま重力に任せて鞘から抜け落ちてきた刀を右手で抜き、男の腹部に剣閃が走った。
「斬ってはいないから安心しろよ」
刀と鞘をそれぞれ持ったまま倒れる男に言い放つ少年を見て、ようやく私はキルの言葉の意味が分かった。
彼はゴロツキよりも圧倒的に強かった。
当然のように残った男達も立ち向かうも、鞘と刀で的確に一撃を入れて倒していった。
「後はあんただけだな。どうする?」
残った男が後ずさりし周りを見回す中、不意に私と眼が合い、その瞬間男が私に向かって来た。
(人質にでもしようとしているのかな。)
と考えながらローラーブレードに魔力を込めた。
男が手を伸ばしてきたところでその手を横に避けつつ腹部に一撃拳を入れて、怯んだ所で魔力を込めたことでブーストされた蹴りで足を払い転ばせた。
気絶をしているところを見るとちょっと強すぎたかしら?
「ちょっとキル…。わざと助けなかったでしょ?」
「必要ないだろ?その気になればお前一人でもあいつらを倒せるだろ」
「どこまで本気なのかしら…。というより…ちょっとあんた!何見逃しているのよ!…あれ?」
怒りの矛先を変えようとしたところで私は唖然としてしまった。
そこには、先ほどの少年がゴロツキの男たちと一緒に眼を回して倒れていた。