複雑・ファジー小説
- Re: さよならトリップ ( No.1 )
- 日時: 2014/03/28 18:25
- 名前: パンジー (ID: gOBbXtG8)
桜並木が立ち並ぶ。咲き乱れる満開な桜が春の訪れを告げながら、温かなそよ風に自らの花弁を散らす。
近くでは冬眠していた生物たちが、そんな春の訪れを告げられ、ゆっくりと、ゆっくりと目を覚ましていく。
ここには、そんな桜並木で挟まれた、汚れ無き白い道がある。
その道を辿っていった奥にある学校では現在、卒業式を終えた生徒達で賑わっている。
それも、卒業証書を入れた高級な丸い筒を片手に、友人と共に涙を流す生徒ばかりだ。
荘厳な学校の大きな鐘が鳴り、卒業生の卒業を祝福している。
そんな中で、桜の花弁と共に長い水色の髪を遊ばせる一人の少女は、涙も流さず穏やかな表情を浮かべていた。
髪と同じ色をした目は澄み切った青空を見上げており、その清々しい笑みからは、卒業による悲しみなど全く感じられない。
だが、理由は至って単純なことだ。少女だけ、考え方が違う。それだけである。
卒業式は、終わりではない。始まりなんだ。そう思っているからだ。
そんな少女が空を見上げていると、彼女の名を呼ぶ少年の声が遠くから響いた。
「ユレイシアー」
名を呼ばれたその少女『ユレイシア・アルヴァンス』は、白いワンピースの裾と髪を翻し、声のした方向を振り返った。
「あ、ラルフィー」
ユレイシアは走ってくる少年『ラルフィー・ツウィルナージェ』に向けて小さな白い手を振った。
ラルフィーは鮮やかで美しい金髪をふわふわと揺らしながら、白いワイシャツに黒のボトムという動きにくそうな礼服でありつつも、数十メートル先で手を振る彼女の元へと走っていった。
数秒でユレイシアの元に着いた彼は、少し乱れた呼吸を整えてから髪と同じ色の目を彼女に向けた。
「ごめん。自分で呼び出しておいて、遅れちゃった」
「ううん、いいの」
後頭部を掻くラルファーに、ユレイシアは微笑みで返す。
思わず返された彼も、穏やかな笑みが浮かんだ。
ラルファーは、そんな彼女の笑顔が好きだった。
もっとユレイシアに幸せでいてほしい。これまでずっと、その事ばかりを考えていた。
だが、結局は考えあぐねる、或いは三日三晩考え抜いても実行に移せないような日々が続いていた。
なのでせめて、最後だけでも彼女に幸せを噛み締めさせてあげよう。そう思い、ラルファーはとある計画を遂行していた。
正確には、計画の計画を遂行している。そしてメインとなる計画は、今日が潮時だ。
今日彼がユレイシアを、此処『カルタシス魔法学園正門前』に呼び出したのもそれが関係している。
しかしその計画は、ユレイシアも知っている。彼女はその計画について話を聞き、とても喜んだ。
「じゃあ、一緒に旅に出よう。君に……その、幸せでいてほしいから……」
「……うん」
照れくさくラルファーが頬を桜色に染め、丁度視界の目の前を、桜の花弁を横切る。
それを見たユレイシアは、過ぎった桜の花弁とラルファーの頬の色とを重ねて見て、またにっこりと微笑むと、彼の未だ小さな手を柔らかく握った。
すると丁度、身長が同じという都合もあってか、不意に目が合った。
直りかけた白い頬を、ラルファーはまた桜色に染める。
だが、今回の彼には照れも何もない。真っ直ぐな目でユレイシアの瞳を見据えている。
そして、ラルファーは計画の計画を終了し、計画を始めた。
「卒業記念のワールドトラベル、始めよう」