複雑・ファジー小説
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.9 )
- 日時: 2014/06/24 16:56
- 名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)
第8話
「いや〜本当に助かった!」
「1週間も何も食べてないなんて信じられない奴」
街で眼を回したまま倒れた銀髪の少年を連れてきて原因を見れば、単なる空腹の限界だったということで本人の希望から白米をお昼にしていた。
「それにしても白米なんて久しぶり」
「白米は滅多に出回らないもんね」
キルが今日の荷物持ちに選ばれた理由はまさにこの重い白米を運ぶためだった。
サクヤとリーネの話を聞きながら、キルはすでに食べ終えた茶碗を流しに運んだ。
「それで?俺はまだお前の名前を聞いてないぞ」
キルの問いかけに対し、隣で家事をこなしているカグヤも視線を少年に向けた。
「そうだった。俺はジン・ヴァンド。旅の剣士だ」
「すごーい。どのくらい旅をしているのかしら?」
ジンの話に興味深い様子で、サクヤの問いかけに続くようにリーネも話を聞こうとしていた。
キルも多少興味があったのか視線をジンに向けていた。
「興味があるなら行ったら?後は私が片付けておくわよ」
「いいのか?今日は俺が片付けだろ?」
「いいのよ。どうせ興味ないし今度変わってもらうから」
「じゃあ悪いがよろしくな」
食器をまとめてからキルは席に着き、聞きそびれた質問を繰り返した。
「それでどのくらい旅をしているんだって?」
「10歳のときに旅に出て…それから6年だよ」
「16でそんなに刀を使いこなしているのか…」
キルは驚いたような口ぶりで話し、その様子を珍しく感じたサクヤは首を傾げた。
「そんなに珍しいことなの?」
「ああ。刀を使いこなすにはなかなかの修練が必要だと聞いたな。よほどいい師匠でもいたんだろうな」
「いや?我流だぞ?」
ジンからの言葉に驚く中、一人だけクロを抱いたままポカーンとしている人物がいた。
「ねえ…がりゅうって何?」
リーネは普段聞くことがない言葉だったためか首を傾げてサクヤに聞いていた。
それに答えたのは洗い物を終わらせたカグヤだった。
「自己流のことよ。自分ひとりで編み出したってこと。」
「ほえ〜。それすごいね。だからみんな驚いていたんだね」
「というかそこが疑問を持つところかしら…」
説明をするカグヤに対してジンは視線をカグヤに向けた。
「俺としてはこの人が思ったより強くて驚いたけどな」
「あら?ずいぶん上から目線じゃない?」
お互いに視線を合わせる様子を見てから大きく手を叩く音が響いた。
「そうだ!せっかくだから裏で腕試しなんてどうかしら?カグヤちゃん相手がいないって言っていたし!」
言いだしたのは意外にもサクヤだった。
こうこういったことは好きではないと思っていたキルにとっては意外な言葉だった。それだけに自然と視線がサクヤに動いてしまった。
「いいのか?そんなことして」
「大丈夫!裏にカグヤちゃんが組み手用にいつも使っている場所があるから。それに二人ともこのままだと納得いかないみたいだしね」
二人に視線を向けると今にも暴れだしそうな雰囲気を感じ、まったくその様子を感じとっていないのはリーネだけのようだった。
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「ここに来たのは久しぶりだなあ」
リーネは家の裏庭を見回していた。
広いグラウンド、周りには様々な銃や工具が転がっており、銃の一つ一つにはしっかりと手入れが施されていた。
「お前…俺の銃を見た時もそうだったが…ここまで集めると武器庫だな…」
「平気よ!ちゃんと暴発しないように弾は入れていないから」
カグヤは簡単に説明をしてから一つの銃を手に取った。
手に持ったのは黒いサブマシンガンでいくつか並んだマガジンから一つを手に取ってセットした。
「訓練用のペイント弾よ。これなら怪我はしないわよね。」
「俺はむしろお前の拳とかのほうが怖いぞ」
準備を進めていくカグヤを見て、ジンは力ない笑いを浮かべ、腰の刀を手に取って広場の中央に立った。
「それで?ルールはどうするの?」
「うーん…なら5分戦ってダウンを取った方が勝ちでよくない?」
「なら逆に5分過ぎた時は俺の負けでいいぞ」
リーネの問いに簡単にルールを決めていく中、ジンの言葉にカグヤはムッとした表情を浮かべた。
「つまり5分以内に私をダウンできるってわけね」
「んっ?まあそれくらいの逆行の方が燃えるからな」
二人のやり取りを見ながら、リーネとサクヤはどちらが勝つかと予想し合って楽しそうに笑い合い、その横でキルは二人に視線を向けて行き、大凡の戦闘の結果を予測した。
「ねえキルはどっちが勝つと思う?」
「さあな。」
リーネからの問いかけに対してキルはそっけなく答え、むくれるリーネをサクヤは頭を撫でて宥め、クロに至ってはサクヤに抱かれたまま欠伸を漏らしていた。
そんな緊張感がまったくない雰囲気の中で、カグヤとジンの組み手という名の真剣勝負は始まった。